16 / 74
一人で生きていくのは簡単じゃない。
しおりを挟む
働き疲れて借りてるお部屋に帰って寝巻きに着替え。
ぎゅーっと伸びてからお布団にダイブする。
四畳半くらいな広さの狭い部屋。ベッドとカビ臭いお布団、部屋に備え付けの小さなクローゼットが最初からついていた。
マロンさんに教えて貰った近所のアパートメントで、お手洗いも共用で当然お風呂は無し。
キッチンも共用だけどお湯沸かし程度しか使えないってそんなところだけど格安で。
まあほんと働いて寝に帰るだけのお部屋って感じ?
この辺りのお店の売り子のお給金はだいたい1日働いて銀貨一枚くらい。日給約三千円くらいが相場らしい。
三十日働いてやっと金貨三枚、三百オンス。約九万円くらいね。
旅人の宿屋が通常一泊銀貨二枚、六千円くらいはかかる。ああ、カーテンで仕切っただけの実質雑魚寝の最安は探せばあるらしいけど流石にちょっとごめんなさいだしね?
売り子のお給料で宿屋なんか泊まれないって話しかな。
まあこの辺は日本でも安いビジネスホテルでもそれくらいは掛かったから、しょうがないのかも。
でもってちょっと普通に生活できるだけのアパートメントは、最低でも一月金貨一枚は掛かる。宿よりはもちろん安いけど、家族向けだと金貨二枚はかかるところ。
ここはちょっとボロいけど最安で、月あたり銀貨五枚で借りられたのだ。一万五千円くらいね。
食事が一食だいたい二オンス、銅貨二枚は掛かるから(飲み物代を入れたらもっと?)、一月に食費だけで5~6万円は掛かる計算。ほんとこれじゃぁ若い女性の一人暮らしなんて無理がある。
家族で暮らして自炊できる環境なのなら少しは余裕が出るかもしれないけど、ほんと平民の暮らしは楽じゃないのがわかるよね。なんてったってパン一個でも銅貨一枚掛かるのだから。一般の平民がそう気軽に食べられるものでも無かったのだ。
ドーナツだってそう。
一個三百円って、安いようでお高い。初日に飲んだミルクティーも三百円なんだけど、これは日本の喫茶店感覚なら安めの価格だけど、それでも庶民にはやっぱり贅沢なのだ。
だから、ミスターマロンの客層は少しばかり裕福な方、ってことになる。
貴族のお屋敷で雇われている侍女さんのたまの贅沢、とか。
商家のお嬢様とか。奥様、とか。
もしくは夜のお店で働くお金に余裕のあるお姉さん、とか。
女性ばっかりあげたのは、どうしてもこうした甘いものを好むのは男性よりも女性だったりするからだけど、男性のお客さんの場合はお家へのお土産とか彼女さんと一緒に食べるのだとかそういうのがやっぱり多いかな。
王都の貴族のお茶会ではまだみたことが無かったから、この先はそっちにも需要があるかもしれないけどね。
どちらにしてもあたしの考えがすこしばっかり甘かったのは否めない。
働く場所さえあれば女一人生きていける、だなんて。
よっぽどの幸運でもないと難しいことだったんだなぁ。って。
ちょっと反省して。
身支度をしてお店に向かう。
あたしは清浄魔法で身綺麗にできるけど、普通の人はそれも大変なんだろうなぁ。
基本アパートメントにお風呂は無い。
お湯で身体を拭くくらいしかしないみたいだけど、お風呂って文化が下町にないわけでも無いの。
銭湯、っていうか、公共浴場はちゃんとある。
それもこの地がまだ帝国の属州だった頃に当時の総督が費用を出して作らせたという石造りの公共浴場が、今もちゃんと残っているの。
入浴料は銅貨三枚。九百円くらい。
週に一度はそっちに入りに行くかなぁ、って、今画策中。
マロンさんに話したら週末に行くつもりっていうから同行させてもらう予定。
ちょっと楽しみなんだ。
あ、もちろん自分でお金払うつもりだよ?
まだ最初に持ってきていたお金ほとんど手はつけていないもの。
そこまで甘えるのもどうかって、そんなふうにも思うしね。
「おはようございます」
「ああセレナちゃんおはよう。今日は昨日教えて貰ったローストナッツトッピングをお店にだそうと思ってね」
「はう。アランさんったらいつ寝てるんですかー? 根詰めすぎると倒れちゃいますよ」
どうやら早朝から追加のドーナツを作っていたらしいアランさん。一仕事終えたような格好になっている。
アランさんは基本夜のお店のコックさんもしてるから、閉店までぶっ通しで働いている。
朝並べる分のドーナツやマフィンはそんな夜のうちについでに作っておくがルーチンだったのに。
「はは。早くお客さんに新しいドーナツを試してもらいたくてね。朝市でナッツをいっぱい仕入れてきたんだよ。まあオレは体だけは丈夫だからね、大丈夫さ」
そう言って笑うアランさん。本当ならお店オープンしてから本格的にドーナツを作り始める時間なのに、疲れちゃってたら困るのに。
ほんともう。頑張りすぎだよ。
こんなにも頑張ってるアランさんだもの、報われてほしいなって、そう願ってる。
うん。少しでも役に立つよう、あたしも頑張らなきゃ。
店頭にドーナツを並べてお店を開ける。朝のこの時間はお仕事前に軽くお茶を飲んでってくれる男の人もいたりする。ドーナツはお土産? お茶とついでにマフィンを朝食がわりにする人もいる感じ。お昼には軽食も出していたりするけど、まだこの時間では受け付けてない。流石にアランさんの手が回らないからね。
だからドーナツは最小限しか並んでいないわけ、だけど……。
「おい、店員。そこにあるドーナツを全てくれ」
え?
見知らぬ男の人。初めて見る?
そんな数人の男性をひきつれたお客さんが、ドーナツを指差しそう言った。
全て? 全部?
確かに今お店に並んでいるのは100個くらいしかないけど、それでも全部?
調理場ではアランさんがドーナツを作ってる最中だけど、まだ完成までは小一時間かかるだろう。
「あの、ここのドーナツを全て、ですか? マフィンを除いて?」
「ああ、そうだ。早くしろ!」
うーん。
すごく横柄な感じのお客さんだけど、売れるのはまあ良いことだし。
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
あたしはそう言うとドーナツを数えながら袋に詰め始めた。
ぎゅーっと伸びてからお布団にダイブする。
四畳半くらいな広さの狭い部屋。ベッドとカビ臭いお布団、部屋に備え付けの小さなクローゼットが最初からついていた。
マロンさんに教えて貰った近所のアパートメントで、お手洗いも共用で当然お風呂は無し。
キッチンも共用だけどお湯沸かし程度しか使えないってそんなところだけど格安で。
まあほんと働いて寝に帰るだけのお部屋って感じ?
この辺りのお店の売り子のお給金はだいたい1日働いて銀貨一枚くらい。日給約三千円くらいが相場らしい。
三十日働いてやっと金貨三枚、三百オンス。約九万円くらいね。
旅人の宿屋が通常一泊銀貨二枚、六千円くらいはかかる。ああ、カーテンで仕切っただけの実質雑魚寝の最安は探せばあるらしいけど流石にちょっとごめんなさいだしね?
売り子のお給料で宿屋なんか泊まれないって話しかな。
まあこの辺は日本でも安いビジネスホテルでもそれくらいは掛かったから、しょうがないのかも。
でもってちょっと普通に生活できるだけのアパートメントは、最低でも一月金貨一枚は掛かる。宿よりはもちろん安いけど、家族向けだと金貨二枚はかかるところ。
ここはちょっとボロいけど最安で、月あたり銀貨五枚で借りられたのだ。一万五千円くらいね。
食事が一食だいたい二オンス、銅貨二枚は掛かるから(飲み物代を入れたらもっと?)、一月に食費だけで5~6万円は掛かる計算。ほんとこれじゃぁ若い女性の一人暮らしなんて無理がある。
家族で暮らして自炊できる環境なのなら少しは余裕が出るかもしれないけど、ほんと平民の暮らしは楽じゃないのがわかるよね。なんてったってパン一個でも銅貨一枚掛かるのだから。一般の平民がそう気軽に食べられるものでも無かったのだ。
ドーナツだってそう。
一個三百円って、安いようでお高い。初日に飲んだミルクティーも三百円なんだけど、これは日本の喫茶店感覚なら安めの価格だけど、それでも庶民にはやっぱり贅沢なのだ。
だから、ミスターマロンの客層は少しばかり裕福な方、ってことになる。
貴族のお屋敷で雇われている侍女さんのたまの贅沢、とか。
商家のお嬢様とか。奥様、とか。
もしくは夜のお店で働くお金に余裕のあるお姉さん、とか。
女性ばっかりあげたのは、どうしてもこうした甘いものを好むのは男性よりも女性だったりするからだけど、男性のお客さんの場合はお家へのお土産とか彼女さんと一緒に食べるのだとかそういうのがやっぱり多いかな。
王都の貴族のお茶会ではまだみたことが無かったから、この先はそっちにも需要があるかもしれないけどね。
どちらにしてもあたしの考えがすこしばっかり甘かったのは否めない。
働く場所さえあれば女一人生きていける、だなんて。
よっぽどの幸運でもないと難しいことだったんだなぁ。って。
ちょっと反省して。
身支度をしてお店に向かう。
あたしは清浄魔法で身綺麗にできるけど、普通の人はそれも大変なんだろうなぁ。
基本アパートメントにお風呂は無い。
お湯で身体を拭くくらいしかしないみたいだけど、お風呂って文化が下町にないわけでも無いの。
銭湯、っていうか、公共浴場はちゃんとある。
それもこの地がまだ帝国の属州だった頃に当時の総督が費用を出して作らせたという石造りの公共浴場が、今もちゃんと残っているの。
入浴料は銅貨三枚。九百円くらい。
週に一度はそっちに入りに行くかなぁ、って、今画策中。
マロンさんに話したら週末に行くつもりっていうから同行させてもらう予定。
ちょっと楽しみなんだ。
あ、もちろん自分でお金払うつもりだよ?
まだ最初に持ってきていたお金ほとんど手はつけていないもの。
そこまで甘えるのもどうかって、そんなふうにも思うしね。
「おはようございます」
「ああセレナちゃんおはよう。今日は昨日教えて貰ったローストナッツトッピングをお店にだそうと思ってね」
「はう。アランさんったらいつ寝てるんですかー? 根詰めすぎると倒れちゃいますよ」
どうやら早朝から追加のドーナツを作っていたらしいアランさん。一仕事終えたような格好になっている。
アランさんは基本夜のお店のコックさんもしてるから、閉店までぶっ通しで働いている。
朝並べる分のドーナツやマフィンはそんな夜のうちについでに作っておくがルーチンだったのに。
「はは。早くお客さんに新しいドーナツを試してもらいたくてね。朝市でナッツをいっぱい仕入れてきたんだよ。まあオレは体だけは丈夫だからね、大丈夫さ」
そう言って笑うアランさん。本当ならお店オープンしてから本格的にドーナツを作り始める時間なのに、疲れちゃってたら困るのに。
ほんともう。頑張りすぎだよ。
こんなにも頑張ってるアランさんだもの、報われてほしいなって、そう願ってる。
うん。少しでも役に立つよう、あたしも頑張らなきゃ。
店頭にドーナツを並べてお店を開ける。朝のこの時間はお仕事前に軽くお茶を飲んでってくれる男の人もいたりする。ドーナツはお土産? お茶とついでにマフィンを朝食がわりにする人もいる感じ。お昼には軽食も出していたりするけど、まだこの時間では受け付けてない。流石にアランさんの手が回らないからね。
だからドーナツは最小限しか並んでいないわけ、だけど……。
「おい、店員。そこにあるドーナツを全てくれ」
え?
見知らぬ男の人。初めて見る?
そんな数人の男性をひきつれたお客さんが、ドーナツを指差しそう言った。
全て? 全部?
確かに今お店に並んでいるのは100個くらいしかないけど、それでも全部?
調理場ではアランさんがドーナツを作ってる最中だけど、まだ完成までは小一時間かかるだろう。
「あの、ここのドーナツを全て、ですか? マフィンを除いて?」
「ああ、そうだ。早くしろ!」
うーん。
すごく横柄な感じのお客さんだけど、売れるのはまあ良いことだし。
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
あたしはそう言うとドーナツを数えながら袋に詰め始めた。
223
お気に入りに追加
2,858
あなたにおすすめの小説

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】
雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。
誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。
ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。
彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。
※読んでくださりありがとうございます。
ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

【完結】もう辛い片想いは卒業して結婚相手を探そうと思います
ユユ
恋愛
大家族で大富豪の伯爵家に産まれた令嬢には
好きな人がいた。
彼からすれば誰にでも向ける微笑みだったが
令嬢はそれで恋に落ちてしまった。
だけど彼は私を利用するだけで
振り向いてはくれない。
ある日、薬の過剰摂取をして
彼から離れようとした令嬢の話。
* 完結保証付き
* 3万文字未満
* 暇つぶしにご利用下さい
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】偽りの婚約のつもりが愛されていました
ユユ
恋愛
可憐な妹に何度も婚約者を奪われて生きてきた。
だけど私は子爵家の跡継ぎ。
騒ぎ立てることはしなかった。
子爵家の仕事を手伝い、婚約者を持つ令嬢として
慎ましく振る舞ってきた。
五人目の婚約者と妹は体を重ねた。
妹は身籠った。
父は跡継ぎと婚約相手を妹に変えて
私を今更嫁に出すと言った。
全てを奪われた私はもう我慢を止めた。
* 作り話です。
* 短めの話にするつもりです
* 暇つぶしにどうぞ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる