「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠

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お金の単位。

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「いらっしゃい!」
「お召し上がりですか? お持ち帰りですか?」

 威勢のいい店長さんの掛け声に振り向くと、ショーケースの前に立っているお客さん。
 あたしはニコニコと笑顔を振りまき声をかける。

「これとこれは食べていきます。残りは持ち帰りで」

「ご一緒にお飲み物はいかがですか? 今日のおすすめは甘々なアップルティーです。とっても美味しいんですよ」

「じゃぁそれにしようかな。あ、あたたかい方でお願いしますね」

「はい。それでは合計で6オンスになりますね。ありがとうございます。ご用意しますのでお席で少々お待ちくださいませ」

 笑顔をふりまき接客してお客さんが選んだドーナツを袋に詰めて。
 トレイにアップルティーを用意して店内で飲食するドーナツをお皿に載せお客さんの席まで運んだ。

「お待たせいたしました。ごゆっくりお召し上がりくださいませ」

 にっこり笑顔でそう商品の載ったトレイをお客さんの席のテーブルに置くと、

「ありがとう」

 そう笑顔で返してくれた。

 ふふふ。なんだかとっても嬉しい。


 ハニーグレイズとシュガードーナツも好評だ。
 ここのところあの悪い人たちも現れなくて、お客さんも戻ってきたみたい。少しずつだけど売り上げもあがってきた。
 口コミでおいしいドーナツの噂を聞きつけたのだろう。とくに若い女性のお客様が多い。
 あきらかにメイドさん風で、ご主人のためのお使いに来たついでに自分も少しだけ食べて帰るって、そんな人もいた。
 壊れたショーケースはガラス部分をとっぱらい、お客さんが自由に好きなドーナツを取れるようにした。
 入り口にトレイとトングを置いて、それを持って並んでもらう。
 レジの所で他の注文も一緒にお伺いする形?
 前世の日本だと割とそういうセルフ形式も増えてたけど、この世界でもすでにモックパンさんが同じような販売方法を行っているらしいからお客さんには違和感なく受け入れられた。
 今までのようにお客さんがこれだのあれだの言うのを店員が取ってトレイに載せる方式だと、ドーナツに名前の表示がないこのお店では効率が悪すぎた。
 文字が読めなくても、今ならお客さんが自由に好きなものを取っててくれるから、あとはそれを袋に詰めたりお皿に載せたりするだけだから楽だしね。

 お値段も簡単。
 ドーナツもマフィンも一個1オンス。
 ドリンクも一杯1オンス。
 ドーナツ5個にドリンク一杯で6オンス。
 銅貨6枚になる。ね? 簡単でしょ?

「オンス」とはこの世界のお金の単位。前世の世界の重さの単位に響きが似てるけどまったく別物だ。1オンスがだいたい日本の物価で300円くらいの価格で流通している。その下の単位が「オン」で、100オンで1オンスとなる。銅貨一枚が1オンス。10オンスが銀貨。100オンスで金貨一枚になるかな。金貨一枚で3万円くらいと思えばわかりやすい?
 その下の単位は1オンが黄銅貨、10オンが青銅貨、50オンが白銅貨。
 これらは全て帝国の金融局で作られて帝国内の各国で統一されたものが使われている。
 まあそれもこの100年くらいな話らしいけど。それまではギルとかゴールドとかいろんな地方でいろんなお金があったって習ったかな。
 それが統一されたのは、商人がけっこう力をつけてきたおかげだというの。
 各国をまたぐ商人ギルド。あっちの国でもこっちの国でも同じブランドを展開する大商会。
 そういった経済活動がスムーズにできるように考えられたのがこうした貨幣の統一なのだそう。

 この硬貨、金銀などをまったく同じ含有量で作るには微妙に製造原価の方が高くなる事から偽造をするような国家等は基本出ない仕組みになっている。
 もちろんそれでも含有量を減らした偽硬貨を作るやからはどこの世界にもいるもので、そういうものが流通しないような工夫も実はある。
 全ての硬貨には特殊な魔法印が押してあり、判別用の魔法具を翳せばすぐにわかるのだ。
 両替商などや商人ギルドでは常にそういった検査を行っている。
 やっぱり硬貨の価値が毀損したら困るものね。

 あたしという店番がいることで、アランさんはドーナツ作りに精を出すことができた。
 以前よりたくさんつくってもそれがどんどん捌けていくので本当に嬉しい。
 もともとマロンさんが店番を手伝っていたんだけど、マロンさんにも夜の食材の買い出しとかドリンク作ったりとかお仕事いっぱいあって大変だったみたい。

 役にたててるならほんと嬉しいなぁ。

 マロンさんがせめてと言って、毎食の賄いと部屋代は出してくれることになったからお店の床で眠らなくてもよくはなった。なかなか熟睡もできなくて困ってたから素直に受けて。
 今度はトッピングドーナツも提案しようかな。もっともっと繁盛してくれるといいな。
 そんなふうににまにま考えていた時だった。

「やぁセレナ。楽しそうだね」

 そう、ふんわりと笑みを浮かべながら金色の騎士様がお店に入ってきた。
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