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転生特典?
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なんだか腹が立ってきた。なんでこんなことで我慢しなきゃなんないの!?
(え?)
だいたいね、自分の気持ちを内向きに抑えすぎなんだわ! いいじゃない、あんな男。こっちから振ってあげなさいよ!
(だって、そんな)
だってもこうもないわ! だめよ振り向いてくれない男にいつまでもいいようにこき使われて。そんなのぜったいにダメ。お飾りの妻なんてまっぴらごめんよ! もっと自由に生きましょう!
(だけど、貴族の娘は家の為に生きるのが当たり前ですもの。自分の意思で自由に生きるだなんて……)
だったら貴族なんてやめちゃいましょう? いいのよ。あたしの人生はあたしのもの。他の誰のものでもないわ!
(貴族を、やめる?)
そう。貴族なんて面倒なのはもうまっぴら。やめちゃいましょう。
(そう、か。やめちゃえば、いいんだ……)
♢ ♢ ♢
夢の中でそう囁く自分の声。なんだか自分の中にもう一人自分がいるような、そんな不思議な感覚の夢。
全てが夢だったかのような気さえする。
「もう腹が立つなぁ。セリーヌは我慢しすぎなのよ!!」
起き抜けにそう叫んで。ガバッと布団を持ち上げた。
(あれ?)
見覚えのない寝具。ロココ調? 目に映るのは白が基調な美麗なお部屋。
猫足の可愛らしいチェスト。シルクのようにサラサラとして見えるレースのカーテン。
床には毛足の長い上品そうな絨毯が敷き詰められたもうほんとどこのヨーロッパの王宮よ! って思うようなそんな豪奢なお部屋にいた。
(え? え? え? どういうこと!!?)
あたしは、芹那。松本芹那。
だけど……。
長い夢を見ていた気がしてた。
どこかの異世界恋愛の小説に出てくるような異世界貴族の公爵令嬢として生まれて育つ、そんなゆめ。
って。
え?
夢、じゃ、なかった?
ここはあたしの部屋だ。
それも、アルシェード公爵家のお屋敷の、あたしの寝室。
だんだんと記憶が戻ってくる。
夢だと思ってたのは夢じゃなくって現実、だった。
あたし、セリーヌ。セリーヌ・リンデンバーグ公爵令嬢。ううん、今はセリーヌ・アルシェード公爵夫人、だ。
パトリック様が大好きで、彼の奥さんになれて嬉しかった、はずだった、のに。
ブワッと涙が溢れてくる。
これはセリーヌの感情。
ああ。そうか。
あたしったら本当に彼のことが好きだったんだなぁ。
そんなふうに感慨深くって。
でも。
同時に自分が松本芹那だって意識もこの心の中にちゃんとある。
っていうか、これって異世界転生?
あたし、セリーヌとして転生したってこと?
日本の、よくある異世界転生の小説みたいに自分がこんな異世界に転生してただなんてすぐにはちょっと信じられなかったけれど、目に映るこの世界の豪奢な貴族のお部屋を見てしまうとそれが真実そうなのだろうなってどこか諦観してしまうあたし。
そういえば、なんだけど、あたしはちょっと特殊な魔法が使えたんだった。
火風水土の四属性に加え、聖属性の光魔法に闇属性の黒魔法
この世界で知られている魔法はこの6種類。
ああ、ほんとよくある異世界魔法、だよね。
でもあたしの魔法はちょっと特殊で。
何にもないただのお水を小瓶に入れ、自分の中の魔力をそこに注ぐだけでなんといろんな種類のポーションができてしまうという、特技?
普通薬用ポーションを作る場合は薬草などから薬効を抽出しそこに魔力を込めることで完成する。
魔力が多ければ多いほどいいし、その魔力の属性も影響してくるんだったっけ、かな。
結構特殊な技術と色々な知識に鍛錬も必要で、ポーション作成技師は『錬金術師』という職業名で呼ばれたりもする。
それでも、そんな錬金術師たちでさえ素材もなしにただの水に魔力、マナを注ぐだけでポーションを作るなんてことができるだなんて聞いたことが無かった。
貴族の子女はみな五歳の時にその魔力属性を調べられる。
あたしの主属性は水属性。でも実は他の属性も全て持っている全属性だった。魔力量もかなり多くて。
貴族はみなその魔力の属性の多さと魔力量にこだわる。
だから公爵家令嬢ともなればそんな魔力の多さも「あって当たり前」扱いされてたから、そこまで特別視もされてなさそうだった。あたしのその普通とはちょっと違うかもしれない「特技?」は、なんだかしゃべっちゃいけないような気がしてて内緒にしてたけど。
よく考えたらこれってもしかして神様に与えられた転生特典? みたいなもの? だったのだろうか。
不慮の死を遂げた主人公が神様によって異世界に転生させてもらえるお話。
異世界転生のお話には決まって主人公に転生チートのような特典? が、与えられていた。
ああもちろん恋愛ものなんかにはそんなものは無いお話もあったけど、そこはそれ。
魔法がメインになるお話だったら主人公だけが使えるチート能力っていうのはほんと当たり前のように存在していたの。
ずる?
そうだよね。ちょっとずるっぽいそんな能力。
人より優れたそんな能力を使って無双するのが異世界転生のお約束みたいなものだったんだけど。
あたしの場合はこれ、だろうか?
(え?)
だいたいね、自分の気持ちを内向きに抑えすぎなんだわ! いいじゃない、あんな男。こっちから振ってあげなさいよ!
(だって、そんな)
だってもこうもないわ! だめよ振り向いてくれない男にいつまでもいいようにこき使われて。そんなのぜったいにダメ。お飾りの妻なんてまっぴらごめんよ! もっと自由に生きましょう!
(だけど、貴族の娘は家の為に生きるのが当たり前ですもの。自分の意思で自由に生きるだなんて……)
だったら貴族なんてやめちゃいましょう? いいのよ。あたしの人生はあたしのもの。他の誰のものでもないわ!
(貴族を、やめる?)
そう。貴族なんて面倒なのはもうまっぴら。やめちゃいましょう。
(そう、か。やめちゃえば、いいんだ……)
♢ ♢ ♢
夢の中でそう囁く自分の声。なんだか自分の中にもう一人自分がいるような、そんな不思議な感覚の夢。
全てが夢だったかのような気さえする。
「もう腹が立つなぁ。セリーヌは我慢しすぎなのよ!!」
起き抜けにそう叫んで。ガバッと布団を持ち上げた。
(あれ?)
見覚えのない寝具。ロココ調? 目に映るのは白が基調な美麗なお部屋。
猫足の可愛らしいチェスト。シルクのようにサラサラとして見えるレースのカーテン。
床には毛足の長い上品そうな絨毯が敷き詰められたもうほんとどこのヨーロッパの王宮よ! って思うようなそんな豪奢なお部屋にいた。
(え? え? え? どういうこと!!?)
あたしは、芹那。松本芹那。
だけど……。
長い夢を見ていた気がしてた。
どこかの異世界恋愛の小説に出てくるような異世界貴族の公爵令嬢として生まれて育つ、そんなゆめ。
って。
え?
夢、じゃ、なかった?
ここはあたしの部屋だ。
それも、アルシェード公爵家のお屋敷の、あたしの寝室。
だんだんと記憶が戻ってくる。
夢だと思ってたのは夢じゃなくって現実、だった。
あたし、セリーヌ。セリーヌ・リンデンバーグ公爵令嬢。ううん、今はセリーヌ・アルシェード公爵夫人、だ。
パトリック様が大好きで、彼の奥さんになれて嬉しかった、はずだった、のに。
ブワッと涙が溢れてくる。
これはセリーヌの感情。
ああ。そうか。
あたしったら本当に彼のことが好きだったんだなぁ。
そんなふうに感慨深くって。
でも。
同時に自分が松本芹那だって意識もこの心の中にちゃんとある。
っていうか、これって異世界転生?
あたし、セリーヌとして転生したってこと?
日本の、よくある異世界転生の小説みたいに自分がこんな異世界に転生してただなんてすぐにはちょっと信じられなかったけれど、目に映るこの世界の豪奢な貴族のお部屋を見てしまうとそれが真実そうなのだろうなってどこか諦観してしまうあたし。
そういえば、なんだけど、あたしはちょっと特殊な魔法が使えたんだった。
火風水土の四属性に加え、聖属性の光魔法に闇属性の黒魔法
この世界で知られている魔法はこの6種類。
ああ、ほんとよくある異世界魔法、だよね。
でもあたしの魔法はちょっと特殊で。
何にもないただのお水を小瓶に入れ、自分の中の魔力をそこに注ぐだけでなんといろんな種類のポーションができてしまうという、特技?
普通薬用ポーションを作る場合は薬草などから薬効を抽出しそこに魔力を込めることで完成する。
魔力が多ければ多いほどいいし、その魔力の属性も影響してくるんだったっけ、かな。
結構特殊な技術と色々な知識に鍛錬も必要で、ポーション作成技師は『錬金術師』という職業名で呼ばれたりもする。
それでも、そんな錬金術師たちでさえ素材もなしにただの水に魔力、マナを注ぐだけでポーションを作るなんてことができるだなんて聞いたことが無かった。
貴族の子女はみな五歳の時にその魔力属性を調べられる。
あたしの主属性は水属性。でも実は他の属性も全て持っている全属性だった。魔力量もかなり多くて。
貴族はみなその魔力の属性の多さと魔力量にこだわる。
だから公爵家令嬢ともなればそんな魔力の多さも「あって当たり前」扱いされてたから、そこまで特別視もされてなさそうだった。あたしのその普通とはちょっと違うかもしれない「特技?」は、なんだかしゃべっちゃいけないような気がしてて内緒にしてたけど。
よく考えたらこれってもしかして神様に与えられた転生特典? みたいなもの? だったのだろうか。
不慮の死を遂げた主人公が神様によって異世界に転生させてもらえるお話。
異世界転生のお話には決まって主人公に転生チートのような特典? が、与えられていた。
ああもちろん恋愛ものなんかにはそんなものは無いお話もあったけど、そこはそれ。
魔法がメインになるお話だったら主人公だけが使えるチート能力っていうのはほんと当たり前のように存在していたの。
ずる?
そうだよね。ちょっとずるっぽいそんな能力。
人より優れたそんな能力を使って無双するのが異世界転生のお約束みたいなものだったんだけど。
あたしの場合はこれ、だろうか?
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