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お屋敷で。
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♢ ♢ ♢
おうちに到着して馬車から下ろしてもらった後。
「ではお嬢様、私はこの馬車を片づけて参ります。簡単な説明を文書にし大奥様にはあらかじめ送っておきましたから」
そう言ってセバスリーにいさま、馬車を引いて馬屋の方へ行ってしまった。
お屋敷のお迎えはもう揃っているしにいさまがいなくても問題はないのだけど、少しだけ寂しく感じて。
きっと、王子たちを連れ立って帰ってきたのでなかったら、こんな大仰な出迎えもなく、にいさまもわたくしの私室まで送ってくれたのだろうに。と、ちょっと殿下二人を心の中で恨んで。
そりゃあ、この二人をここまで連れてくることにしたのもわたくしですし、自業自得と言えばそれまでなのですけれど、でも、ですよ?
わたくしに他にどんな選択肢があったと言うのでしょう?
いくら身分を隠したお忍びだからと言っても、彼らがこの国の王子であるのは紛れもない事実。
それを知っているわたくしが、彼らを無下に扱えるわけはないではないですか。
魔具の手紙は人が移動するよりもずっと早く相手に届く。
コストはそれなりにかかりますが、緊急時などには重宝しますし、それに。
例えば聖都とこの領都との連絡とかそういう遠距離であれば、人が単独で配達するよりは低コストで届きます。
まあ、こんな狭い領都の中ではわざわざ使わないというだけの話。
それだけにいさまにしてみれば、自分達が帰宅する前に詳細を知らせたかったということでしょう。
「お帰りなさい、アナスターシア。そしてこのような場所にわざわざおいで頂きありがとうございます両殿下」
はわわ。
お婆さまったら、口調は穏やかですけれどお顔が完全に歓迎しているそれではないですよね。
まあ、いくら王族とはいえ、いや、王族だからこそ、でしょうか?
なんの先触れもなくこうして一貴族の領地に訪れるなど、あってはいけないことですし。
もちろんスタンフォード侯爵家としては王族が領地を訪問したいと仰れば、臣下としてはお断りすることは難しいですし。
その場合はそれ相応のおもてなしも必要になるでしょう。
それでも。
こうしてお忍びでいきなり訪問するとか。
それも王でなく王子の身分にあるものが、そういう不作法をするというのは。
本来の貴族社会ではあり得ないことでしょう。
当然、縁戚でもあるマギウス殿下であればまた事情が違いますが、先日わたくしに公の場で婚約破棄をなさったレムレス殿下であれば尚のこと。
このスタンフォード侯爵家を馬鹿にしていると思われても致し方ない所業でもあります。
屋敷にいる家臣の全てをエントランスに並べ、そうしてその真ん中で堂々と立ちこちらを見つめるレティシア様。
そのお顔は貴族の鏡のように感情を表に出してはおりませんが、それでもその瞳は侯爵家を預かる威厳に満ちて。
「まずはこのような形でここアルルカンドを訪問した無礼を許してほしい。決して他意はない。私は先日の行為をここにいるアナスターシアに直接謝罪したかっただけなのだ」
え?
お婆さまの威厳に押されることなく一歩前にでたレムレス殿下。
まずそんなふうに頭を下げ謝罪の言葉を述べた。
って、殿下が自ら頭を下げるなんて。
それに。
「レティシア前侯爵夫人。こうしてこの屋敷に直接訪ねてくることになってしまって本当に申し訳なかった。長居をするつもりは無いしなんならアナスターシアに話をさせてもらえたら、このまま出て行っても構わない。だた少し、ほんの少しの時間で構わない。アナスターシアと二人きりにさせてもらえないだろうか?」
え?
二人きり?
困惑するわたくしの顔を見て、お婆さま。
「そうですね、どうやらうちの孫娘の方が心の準備ができていない様子です。今夜はどうぞ、お部屋を用意いたしましたからそちらでお休みください。お食事の用意もできております。そのお話は明日、また日を改めてお伺いいたしましょう」
そうはなしをまとめてくださった。
頭の中が混乱して少し考える時間が欲しかったから、本当に助かったとお婆さまに感謝して。
おうちに到着して馬車から下ろしてもらった後。
「ではお嬢様、私はこの馬車を片づけて参ります。簡単な説明を文書にし大奥様にはあらかじめ送っておきましたから」
そう言ってセバスリーにいさま、馬車を引いて馬屋の方へ行ってしまった。
お屋敷のお迎えはもう揃っているしにいさまがいなくても問題はないのだけど、少しだけ寂しく感じて。
きっと、王子たちを連れ立って帰ってきたのでなかったら、こんな大仰な出迎えもなく、にいさまもわたくしの私室まで送ってくれたのだろうに。と、ちょっと殿下二人を心の中で恨んで。
そりゃあ、この二人をここまで連れてくることにしたのもわたくしですし、自業自得と言えばそれまでなのですけれど、でも、ですよ?
わたくしに他にどんな選択肢があったと言うのでしょう?
いくら身分を隠したお忍びだからと言っても、彼らがこの国の王子であるのは紛れもない事実。
それを知っているわたくしが、彼らを無下に扱えるわけはないではないですか。
魔具の手紙は人が移動するよりもずっと早く相手に届く。
コストはそれなりにかかりますが、緊急時などには重宝しますし、それに。
例えば聖都とこの領都との連絡とかそういう遠距離であれば、人が単独で配達するよりは低コストで届きます。
まあ、こんな狭い領都の中ではわざわざ使わないというだけの話。
それだけにいさまにしてみれば、自分達が帰宅する前に詳細を知らせたかったということでしょう。
「お帰りなさい、アナスターシア。そしてこのような場所にわざわざおいで頂きありがとうございます両殿下」
はわわ。
お婆さまったら、口調は穏やかですけれどお顔が完全に歓迎しているそれではないですよね。
まあ、いくら王族とはいえ、いや、王族だからこそ、でしょうか?
なんの先触れもなくこうして一貴族の領地に訪れるなど、あってはいけないことですし。
もちろんスタンフォード侯爵家としては王族が領地を訪問したいと仰れば、臣下としてはお断りすることは難しいですし。
その場合はそれ相応のおもてなしも必要になるでしょう。
それでも。
こうしてお忍びでいきなり訪問するとか。
それも王でなく王子の身分にあるものが、そういう不作法をするというのは。
本来の貴族社会ではあり得ないことでしょう。
当然、縁戚でもあるマギウス殿下であればまた事情が違いますが、先日わたくしに公の場で婚約破棄をなさったレムレス殿下であれば尚のこと。
このスタンフォード侯爵家を馬鹿にしていると思われても致し方ない所業でもあります。
屋敷にいる家臣の全てをエントランスに並べ、そうしてその真ん中で堂々と立ちこちらを見つめるレティシア様。
そのお顔は貴族の鏡のように感情を表に出してはおりませんが、それでもその瞳は侯爵家を預かる威厳に満ちて。
「まずはこのような形でここアルルカンドを訪問した無礼を許してほしい。決して他意はない。私は先日の行為をここにいるアナスターシアに直接謝罪したかっただけなのだ」
え?
お婆さまの威厳に押されることなく一歩前にでたレムレス殿下。
まずそんなふうに頭を下げ謝罪の言葉を述べた。
って、殿下が自ら頭を下げるなんて。
それに。
「レティシア前侯爵夫人。こうしてこの屋敷に直接訪ねてくることになってしまって本当に申し訳なかった。長居をするつもりは無いしなんならアナスターシアに話をさせてもらえたら、このまま出て行っても構わない。だた少し、ほんの少しの時間で構わない。アナスターシアと二人きりにさせてもらえないだろうか?」
え?
二人きり?
困惑するわたくしの顔を見て、お婆さま。
「そうですね、どうやらうちの孫娘の方が心の準備ができていない様子です。今夜はどうぞ、お部屋を用意いたしましたからそちらでお休みください。お食事の用意もできております。そのお話は明日、また日を改めてお伺いいたしましょう」
そうはなしをまとめてくださった。
頭の中が混乱して少し考える時間が欲しかったから、本当に助かったとお婆さまに感謝して。
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