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全てを見透かすような怖さを。
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「だからさー。兄さんを連れてなんとかあの丘まで来た時にはもう日が暮れる寸前、街に入る前に最後の野宿をしようと準備してたわけ。っていうか僕だけならいっくらでも街に入る方法があったけど、兄さんもいっしょでしょ? 身分を偽るにしても準備してこなかったし何も考え無しに飛び出してきたからさ、この兄さんは。さす流石に領都に入るのに工夫も無しだと難しいと思ってさ」
ブスッとした顔で黙り込んでるレムレス殿下の隣で笑みを浮かべながら軽快に語るマギウス殿下。
っていうかこの方こんなに陽気な方だったのね? もっと小さい時にしか会ってないから知らなかったけど、随分とおとなしい子だった記憶しかないのですけど。
「で、いざ野宿をしようと寝袋に入ったところでナクル少年が赤髪狐に追われていることに気がついてね。流石に子供が野獣に襲われて命を失くすとか寝覚めが悪いじゃない? かといって魔法であいつら全滅させると大事になるしさ。取り合えず洞窟の奥に避難して、そこで結界はって様子を見てたってわけ。ナクル少年ももう満身創痍だったしね?」
ああ。そういえばマギウス殿下は魔法は上級者クラスなのですよね。本気を出せばあれくらいの野獣はどうということもないのでしょう。
——それだけじゃないわ。この子の影、レイスの中には護衛の魔道士が数人隠れているみたい。あの時もっと大勢の魔力紋を感じたし、間違いないわ。
え? じゃぁ。
——たぶん、本気になればどうとでもなったんでしょう。余裕はあったんじゃないかな?
そうか。そうですよねやっぱり。
最初に会った時も、野獣から命からがら逃れてるって雰囲気じゃなかったですもの。
——でも、いいの? このままおうちまで連れて行って。
え? だって。殿下たちをあんなところに置いておくわけにはいかないでしょう?
——だって、レムレスってあのレムレスでしょ? あの時の。まああの時の悪い魔はあたしが封印してるからこれ以上悪さすることはないだろうけど。
封印?
——そうよ? カナリヤの中にいた異世界人の魂と一緒に封印してるの。あの子は解き放っちゃうとまた別の犠牲者に憑依しかねなかったから緊急避難的にね?
はう。そうだったの。
——あの子かなり性格歪んでたから、ちゃんと心入れ替えるまで反省してもらわないと。なまじっかこの世界で力があったから余計にダメだったんだろうけど。今はデウスの鍵で彼女の加護ごとロックして封印してあるから何もできないけどね。
はう。ああでも、そうしたら、どういう事?
もしかしたらレムレス様、もしかしたらそんな悪い魔に取り憑かれていたからあんな事をしたっていう事?
もしかしたら、もしかしたら、あの婚約破棄は、悪い魔のせいだって、そういうの??
「うーん、はとこ殿はほんとに僕の母親の血族の血を色濃く受け継いでるね。その銀の髪もそう。あいにくと僕はこんな髪色だけれど」
馬車の対面の座席から乗り出すようにしてこちらを覗き込むマギウス。
その亜麻色の髪は、それでも確かにコレット家の血筋の証のはずで。
「ああでもわたくし確か、コレット家の初代フランソワ様が亜麻色の髪だと聞いたような」
「え? それ、一体どこで、誰に聞いたの!?」
「それはもちろんファ——」
「にゃぁ!」
「痛い! ファフナ!」
わたくしの膝の上に丸くなってたファフナがいきなり爪をたてて立ち上がった。
前足もうしろ足も、ぎゅっと伸ばして爪を思いっきり立てて。
——バカアーシャ! 何口走ってるのよ!
あ、ごめんファフナ。
なんだか考え事していたらついつい。
「ごめんねごめんねファフナ」
そう彼女の白銀の毛並みを撫で回し、機嫌を直してもらう。
そんなわたくしを目の前のマギウス殿下は興味深げに覗き込んでいた。
一見優しくはみえるものの、その瞳は全てをみすかしているような、そんな怖さを感じた。
ブスッとした顔で黙り込んでるレムレス殿下の隣で笑みを浮かべながら軽快に語るマギウス殿下。
っていうかこの方こんなに陽気な方だったのね? もっと小さい時にしか会ってないから知らなかったけど、随分とおとなしい子だった記憶しかないのですけど。
「で、いざ野宿をしようと寝袋に入ったところでナクル少年が赤髪狐に追われていることに気がついてね。流石に子供が野獣に襲われて命を失くすとか寝覚めが悪いじゃない? かといって魔法であいつら全滅させると大事になるしさ。取り合えず洞窟の奥に避難して、そこで結界はって様子を見てたってわけ。ナクル少年ももう満身創痍だったしね?」
ああ。そういえばマギウス殿下は魔法は上級者クラスなのですよね。本気を出せばあれくらいの野獣はどうということもないのでしょう。
——それだけじゃないわ。この子の影、レイスの中には護衛の魔道士が数人隠れているみたい。あの時もっと大勢の魔力紋を感じたし、間違いないわ。
え? じゃぁ。
——たぶん、本気になればどうとでもなったんでしょう。余裕はあったんじゃないかな?
そうか。そうですよねやっぱり。
最初に会った時も、野獣から命からがら逃れてるって雰囲気じゃなかったですもの。
——でも、いいの? このままおうちまで連れて行って。
え? だって。殿下たちをあんなところに置いておくわけにはいかないでしょう?
——だって、レムレスってあのレムレスでしょ? あの時の。まああの時の悪い魔はあたしが封印してるからこれ以上悪さすることはないだろうけど。
封印?
——そうよ? カナリヤの中にいた異世界人の魂と一緒に封印してるの。あの子は解き放っちゃうとまた別の犠牲者に憑依しかねなかったから緊急避難的にね?
はう。そうだったの。
——あの子かなり性格歪んでたから、ちゃんと心入れ替えるまで反省してもらわないと。なまじっかこの世界で力があったから余計にダメだったんだろうけど。今はデウスの鍵で彼女の加護ごとロックして封印してあるから何もできないけどね。
はう。ああでも、そうしたら、どういう事?
もしかしたらレムレス様、もしかしたらそんな悪い魔に取り憑かれていたからあんな事をしたっていう事?
もしかしたら、もしかしたら、あの婚約破棄は、悪い魔のせいだって、そういうの??
「うーん、はとこ殿はほんとに僕の母親の血族の血を色濃く受け継いでるね。その銀の髪もそう。あいにくと僕はこんな髪色だけれど」
馬車の対面の座席から乗り出すようにしてこちらを覗き込むマギウス。
その亜麻色の髪は、それでも確かにコレット家の血筋の証のはずで。
「ああでもわたくし確か、コレット家の初代フランソワ様が亜麻色の髪だと聞いたような」
「え? それ、一体どこで、誰に聞いたの!?」
「それはもちろんファ——」
「にゃぁ!」
「痛い! ファフナ!」
わたくしの膝の上に丸くなってたファフナがいきなり爪をたてて立ち上がった。
前足もうしろ足も、ぎゅっと伸ばして爪を思いっきり立てて。
——バカアーシャ! 何口走ってるのよ!
あ、ごめんファフナ。
なんだか考え事していたらついつい。
「ごめんねごめんねファフナ」
そう彼女の白銀の毛並みを撫で回し、機嫌を直してもらう。
そんなわたくしを目の前のマギウス殿下は興味深げに覗き込んでいた。
一見優しくはみえるものの、その瞳は全てをみすかしているような、そんな怖さを感じた。
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