わたくし、お飾り聖女じゃありません!

友坂 悠

文字の大きさ
上 下
45 / 57

洞窟の奥で。

しおりを挟む
「ふむ、岩盤が崩れ落ちるなどをした形跡もどうやらありませんし、こんな入り口近くにこれだけの野獣が集まっているところを見ると、ナクル少年はこの赤髪狐から逃れ奥まで行ってしまい出てこられなくなった可能性もありますね」

「そうだな、旦那のいうように周囲の壁に異常は無い。岩盤がどこかで崩れて出られなくなった可能性よりも、野獣が入り口を塞いでて帰れなくなったって考える方がいいかもな。まあ、あの赤髪狐にやられてしまった可能性もないではないが……」

「そんな……」

 ——うん? この奥右手の道をもっと奥まで行ったあたりに誰かの魔力紋を感じるよ。ナクルくんかも?

 はう、ほんと? ファフナ。

 ——さっきまで赤髪狐の反応が大きすぎて気が付かなかったけど、あれは人間だと思う!

 ありがとう!!

「みなさん! この奥の右手側に人がいるのを感じます! ナクルくんかもしれません。急ぎましょう」

 わたくしのその言葉にみなさん、

「聖女さまがそうおっしゃるなら間違いねえ」
「ああ、急ごうぜ」

 と、そう足を進めました。

 入り口からしばらくは広めの坑道が続いていて、特に赤髪狐が屯していた場所は少し広い場所になっていましたが、基本的にここまではずっと一本道でした。
 それでもその先は坑道の分岐が続いて。
 わたくしはファフナの指し示してくれる方向に、みなさんを誘導し、何とか人の気配がする方へと向かいます。

 ——ん? 前方にいる人、一人じゃないみたい。割と大勢? どういう事?

 え?

 それって。

「みなさん、ごめんなさい。前方にいる人、どうやら一人じゃないみたいです。ちょっと気をつけて進みましょう」

 前にいる人がもしも悪い人たちだったら困ります。

 どうしましょう。

 ううん、それでもそこにナクルくんがいるかもしれないのです。

「侵入者が他にも?」

「盗掘にきたのか?」

 動揺の声。

 念のために、もう一度みなさんにバフをかけます。
 キュア! アウラ! お願いね!

 泥棒さんの人ならいきなりこちらを攻撃してくることも考えなきゃですし。

「にいさま、気をつけてください」

 わたくしはにいさまの腕に触れ、そう小声で呟いて。

「ああ、大丈夫だよ。お嬢様は私が命に変えても守るから」

 そうこちらを見て微笑むセバスリーにいさま。

 もう。わたくしはそういう無理をしてほしくないだけなのに。

 ——しょうがないわ。貴女、愛されているもの。

 はう、ファフナ。

 ずっとわたくしの肩に乗ったままのファフナ。
 その小さな体は全然重くはないのですけど、時々頭を頬に擦り付けてくれて。

 ふふ。くすぐったいわ。ファフナ。

 ——にゃぁ。時々こうしないと落ち着かないのよー。元々のファフナの心があなたを好きで好きでしょうがないって言ってるわ。

 もう、そういうこと言われると気が緩んじゃう。

 ——良いのよ。危険だ危険だって思って体を固くしているより、そうしてリラックスしていた方が冷静な判断ができるのだから。


 にいさまの微笑みと、ファフナのそんなもふもふに。
 わたくしの心はすっかりと癒されて。

 目の前を冷静に眺めることができるようになってみると。

 道の奥に、3人の少年が固まって座っているのが見えました。

 って、あれ? 嘘! どうして!!?

 ううん、でも間違いない。
 わたくしが見間違いなんかするわけがない。

 でもどうして!
 どうしてレムレス殿下がこんなところにいるの!?
 どうして!?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

処理中です...