わたくし、お飾り聖女じゃありません!

友坂 悠

文字の大きさ
上 下
34 / 57

ネットワーク。

しおりを挟む
「まさかセバスリー様が冒険者登録をなさるとは思いませんでしたわ」
 カウンターの中からそう笑顔で話すルミーナさん。
 ああでも彼女、セバスリーにいさまの事ご存じだったのですね。

「まあ、その。お嬢様の社会勉強も兼ねて、ですけどね。冒険者登録自体は後々役に立つだろうというのは本音ですよ」

「あら、ではこちらが領主様のお嬢様? ふふ。お母様と似てらしてとってもチャーミングなお嬢様ね。セバスリー様ったらいっつもお嬢様自慢をされてましたし」
「ルミーナさん!」

「まあまぁ、ごめんなさいね、でも、冒険者登録をしてくださるのなら常時依頼分の野獣も冒険者価格で買い取ることも可能にはなりますから。セバスリー様が持ち込む野獣を安値で引き取るのはこちらも気が引けていましたから」

「しかし通常はEランクから登録となるはずでしょう? ランクが低いうちはせいぜい薬草の買い取りくらいしか常時依頼といえども受けられないのでは?」

「それはもちろん、セバスリー様ほどの実力者であれば飛び級での登録となりますわ。私の権限でまずはCランクからということでいかがでしょう?」

「え? 良いのですかそんなこと」

「もちろんです。私の見立てではセバスリー様の実力はBランク、いえ、Aにも届くかと思われますが、流石にまったく功績のない方をそこまで押し上げるのは周囲に悪影響を与えかねない為、Cランクよりのスタートとさせていただきました。申し訳ありませんがご納得下さいますよう」


 ルミーナさんはそのボリューミーな綺麗な巻毛をふわさっとかきあげ、こちらを見て笑みをこぼす。その妖艶な微笑みはとても綺麗で。

 はうう。会話を聞いている限りではやっぱりこのお方ただの受付のお姉さんには思えないかも。

「ルミーナ様って……」

 不思議すぎて思わずそう口走ってしまって。わたくしの疑問に応えるようににいさま。

「お嬢様、この方はこちらの冒険者ギルドのギルド長をなさっているルミーナ・バッケンバウワー様です。お父上のブラン様は騎士爵で騎士団の要職についていらっしゃいます」

「ギルド長様!!」

「ふふ、アナスターシア様。ギルド長と言っても私はまだまだ若輩ですから。ベテランの方々に助けていただいて何とかやっているところですわ」

「そういって、ルミーナ様はかなりのやり手ですからね。ギルド内の改革に手をつけたり悪徳冒険者の摘発をしたりとこの数年でかなり風通しをよくしてくれてますよ。あたしたちはそれで随分と助かっています」

 ルミーナさんの背後から受付のお姉さんポイ方がそう声をあげて。

「そうですね。こちらのギルドが円滑に運営されているのはルミーナ様のおかげですよね。領内で冒険者同士の諍いもほとんどありませんし」

 そう、にいさまも。

 やっぱりすごい方なのねと尊敬の眼差しで見つめてしまうわたくし。

「みなさん、褒めすぎよ。お嬢様が勘違いなさるわ」

 と、照れたように微笑むルミーナ様もすごく可愛らしくて素敵でした。

 ♢ ♢ ♢

 ■冒険者登録は一生のうち一回のみ可能。魔力紋を登録する為例え別の街であっても出自を偽り登録しようとするべからず。
 ■罪を犯したものはその罪の償いが終了するまで登録は不可能である。また、ギルド登録メンバーが罪を犯した場合、その罪に応じて資格停止等の処分が下される。
 ■ギルドカードを紛失したものは速やかに申し出、再度発行すること。
 ■他人のギルドカードを自分の物と偽り使用しようとする者は、その後永久的に資格停止とする。

 随分と厳しいことが書かれた注意事項の紙。
 にいさまは一緒に渡された登録用紙に必要事項を記入しカウンターまで持って行く。

「ではこの石板に手を置いてくださいませ」

 ルミーナさんと交代したさっきの受付嬢さんが、そう言いながら真っ黒の平べったい板を目の前に置いて。
 すごく滑らかな、ガラスのような光沢のある漆黒の板。
 これが登録の石板でしょうか。
 ご本人の魔力紋をこれを使って登録するのでしょう。
 でも、その魔力紋の情報をどうやって遠く離れたギルド間で共有するのでしょうか?

 ——これも『ギア』でできてるわね。プランクブレーンを通じて一度『マザー』に接続して、そこから全世界のタブレットギアと接続してる感じ。

 はう、ファフナ。わかるのですか?

 ——接続を媒介してるのも真那マナだしね。うん。でもほんと興味深いね。多重世界のこんな場所にもここまでのネットワークを組んでるなんて。

 え? ファフナ?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

処理中です...