わたくし、お飾り聖女じゃありません!

友坂 悠

文字の大きさ
上 下
29 / 57

永い永い年月を。

しおりを挟む
 ——仕方ないわね。あたしは登録しているところを見られたら満足だからそれでもいいわよ? アーシャはお父様にちゃんと許可をもらってからもう一回来ましょ?

(そうですね……。そのほうがいいですよね? ああもう、絶対お父様を説得して見せるんだから!)

 ——ふふ。そうね。その意気よ!

 確かに考えてみればにいさまのいう通りだ。わたくしがわがままを言って皆を困らせるのも不本意だしそれに。
 にいさまが登録をしてみせてくれるっておっしゃって下さったのは、わたくしのためだってわかるから。

「ありがとうございます。にいさま。わたくし、嬉しいです!」

 そう言ってにいさまに抱きついた。
 ちょっとお顔が赤くなったにいさま。はう、そういえばにいさまったら彼女さんとかいらっしゃるのかしら?
 こんなにかっこいいにいさまですもの、きっと周りの女性がほっておきませんよね?

 そんなふうににいさまを見つめてみる。
 この三年、ずっとお会いしていなかったから、にいさまも変わってしまったかとわたくしのことなんか忘れてしまったかと少し心配していましたが、やっぱり昔のままの優しいにいさまがそこに見えた。
 ふふ。
 なんだかすごく嬉しくなって。

 わたくしはにいさまの胸に猫のように頭を擦り付けた。

 ♢ ♢ ♢

 冒険者ギルドはちょうど商店街の端、人の往来の終着点に当たる大通りの端にあった。
 大きな煉瓦造りのその建物は、周囲の街が白を基調とした煉瓦であるのに対し、ここら辺ではあまり見ない赤茶けた煉瓦でできている。

 四階建てのその建物の中央に、大きな両開きのスイングドアが付いている。
 目線の位置はちょうど隠れているものの下や上に空間が空いていて、きっとこれが外から入る時の敷居を下げている工夫かなとも思って。

 他ではあまり見かけない建物の作りに驚いていると、にいさまが、
「ギルドは世界各国同じ造りの建物になっているそうだよ。聖都にもここと同じ建物があるそうだしね」
 と、教えてくれる。
「他の街にもあるのですか?」

「いや、国内にはここと聖都以外にはあと三か所、北方のハッシュブルクと南方のサウザンド、そして西のイオニアにあるそうだよ。いずれも交通の要所となる開けた街だから、こういうギルドが早くからつくられていたのだろうね」

「イオニアといったら、お母様のご実家のマーデン男爵領からも近いです!」

「そうそう。ギルドのある街にはデウス教の大聖堂もあるから、お嬢様は産まれてすぐの洗礼式はイオニアに赴いたのかもしれないね。お嬢様、お母様のシルフィーナさまがご実家に里帰りなさっている間にお産まれになっているから、その可能性が高いかもしれないよ」

 はう。
 そっか。わたくしは産まれてすぐにイオニアに行った事があるのかな。
 今度お母様に聞いてみなくっちゃ。

 ——そっか。あれは大聖堂だったのかな。なにやら金ピカに祀られているデウスの像とかが壁一面にひろがっていた覚えがあるよ。

 え? ファフナ。

 ——アーシャったらまだ目もしっかり開いてなかったから、あたしもうっすらとしか見えなかったけど。随分と悪趣味だなぁってそう思ったもの。

 はうう。
 ファフナったらそんな昔の事。

 ——あら、あたしにとってはほんの一瞬出来事だったわ。貴女が産まれてからいままでなんて。

 そっか。
 ファフナはもっともっと昔から、この世界にいるのですもの。
 わたくしが幼い頃のことなんて、ほんのちょっと前くらな感覚なのでしょうか?
 でも。永い永い年月を生きるって、なんだか少し、寂しいような気もします。
 もしかしてファフナも?

 ——ふふ。アーシャ、ありがとう。それでもわたくしは、今が一番楽しいわ。貴女と一緒にこうして生きるのは、ほんとに楽しいの。



 ああ、ファフナ。
 わたくしも貴女と一緒にいられて本当によかったって思っています。
 大好き。ファフナ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

処理中です...