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冒険者。

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 ファフナを肩に乗せて、わたくしはにいさまの腕をとって。
 あ、エスコートみたいな上品な感じじゃないのですよ? どちらかと言ったら長身のにいさまの腕にくっついている、みたいな感じでしょうか?
 両手でにいさまの腕にしがみついている、そんな。

 そのまま横を歩いても良かったのですけれど、こうしていると楽なのですもの。
 はたから見るときっと子供が大人に甘えているみたいに見えるかもですが、それはそれでいいのです。
 こうしていると人混みでもはぐれたりしませんし、それに。
 街の中の色々にあっちこっちに目がいって、足元をしっかり見ている余裕がなくなっているわたくしとしては、こうしてにいさまに寄りかかっていると不意に転びそうになることもないですしね。
 にいさまも、わたくしの安全第一を考えて下さってさりげなく腰を支えて下さっていますから。
 何だかすごく安心なのです。

 街を歩くにあたって、当然わたくしは貴族の令嬢のような服装はやめてきました。
 だって、領主の娘が街を歩いてるなんてバレたらきっと人が寄ってきて面倒なことになるでしょう?
 この街では領主の一族は敬愛の対象で、お婆さまもお父様もお母様も、それはそれは街のみなさまから愛されているのは知っています。
 夏祭りの時なんかにもお役人さん達と奔走して頑張っているお母様の姿を子供の頃から見てきて、自分も大きくなったらお母様みたいになるんだって、そう思っていましたし。
 それでも。
 もう三年こちらに帰ってきていないわたくしは、きっとみなさまからは忘れられているはずです。容姿も少しは変わっているでしょうしね?
 だからこうして変装すればきっと誰もわたくしだと気がつかないはず。

 街娘、では芸がないなとそう思ったわたくし。
 かと言って商人のお嬢様風では貴族の娘とそう変わりはありません。
 ここは。
 髪は後ろで括って一つにしてポニーテールに。
 赤い皮のベストを着込んで、スカートも動きやすいものに変えてきました。
 編み上げのブーツに両腕にも皮の手甲。
 そうです。
 冒険者風な装いに変えてきたのです。

 にいさまは厚手のデニム生地のズボンにベスト。
 皮のブーツが似合っています。
 わたくしに合わせて馬車を出す前にさっと着替えてきてくれました。

 冒険者、というのは結構あらくれものみたいな目で見られることも多いですが、この大陸の中では割とメジャーな職業らしいです。
 各国を渡り歩いて冒険をするイメージでしょうか?
 世界を股にかけ旅をする旅商人さんの護衛をなさったり、野獣を狩ったりするそうです。
 この国は割と清浄な真那マナが多く、魔獣が現れることはあまりありません。
 それこそ魔獣なんかが現れた時は、騎士団の出番なのです。
 うちのお父様はそういう国の防衛のために剣と魔法で戦う騎士団の騎士団長を務めていますし、領地の自警団も頑張っています。
 それでも。
 魔獣ほどのランクではないにしても、魔に侵された生き物は魔物や野獣になって暴れたりするので、森の奥や街はずれの街道なんかは結構危険なのですよね。
 だから。
 そういう日常の危険から人々を守るお仕事。
 それが冒険者さんたちの役割でもあるのです。


 そんな冒険者さんたちは冒険者ギルドというところで冒険者登録をしていると聞きました。

 世界各国を旅する関係上、冒険者という職業は国家の枠に縛られないのです。
 ああ、もちろん国籍はちゃんと所属が決まっている人も、冒険者という肩書きがあれば割とどこの国でも自由に旅をすることができる、というか。
 各種ギルドの石板で登録したギルドカードは、その本人の魔力紋を登録する唯一無二の身分証となるのです。
 ほんとどういう仕組みになっているんでしょう?
 各国にあるギルドはその石板のネットワークで結ばれていて、一度登録したら二重に登録することはできないのですって。
 不思議ですよね。

 ——ギアのネットワークよね。プランクブレーンを通じて結ばれているんじゃないかな。

 はう、ファフナ。

 ——今日の目的の一つでもあったでしょう? ギルドでの登録。あは。楽しみ。

 そうです。ファフナがこの世界のギルドの石板を見てみたいって。
 今日の街歩きの目的の一つはそれでした。
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