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にいさま、大好き!
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アルルカンドの領都アルルは経済的には首都の聖都に匹敵する規模を誇る。
それでも、その治安はよその大都市とは比べ物にならないほど良いので。
聖都だと貴族の子女が出歩く時には護衛を二、三人連れていないと心配されるけれど、このアルルでなら割と自由に振る舞えるはず。そう思っていた。
結局にいさまに護衛を任せての外出となったわけだけど、それでもセバスリーにいさまなら一緒に歩くのも嫌じゃない。
馬車の御者もにいさまが努めてくれたから、ほんと二人っきりの散策だ。
——あら、あたしも忘れないでね?
そんなことを考えていたらそうファフナからチャチャが入って。
「ごめんねファフナ。忘れてないわよ。あなたはわたくしの大事な相棒ですもの」
そう膝の上のファフナをなで回している間に、商店街の入り口に到着。
カツカツと、蹄の音が歩く速度に変わると、そのまま駐車場に到着したみたい。
繋ぎ場に馬を繋ぎ、にいさまがドアに手をかけ。
「お嬢様、到着しました。扉を開けますね」
と声をかけてくれて。
「ありがとうにいさま」
わたくしはそう微笑みながらにいさまのお顔を覗き込み。
差し出される手をとって、ゆっくりと馬車から降ります。
ファフナも、ぴょんと飛び降りて。
さっとわたくしの肩の上に登ってきました。
降ろした髪の隙間から顔を出して、にゃぁと鳴くファフナ。
「ああ、大丈夫ですか? 爪を立てられて痛くないです?」
そう心配してくれるにいさま。
「ええ、大丈夫です。ファフナはわたくしには爪を立てませんから」
ほんと、そう。
彼女はそのへんはしっかりわきまえてる。
爪を立てると痛いんだって、ちゃんとわかっててくれるから安心なの。
「そうですか、それならばいいのですが。あと、私の事を兄様と呼ぶのはあまり……」
「だめですか……? お屋敷とかの人目があるところでは我慢してるのですけど……」
そう、ちょっとシュンとなるわたくし。
だって、にいさまはにいさまなんだもの。そう呼んじゃだめだって言われたら、なんだか距離が離れていってしまったみたいで寂しいですし……。
恋愛感情とかそういうのじゃないのは自覚している。でも、子供の頃から家族同様に育ってきて、ずっと大好きだったセバスリーにいさま。
甘えているのだという自覚はある。
わがままを言っても許してくれる。そんな安心感があることも。
「しょうがないな。ほんと、二人きりの時だけだからね?」
そう言ってわたくしの頭をくしゃくしゃって撫でてくれるにいさま。
この撫で方、お父様に撫でられる時と一緒。
わたくしの一番好きな撫でられ方。
ふふ。
「ありがとうにいさま!」
わたくしは思わずそうにいさまに抱きついて。
——もう、甘えん坊のお子様ね、アーシャは。
そうファフナにも呆れられてしまったのでした。
それでも、その治安はよその大都市とは比べ物にならないほど良いので。
聖都だと貴族の子女が出歩く時には護衛を二、三人連れていないと心配されるけれど、このアルルでなら割と自由に振る舞えるはず。そう思っていた。
結局にいさまに護衛を任せての外出となったわけだけど、それでもセバスリーにいさまなら一緒に歩くのも嫌じゃない。
馬車の御者もにいさまが努めてくれたから、ほんと二人っきりの散策だ。
——あら、あたしも忘れないでね?
そんなことを考えていたらそうファフナからチャチャが入って。
「ごめんねファフナ。忘れてないわよ。あなたはわたくしの大事な相棒ですもの」
そう膝の上のファフナをなで回している間に、商店街の入り口に到着。
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差し出される手をとって、ゆっくりと馬車から降ります。
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さっとわたくしの肩の上に登ってきました。
降ろした髪の隙間から顔を出して、にゃぁと鳴くファフナ。
「ああ、大丈夫ですか? 爪を立てられて痛くないです?」
そう心配してくれるにいさま。
「ええ、大丈夫です。ファフナはわたくしには爪を立てませんから」
ほんと、そう。
彼女はそのへんはしっかりわきまえてる。
爪を立てると痛いんだって、ちゃんとわかっててくれるから安心なの。
「そうですか、それならばいいのですが。あと、私の事を兄様と呼ぶのはあまり……」
「だめですか……? お屋敷とかの人目があるところでは我慢してるのですけど……」
そう、ちょっとシュンとなるわたくし。
だって、にいさまはにいさまなんだもの。そう呼んじゃだめだって言われたら、なんだか距離が離れていってしまったみたいで寂しいですし……。
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甘えているのだという自覚はある。
わがままを言っても許してくれる。そんな安心感があることも。
「しょうがないな。ほんと、二人きりの時だけだからね?」
そう言ってわたくしの頭をくしゃくしゃって撫でてくれるにいさま。
この撫で方、お父様に撫でられる時と一緒。
わたくしの一番好きな撫でられ方。
ふふ。
「ありがとうにいさま!」
わたくしは思わずそうにいさまに抱きついて。
——もう、甘えん坊のお子様ね、アーシャは。
そうファフナにも呆れられてしまったのでした。
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