わたくし、お飾り聖女じゃありません!

友坂 悠

文字の大きさ
上 下
23 / 57

レティシア様。

しおりを挟む
「まあまあアーシャ。大きくなったわね」

 そう出迎えてくれたお婆さま、レティシア様。
 夜色の綺麗な髪、お父様とよく似た顔立ちの美しいお婆さまは、まだまだお婆さまと呼ぶには申し訳ないくらいにはお若く見える。
 だからわたくしも小さい頃からお婆さまの事をレティシア様って呼んでいるのだけど。

 大きくなったって、わたくしってそんなに変わったのかしら?
 そういえば前にお婆さまにお会いしたのは聖女に選ばれる前だから、そう考えるとわたくしも少しは成長しているのかしら? と、そう嬉しくなる。

「お久しぶりですレティシア様。お会いできて嬉しいです」

 わたくしはそう淑女の礼をとる。
 わたくしだって3年も聖女の職を勤め上げた立派なレディなのですもの。
 いつまでもお子様にはみられたく無いってそんな思いが先に来て。

 前にお婆さまにお会いした時はそういえば会うなり思いっきり抱きついてしまっていたかしら?
 とか。
 いっぱい甘えてしまってたかしら?
 とか。
 少し恥ずかしい思い出が頭をよぎって。

「ふふ。もうすっかり大人の女性に見えますね。さあアナスターシア。まず旅の疲れを落としに温泉に入りましょうか? 入浴の準備は整っていますよ。その後で晩餐にいたしましょう」

 そう手招きするレティシア様。

「ああ、猫ちゃんも一緒に入ります?」

 と、最後にそうわたくしの胸につかまって丸くなっているファフナにもそう笑顔を見せる。

 にゃっとびっくりしたようにわたくしの顔を見つめるファフナ。
 あー。
 このお顔は、お風呂入りたくないってお顔です。

「ありがとうございます。ファフナはお部屋で休ませますわ。長旅で疲れているみたいです」

 と、侍女のアンミラにファフナを預け。

 ——お風呂に入ったら寝ちゃいそう。だからあたしはお部屋でゆっくりしてるわね。

(ええ、そういうことにしておきますね。ファフナ。ゆっくり寝てて)

 そう心の中で会話をし、わたくしはお婆さまについて浴場へと向かいました。



 白亜の壁の綺麗な浴場は、帰省した時の楽しみの一つです。
 ぽっかりと口を開けた大きな猫の顔の彫像から、こんこんと沸き出すように注がれる手触りのいいサラサラとしたお湯。
 大きな湯船は子供の頃にはそこで泳ぐ真似をしてはしゃいだものですが、今はわたくしももう大人ですもの、足元から優雅に浸かり、はふうと声を漏らします。

「アナスターシアももうすっかり大人になったわね、月日の経つのは早いわ」

「ありがとうございますレティシア様。わたくしももう十五ですもの。いつまでも子供ではありませんわ」

 と、そう言ってはみたものの。

 こうしてお風呂に一緒に入るとどうしても意識してしまいます。

 お婆さまは本当にまだまだ若々しくて、お胸もこんなにも豊満なのに。
 わたくしの胸はどうしてこんなにもスレンダーなのだろうか、と。

 そんな事を考えたら、気分もシュンと落ちてしまいました。

「大丈夫よアーシャ。あなたはまだまだ成長期なのですもの。これからよ?」

 わたくしのそんな顔を見て察したのでしょうか。お婆さまにそう慰められて。


 最後に、専用湯船で侍女さんに髪をゆったりと洗ってもらったわたくしたち。
 体も気分もほかほかになってお風呂から上がったのでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

処理中です...