わたくし、お飾り聖女じゃありません!

友坂 悠

文字の大きさ
上 下
21 / 57

加護。

しおりを挟む
 ナリス様は優しい。

 わたくしには勿体無いほどの殿方だと思う。

 わたくしのことを愛してくださっていたとわかった時には本当に嬉しかったし、結婚のお約束をくださるなんてとその時には幸せで頭の中がいっぱいでそれ以上考えられなくなっていました。

 けれど。
 冷静に考えてみると、そう簡単には物事は運ばないのだなぁと。
 そう半分諦めも入ってしまっています。

 こうしてスタンフォード侯爵家のお屋敷に帰ってきてしまったわたくしには、もうあまり積極的に彼に会いにお伺いすることもできずで。

「ああごめんよ私の可愛いアナスターシア。お前をあんな王子と婚約させたことは私にとって痛恨の極みだった。もう王族に嫁げなどとは言わないよ。お前はこの家で好きなだけ過ごせばいいのだからね。なーに、王家からの横槍など私が跳ね返してあげるから。心配しなくていいんだよ」

 おうちに帰るなり事情を聞いたお父様がわたくしを抱きしめてそうおっしゃったかと思うと。
 それ以降、そのままずっとお部屋で過ごしているわたくし。

 幸いファフナがいたから話し相手には困らなかったけれど、あの後色々とどうなったのかも聞きそびれ。

 わたくし宛に来るお手紙は、どうやら皆執事のセバスがお父様のところに持っていってしまうみたいで。

 はああ。
 流石にこれはやりすぎじゃぁないかしらと抗議に行くと。

「あんなことがあったんだ。心無い手紙がもし届いてお前が悲しんだりするのは私は耐えられないからね。いいんだよアナスターシア。お前は何も考えなくとも。ゆっくり養生しておくれ」

 と、耳を貸してくださらなくて。

 お母様も、その隣で静かに微笑んでいるだけなのですもの。もうどうしたらいいのかしら?

 お母様の白銀の艶やかな髪は今でもとても素敵で。
 ファフナが天使モードになった時の髪とその色艶はそっくりに見える。

 正直、ファフナに生えている猫耳がなければ、顔形もその瞳もきっとお母様の子供の頃とそっくりなのだろう。
 これがコレット家の血筋なのかどうかはわからないけど、ナリス様のお母様のフランソワ様も、お母様のお母様であるおばあさまも、そしてお母様のお姉様のアルテイア様も、どことなく皆ファフナと顔立ちが似ているのだ。
 ああ、実はもちろんこのわたくしも。
 そんな中でも、髪色まで全くファフナと一緒なのはお母様だけ。
 きっと、お母様はまだお婆さまのお腹の中にいる時から、グラムスレイヤーの影響を受けていたのかな?
 人としての枷が外され、加護マギアスキルが限界まで解放された状態。
 それがあの白銀の髪となっているのではないだろうか?
 そんな気もする。

 お母様が子供の頃から魔力特性値がほぼ無限大に近いレベルで高かったというのは、今や伝説の域に達している。
 先日のわたくしはファフナによって少し鍵を開けてもらった状態だったけれど子供の頃からずっとそんな状態だったお母様って……。
 大変だったろうな。そうも思ってしまう。
 だって、鍵が開いた状態って、とっても苦しいのですもの。
 わたくしがまだ慣れていないだけなのかもしれないけれど。
 でも。
 気をつけないとすぐ意識を失ってしまうくらいには、体に負担をかけている。
 そんな状態で。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

処理中です...