わたくし、お飾り聖女じゃありません!

友坂 悠

文字の大きさ
上 下
17 / 57

0-8 ファフナ。

しおりを挟む

 ♢ ♢ ♢

 気がついた時。

 わたくしがいたのは聖女庁の自室ではなく、郊外にあるコレット家の屋敷のお部屋のベッドの上でした。

 一瞬わけがわからなくてお布団をはねあげ廊下に出ると、ばあやのアンネットが心配そうな顔をしてこちらを見ていました。

「ああ、アンネット、わたくし……」

 どうやって帰ってきたのかも記憶がありません。どなたかが連れてきてくださったのかしら?
 そう思って事情を尋ねようと思ったのですが……。

「お嬢様、おかえりになるなり夕飯もお召し上がりにならないままお部屋に篭ってしまわれて。ばあやは心配で心配で生きた心地がいたしませんでした。遅くなってしまいましたがお食事の用意はできておりますよ。どういたします? まだご気分がすぐれないのならお部屋にお運びしましょうか?」

 はう?

「わたくし、一人で帰ってきたのでしょうか……?」

「ええ、ご連絡もなく急にお帰りで。様子がいつもと違っておりましたから、何か悪いものでもお召し上がりになったんではないかと心配しておりました」

 安心したのか、それではお部屋にお食事をお持ちいたしますねと戻っていくばあやの後ろ姿を眺めながら。
 わたくしは混乱した頭の中を整理して。

 確か、白銀の聖女様と同化? して。
 神の魔法の権能を解放して。
 それから、えっと……。

 あ、そうそう、聖女様がお帰りになったんだったっけ、それから後の記憶がないんだわ。

 一体どういうことなんでしょう。その後、わたくし、夢遊病の患者のようにふらふらとここまで帰ってきたのかしら?


 ベッドの所にまで戻って、ボスんと腰掛ける。
 って、ちゃんと部屋着というか寝巻きに着替えてるし?

「にゃぁ」
 ベッドに座ったらそうかわいい声で近づいてきてくれた愛猫、ファフナ。
 真っ白なその長毛をもふもふと撫でて。

 気持ちよさそうな顔で甘えてくれる彼女に。

「今日はなんだかほんと大変だったのよ。ファフナ」

 と、そう声をかけた。

 もふもふ撫でながら顔とか喉元とかを移動するそのわたくしの手に、頭をこしこし擦り付けるファフナ。

「にゃぁ。あたしったら貴女のその手が好きになっちゃった。もうしばらくこの子の体を借りて、こっちにいようかな」

 へ?

「にゃぁ。はう、手が止まってる。もっとそこ、撫でて」

 そう撫でを催促するファフナ、って、ファフナ!!?

「えー!! どういうことですか!? 聖女様、ですよね!?」

「にゃぁ。そうだよ。あ、あたしの半分はちゃんと元の世界に戻ったから安心して。でもって半分は貴女の中に残ったの」

 はう、もしかして……。

「まあね、あのまま帰ったら貴女のレイス、マナの嵐でプチンと潰れちゃったかも知れなかったから。扉を閉める係で半分残ったの。そんでもってここまでちゃんと貴女の体を運んできてあげたんだから感謝してよね」

「ああ、ああ、ありがとうございます聖女様」

 あ、でも。そうしたら……、残ったこの子はもう帰る事ができないのでは?

「大丈夫。半分帰れたら、後はなんとかすれば向こうに行く手段も作れるから。分離しても、ちゃんとレイスの奥底でつながってるのよ。それよりも、ほらまた手が止まってる。もっと撫でて。あたし、貴女の手、好きよ」


 真っ白で。
 キラキラ銀色にも見えるそんな毛並みの美しいファフナ。
 オッドアイのその瞳がこちらをじっと見つめています。

 ああもう。
 だめです。ファフナのもふもふには勝てません。

「じゃぁこれからいっぱいもふもふしましょうね」

 そう言って思いっきり彼女をもふったわたくし。

 きっと今、思いっきりの笑顔になっていると思います。
 こういうのも良いかもしれません。

 ほんと、しあわせです。


        
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

処理中です...