わたくし、お飾り聖女じゃありません!

友坂 悠

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「あら。やっぱり貴女、デウスの鍵を持ってるのね」

 はう? デウスの鍵、ですか? 神の魔法のことでしょうか?

「あなたのそのレイスの中にあるのがそうよ。門を開けたり閉めたり、そういう使い方をするものなんだけど」

 白銀の聖女さま、わたくしの胸の奥に開いたゲートを覗き込んでそう仰って。

「まずはあの綻びかけたブレーンをなんとかしましょ。あの魔法陣ったらいい加減な作りをしてるから、空間に無理な負荷をかけてるしね」

 そう。わたくしの顔を見つめ、ゆったりと笑みをこぼします。


「させん! この魔法陣を閉じるなど! せっかくここまで開いたのだ」

「あなたバカね! こんな不良品で無理やりブレーンを破いたりして! このままだとこの世界ごとパチンと弾けちゃうわよ!」

「不良品とは! 現に貴女をここに召喚できたではないか!」

「そうね、いきなり次元嵐が起きて巻き込まれたのよ。こんな不良品のせいでね! ああ、もしかしてあなたの中にも異界の魔のカケラが落ちてない? あなたのレイス、澱んでいるわ」

「澱んでいる? 何をバカな。今の私は力に満ちている。この世界を手に入れるための力に!」

 殿下の魂が真っ赤になっていくのがわかります。赤く、血のように赤く澱んで。
 あれは、魔、でしょうか?

 白銀の聖女様がデウスの鍵とおっしゃった神の魔法を発動させれば、目の前の魔法陣はなんとか消し去ることができるでしょう。
 でも、あの殿下の心に巣くった魔の闇もそのままにしておくわけにもいきません、ね。

 《あは。貴女優しいのね。あんなクズほおっておけばいいのに》

 あれでももとは心優しい方でしたので……。
 って今のは?
 わたくしの心に直接聖女様の声が聞こえてきました?
 もしかして、わたくしの心も筒抜けですか?

 《ええ、貴女のレイスのゲートが開いた時、あたしの心と同調したみたい。それよりも》

 聖女様、わたくしの瞳をぎゅうっと覗き込んで。

 《うん、いけるかも。ちょっと貴女の体、借りるわね?》

 へ?
 そう思ったのも束の間。
 白銀の聖女の体が銀色に鈍く光って、わたくしの体と重なり。
 そして——



 次に目を開けた時。
 わたくしは自分自身の身体が眩く光っているのに気がついて……。

 《ごめん、ちょっとあたしのマトリクスを貴女のマトリクスに融合させちゃった。この方が貴女の中にあったデウスの鍵を、もっと有効に使えるかもと思って》

 え? え? マトリクス?
 どうなってしまったのですか!!?

 なんだかわたくしの目の前に映る自分の手足は、今までと違って随分と華奢に見える。
 まるで少女の頃に戻ったみたいに。
 そして。
 目の前で揺れる白銀の髪。
 これって聖女様の?


 なんだか身体がふわふわと宙に浮いている感じもします。
 多分背中にあるのでしょう、白鳥の羽のような綺麗な羽がファサッと羽ばたいて視界を掠めました。

 やっぱり。
 聖女様は、天使様だったのですね……。


 怒りが頂点に達したのか、目の前のシャルル殿下からは真っ赤な血の色のオーラが噴き出て、悪魔のようなシルエットになってしまいました。
 鋭い眼光が、こちらをギロっと睨みつけています。

 周囲に発散させている圧力も大きいのか、周囲にいた聖女庁のお偉い方や、取り囲んでいた野次馬の方達は皆いつの間にか広間の端まで避難し、そこでかたまっていました。

 わたくしにはそこまで影響がないのは、やはり聖女様のお力のおかげでしょうか?

 《デウスの鍵でこじ開けて、貴女のマギアスキルの上限の枷をとりはらったの。目の前のおバカもちょっと人間の限界を超えちゃってるから、これくらいしないと危険かなって》

 ええ??

 《さあ、貴女の本来の権能を解放しちゃいなさい! いっけー!!》

 ああ。
 わたくしのレイスのゲートから、閉じ込めてあった神の魔法、デウスの鍵と共にあった力が解き放たれていきました。

 金色の光の本流が、目の前のシャルル殿下だったものに向かって放たれて、その真っ赤な血の色のオーラを溶かしていきます。
 苦しそうなお顔の殿下に、少しかわいそうな気持ちにもなりましたけどしょうがないです。
 きっと、この力は今の殿下の魔を浄化するためのもの。

 その嵐はそのまま魔法陣ごとシャルル殿下を飲み込んで——

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