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しおりを挟むざわざわと広間を取り囲んでいた方々、わたくしの顔を見ると、一瞬驚いた顔をした後、すすっと少しですが道を開けてくださいました。
これは。
もしかしたらもうわたくしが解任されたことは皆に周知されているのでしょうか?
ああ、もしかしないでもそうかもしれません。
いつもの侍女さんのお顔も見えます。
さっと会釈をしてくださいましたけど、その瞳には今までのようないわゆる「聖女様」を見るような色は無い感じです。
はうう。
これはやっぱりお昼にありつく可能性はなさそうでしょうか。
っと。
それよりも。
そうでした今はわたくしのお昼よりも、誘拐されたかもしれない聖女様の方が重要です。
何とか人混みの垣根を進み視界が確保できたとき。
そこには。
正面中程祭壇前に、白銀の髪の少女が佇んでいるのがわかりました。
床には魔法陣? あれは……。
こちらに背を向けていますが手前には王太子の金色のふわふわとした頭が見えます。
左右には聖女庁のお偉い方が勢揃いしておりました。
「フランソワ様……」
お偉い方のどなたかがそう呟くのが聞こえ。
中央手前のシャルル殿下がこちらに振り向き。
「貴様! 何故ここにいる!」
わたくしを睨みそう語気を荒げます。
「殿下。そんなことよりもその魔法陣はどうされたのですか」
わたくしは極力ゆったりとした声でそう尋ねました。
「お前には関係ないだろう」
「いえ、そちらは禁忌の魔法陣ではございませんか。聖女庁を統括する王太子殿下ならご存じないはずはないでしょう? そんなものを持ち出して。この世界が壊れてしまったらどうするのですか!」
ああ、最後は少し早口になってしまいました。反省です。
なるべく殿下を興奮させないようにと思ってはいましたが。
「ああ。前王室が絶えた原因だという話だったな。しかしそんなものは眉唾だ。現にこうして真の聖女を召喚することができたのだ。私はこの力を使い、世界を救ってみせる」
はう。なんということでしょう。
心優しい殿下だと、正義感のある立派な殿下だと、そう尊敬しておりましたのに。
心根がお優しくおっとりとした、どこか夢見がちな少年だと、そう微笑ましく思っておりましたのに。
今の殿下はまるで何かに取り憑かれでもしたかのように。
心の奥、魂の奥底が真っ赤に染まってしまっているのがわかります。
「その力は、人の手には余ります。世界を滅ぼす可能性を秘めているのですよ」
それでもなるべくおっとりと、声を荒げないように気をつけてそう諭すように言うと。
「お前に何がわかるというのだ! この能無しめ。お前のそのなんでもわかってるとでも言わんばかりの言動が、私はずっと気に入らなかった。ええい、邪魔をするのなら容赦はしない! 衛兵、そこのフランソワを捕らえよ!」
と、叫ぶ殿下。
はう。わたくしそこまで嫌われていたのでしょうか?
流石に少し悲しいです。
「しかし、殿下」
「そこのものは先ほど解任した。もはや聖女でもなんでもないただの貴族令嬢だ。今の言動はこの私、王太子であるこの私に対しての不敬である。いいから捕らえて地下牢にでも押し込んでおけ!」
わたくしの前に、おずおずとしてではありましたが衛兵たちが迫ってきます。
ああ、でも、どうしましょう。
あれをあのままにしておくわけにはまいりません。
わたくしには、あの禁忌の魔法陣を封じる義務があるのです。
わたくしの一族には、その責任があるのです。
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