わたくし、お飾り聖女じゃありません!

友坂 悠

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 なんだかバタバタと人が走り回り、そうして物音だけではなくガヤガヤとした人の声もいっぱいです。
 普段であればこの時間帯、お部屋の外、聖女庁のあるこの塔の中は割と閑散としているはずでした。
 ちょうど今は日中。お日様が真上にあって、少し傾いてきた頃合い。
 通常であればこの午後は、廊下に出ておしゃべりをしている者もほとんどいらっしゃいません。
 お掃除でバタバタされるのは午前中の方が多いですし、お昼ご飯を頂いた後はみななぜか本当静かに過ごすようなのです。

 と。
 お昼ご飯で思い出しました。

 そろそろご飯の時間でしょうか? と思っていた頃合いに王太子殿下が乗り込んでこられたせいか、今日はお昼食をいただきそびれました……。
 普段であれば侍女の方がお食事ですとカートに乗せて運んできてくださるのですが、ちょうど王太子がいらっしゃった所為でしょう。あのお声を聞いていらっしゃったのでしょうか。いつもの侍女さんは近づいてきてはくださらず。

 ああ、どうしましょう。
 お腹が空いては元気が出ません。
 このまま帰るのも、少し悲しいです。

「とっとと実家に帰るといい」とは言われましたが、なんとかお昼ご飯だけでも頂けないか?
 ちょっとだけ、外の様子を見てきましょうか。
 いつもの侍女さんがいらっしゃったら、何か食べ物をいただけないか尋ねてみましょう。




 ♢


「嫌です! なんであたしがそんな事しなきゃなんないの!」

 はい?
 広間の方から甲高い女性の声。
 まだお若い方でしょうか。

「こんな所に連れてきて! 帰してよ、あたしを元の世界に戻して!」

 はう。
 何があったのでしょう。なんだかすごく不穏な感じです。
 誘拐? まさか。

 多くの人が集まって広間の入り口を塞いでいます。かき分け中を覗くこともできずに、わたくしはその周りでウロウロするのも憚られ。
 様子は気になりますが、とりあえず今は食堂に向かうこととしましょうか。
 そう踵を返したところでした。

「聖女よ! お願いだ。この国を救ってほしい!」
 そう、王太子殿下の叫び声が聞こえ。

 これは……。
 先ほどの若い少女のような声の主が殿下のおっしゃっていた真の聖女ということでしょうか?
 まさか、聖女を誘拐してきたのですか!?

 いくらなんでもそれはあんまりです。わたくしは解任された身とはいえ元聖女。そのまま知らない顔もできません!

「ごめんなさい。ここを通してください」
 周囲の人々にそう声をかけ、わたくしは広間の中ほどに進みました。
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