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聖剣の舞。
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真っ青に晴れ渡る空の下。
聖緑祭の本番、神楽舞台での聖剣の舞の当日となって。
例年であればこの祭りが終わると雨季に入る。
神に奉納された真那をたっぷりと含んだ雨が大地を潤し、命の糧となり穀物のみならずすべての生き物の生育をはぐくんでゆくのだ。
そうしてこの国は護られてきた。
このアルメルセデスは神に護られた剣と魔法の国。
そんな神楽舞台の上で、わたくしは純白の神事の衣装を身に纏い、両手に宝剣を持って佇んでいた。
荘厳な神楽の音色が辺りに響く。
両手をあげ、シャンとその宝剣を鳴らすと、そのままゆったりと舞っていく。
聖剣の舞と呼ばれるその聖なる舞。
シャンとその宝剣を打ち鳴らし、弧を描くように舞っていくと、白銀の光が溢れ、そしてまたその光が剣を追いかけるように弧を描いていき。
くるり、くるりと回りながら、波のように踊る宝剣の舞。
そしてやがて眩い光がその剣先に集まっていったと思うと、大きく広がり神楽舞台全体を覆い隠す。
最後に。
舞台から空に、宙に向けて光の帯が放たれて。
そこで舞を終えた。
♢
「綺麗だったよアーシャ」
舞台の袖で待っていてくれたナリス様が、そう笑顔で迎えてくれた。
「禁忌の魔法陣も無事封じることができたようだし、これで全て元通りだね」
そうおっしゃるナリス様に、わたくしの顔が少し曇って。
「どうしたの? アーシャ」
そう心配させしまったみたい。
申し訳ないと思いつつ、でも。少し悲しくなって。
魔法陣はこの神楽舞台にありました。
ちょうど聖剣の舞で真那を放出したあとの、その空白の瞬間を狙ったのでしょうか。
禁忌の魔法陣が起動して異界の門が完全に開くためには、真那濃度が薄ければ薄いほど良いようなのです。
レムレス様が今回聖女宮長官代理を引き受けたのも、全てはこの時の為。
わたくしが邪魔になったのはカナリヤ嬢のあの奇妙なシナリオのお陰だそうだけれど。
というか、まだ禁忌の魔法陣が完全に開く前で良かったです。
ほんの少し開いただけで、ああして異界から別世界の住人を召喚できるだなんて。
調べはまだ全て済んでいないそうですが、ナリス様ならきっと全てを解決してくださるでしょう。
ええ。
もうわたくしの出る幕は無いのかもしれません。
「わたくしはもう、必要ないですよね」
そうぼそっと呟いて。
あれだけ大勢の目の前でレムレス様との婚約解消を叫ばれたのです。
今更なかった事には出来ないでしょう。
聖女の職も、そうです。
一度解任された聖女が復職した例は、今までにありません。
まあ今までの聖女は皆、婚姻を理由に引退したのでしたけど。
「ねえ、アーシャ。子供の頃の約束、覚えてる?」
え?
「わたしが大きくなったら君と結婚するって言ったら」
「じゃぁわたくしがナリス様をお嫁さんに貰ってあげると」
—————
「大きくなったらボク、アーシャと結婚する!」
「ふふ。じゃぁナリスお兄様はあたしがお嫁さんにもらってあげるよ」
「もう、それじゃ逆だよ」
——————
そんなふうに二人で笑い転げたあの約束。
「覚えてて、くださったのですか?」
「忘れるわけないだろう?」
そう優しく微笑むナリス様。
あんなに、不義理をしてしまったのに。
わたくしなんか、もうナリス様に愛される資格なんか、無いと思っていたのに。
「わたくしはもう、ナリス様に愛される資格なんか無いです……」
涙が浮かんで、頬に流れていくのがわかりました。
「わたしはずっと、君の事だけを想っていたよ」
ナリス様の手が伸びて、わたくしの頬に触れ。
すっと涙をぬぐってくださって。
「愛してるよ。アーシャ」
そう言って、優しく抱きしめてくれた。
ああ。
わたくしも、ナリス様の気持ちに応えても許されますか?
このまま彼を抱きしめてもいいですか?
神様……。
——にゃぁ。もう焦ったいなぁ。さっさとくっついてしまえばいいの。そんでもってお部屋に帰ってあたしを撫でて。アーシャの手で撫でられるの、あたし好きよ。
ふふ。
ありがとうファフナ。
おかげで吹っ切れました。
「ナリス様、わたくしをお嫁さんにしてください」
そう言って両手をまわし、抱きついた。
「幸せにするよ、アーシャ」
耳元で痺れるようなそんな声が聞こえて。
わたくしは思わず猫のように彼に頭を擦り付けた。
聖緑祭の本番、神楽舞台での聖剣の舞の当日となって。
例年であればこの祭りが終わると雨季に入る。
神に奉納された真那をたっぷりと含んだ雨が大地を潤し、命の糧となり穀物のみならずすべての生き物の生育をはぐくんでゆくのだ。
そうしてこの国は護られてきた。
このアルメルセデスは神に護られた剣と魔法の国。
そんな神楽舞台の上で、わたくしは純白の神事の衣装を身に纏い、両手に宝剣を持って佇んでいた。
荘厳な神楽の音色が辺りに響く。
両手をあげ、シャンとその宝剣を鳴らすと、そのままゆったりと舞っていく。
聖剣の舞と呼ばれるその聖なる舞。
シャンとその宝剣を打ち鳴らし、弧を描くように舞っていくと、白銀の光が溢れ、そしてまたその光が剣を追いかけるように弧を描いていき。
くるり、くるりと回りながら、波のように踊る宝剣の舞。
そしてやがて眩い光がその剣先に集まっていったと思うと、大きく広がり神楽舞台全体を覆い隠す。
最後に。
舞台から空に、宙に向けて光の帯が放たれて。
そこで舞を終えた。
♢
「綺麗だったよアーシャ」
舞台の袖で待っていてくれたナリス様が、そう笑顔で迎えてくれた。
「禁忌の魔法陣も無事封じることができたようだし、これで全て元通りだね」
そうおっしゃるナリス様に、わたくしの顔が少し曇って。
「どうしたの? アーシャ」
そう心配させしまったみたい。
申し訳ないと思いつつ、でも。少し悲しくなって。
魔法陣はこの神楽舞台にありました。
ちょうど聖剣の舞で真那を放出したあとの、その空白の瞬間を狙ったのでしょうか。
禁忌の魔法陣が起動して異界の門が完全に開くためには、真那濃度が薄ければ薄いほど良いようなのです。
レムレス様が今回聖女宮長官代理を引き受けたのも、全てはこの時の為。
わたくしが邪魔になったのはカナリヤ嬢のあの奇妙なシナリオのお陰だそうだけれど。
というか、まだ禁忌の魔法陣が完全に開く前で良かったです。
ほんの少し開いただけで、ああして異界から別世界の住人を召喚できるだなんて。
調べはまだ全て済んでいないそうですが、ナリス様ならきっと全てを解決してくださるでしょう。
ええ。
もうわたくしの出る幕は無いのかもしれません。
「わたくしはもう、必要ないですよね」
そうぼそっと呟いて。
あれだけ大勢の目の前でレムレス様との婚約解消を叫ばれたのです。
今更なかった事には出来ないでしょう。
聖女の職も、そうです。
一度解任された聖女が復職した例は、今までにありません。
まあ今までの聖女は皆、婚姻を理由に引退したのでしたけど。
「ねえ、アーシャ。子供の頃の約束、覚えてる?」
え?
「わたしが大きくなったら君と結婚するって言ったら」
「じゃぁわたくしがナリス様をお嫁さんに貰ってあげると」
—————
「大きくなったらボク、アーシャと結婚する!」
「ふふ。じゃぁナリスお兄様はあたしがお嫁さんにもらってあげるよ」
「もう、それじゃ逆だよ」
——————
そんなふうに二人で笑い転げたあの約束。
「覚えてて、くださったのですか?」
「忘れるわけないだろう?」
そう優しく微笑むナリス様。
あんなに、不義理をしてしまったのに。
わたくしなんか、もうナリス様に愛される資格なんか、無いと思っていたのに。
「わたくしはもう、ナリス様に愛される資格なんか無いです……」
涙が浮かんで、頬に流れていくのがわかりました。
「わたしはずっと、君の事だけを想っていたよ」
ナリス様の手が伸びて、わたくしの頬に触れ。
すっと涙をぬぐってくださって。
「愛してるよ。アーシャ」
そう言って、優しく抱きしめてくれた。
ああ。
わたくしも、ナリス様の気持ちに応えても許されますか?
このまま彼を抱きしめてもいいですか?
神様……。
——にゃぁ。もう焦ったいなぁ。さっさとくっついてしまえばいいの。そんでもってお部屋に帰ってあたしを撫でて。アーシャの手で撫でられるの、あたし好きよ。
ふふ。
ありがとうファフナ。
おかげで吹っ切れました。
「ナリス様、わたくしをお嫁さんにしてください」
そう言って両手をまわし、抱きついた。
「幸せにするよ、アーシャ」
耳元で痺れるようなそんな声が聞こえて。
わたくしは思わず猫のように彼に頭を擦り付けた。
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