上 下
4 / 57

禁忌の魔法陣って、あの?

しおりを挟む
「よし、行こう。アナスターシア。レムレスのところに」

「え?」

「君の事をお飾り聖女だなんて、わたしもそれは許せないよ。それに、気になることもある」

「でも」

 わたくし個人の事にナリス様を巻き込むなんてできない。
 それに。
 ナリス様の方がお兄様だからといって、相手は王太子。立場は向こうが上なのだ。

「ふふ。その目はわたしの事を心配してくれてる、のかな? 大丈夫。これは陛下にも頼まれている案件なんだ。あの男爵令嬢、何かおかしい」

 え?

「カナリヤさま、ですか?」

「ああ。実はね、今マギウスにも調べさせているんだけれど、彼女には不審な点が多々あってね」

 マギウスさま?
 ナリス様と同じフランソワ様のお子で弟君のマギウス様。
 まだ十二歳ですよね?
 この春貴族院初等科を卒業なさったばかりだと聞いていましたけど。
 その魔力量の多さは王室随一と言われていましたし、優秀なのは間違いないですがそれでもまだ少年ですよね。

「あれはね、先祖返りとでも言うべきか。母方の血のせいかもしれないが、かなりの特異体質でね。女性に産まれていたら君の後の聖女として祭り上げられていただろうけど生憎男子だからさ。すっかり魔道士の塔に入り浸って、今ではあそこのトップに次ぐ実力者になってるよ。そんなわけで色々と調べ物にも役に立ってくれてるってわけだけどね」

 そう言ってナリス様はふっと笑った。

 母方の血って、フランソワ様の実家のコレット家?
 そういえば大昔の大聖女様がフランソワ様ってお名前だと聞いた事があった。
 その古い血を引き継ぐコレット家の血はわたくしにも流れてる。
 もちろんナリス様にも。

 わたくしのお母様もそう。その白銀の髪はその大昔の大聖女様と一緒なのだと聞いた。
 少しピンクがかった銀色の髪のわたくしや、青みがかった銀色のナリス様も、きっとその血を色濃く受け継いでいるのだろうとは思うけれど。
 でもマギウス様って茶褐色の髪色でしたよね?

 そこがちょっと不思議だった。
 だって、お母様の白銀の髪は本当に綺麗で。
 聖女の力の証のような気もしていたのだもの。
 まあ気のせいなのかもですけれど。

「ふふ。まあそうは言ってもマギウスはまだ見た目が子供だしね。危険な場所に連れて行くには憚られる。ヴァレリウス、ここに」

「はっ、ナリス様」

「ナリス・ド・アルメルセデスの名の下に漆黒の魔道士ヴァレリウスに命ずる。ここにおられる聖女、アナスターシア・スタンフォード侯爵令嬢をお前の命を賭して護れ! 彼女はわたしの命よりも大切な女性だと、心して任にあたるように」

「はい。我が主よ。命に替えてその任を全う致します」

 黒髪に浅黒い肌のその男性。
 着ているものも黒いキトンに黒いマント。
 編み上げのブーツも黒で、本当真っ黒な装いのその人。

 身体からも黒い霧のようなものを噴き出して。

 あれは。
 黒い魔力?
 かなりの強い魔力を感じる。

 ナリス様の部下? なのかしら。
 それにしても命を賭して、だなんて……。

「危険、なのですか……?」

 レムレス殿下のところに行くだけ。
 一言文句を言いに行くだけ。

 それでも不敬罪とかに問われる危険はあるといったらあるけれど。

 彼らの物言いは、そんなレベルのものではなさそうで。

「ああ。本当なら君にはここに残っていて貰いたいくらいだ。わたしは、この件には禁忌の魔法陣が絡んでいると見ている。状況証拠もかなり揃っているのだ」

 はう。
 禁忌の魔法陣って、あの?
 異界の門を開き魔力災害を巻き起こす、あれ、でしょうか。
 そんな危険なものが関わっているだなんて。

「どうする? 先ほども言ったが本当は君にはこのままこの部屋で事が終わるまで待っていて貰たい。でも」

「ええ。そんな危険が待ち受けていると知ったら、なおさらナリス様だけを行かせるわけには参りませんわ」

 元々わたくしの問題だったのですもの。
 それに、そんな状態で、明日の神楽の本番を任せておくわけにもいきません。
 ええ。
 公務としての聖女の職を解任されたとしても、わたくしは第百八十代聖女。
 それに変わりはありませんもの。

「ああ。君はそう言うと思っていたよ」

 ナリス様は優しくそう言って、右手をそっと差し出した。

 わたくしは、その手をとって。

 不義理をしてしまっていたのに、ほんとごめんなさい。
 そして、ありがとうございますナリス様。

 わたくし、昔と同じようにまた、ナリス様の隣にいてもいいのでしょうか……?


 ♢ ♢ ♢
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

[連載中]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜

コマメコノカ@異世界恋愛ざまぁ連載
恋愛
 王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。 そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。

婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

本の虫令嬢は幼馴染に夢中な婚約者に愛想を尽かす

初瀬 叶
恋愛
『本の虫令嬢』 こんな通り名がつく様になったのは、いつの頃からだろうか?……もう随分前の事で忘れた。 私、マーガレット・ロビーには婚約者が居る。幼い頃に決められた婚約者、彼の名前はフェリックス・ハウエル侯爵令息。彼は私より二つ歳上の十九歳。いや、もうすぐ二十歳か。まだ新人だが、近衛騎士として王宮で働いている。 私は彼との初めての顔合せの時を思い出していた。あれはもう十年前だ。 『お前がマーガレットか。僕の名はフェリックスだ。僕は侯爵の息子、お前は伯爵の娘だから『フェリックス様』と呼ぶように」 十歳のフェリックス様から高圧的にそう言われた。まだ七つの私はなんだか威張った男の子だな……と思ったが『わかりました。フェリックス様』と素直に返事をした。 そして続けて、 『僕は将来立派な近衛騎士になって、ステファニーを守る。これは約束なんだ。だからお前よりステファニーを優先する事があっても文句を言うな』 挨拶もそこそこに彼の口から飛び出したのはこんな言葉だった。 ※中世ヨーロッパ風のお話ですが私の頭の中の異世界のお話です ※史実には則っておりませんのでご了承下さい ※相変わらずのゆるふわ設定です ※第26話でステファニーの事をスカーレットと書き間違えておりました。訂正しましたが、混乱させてしまって申し訳ありません

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

婚約者に嫌われているようなので離れてみたら、なぜか抗議されました

花々
恋愛
メリアム侯爵家の令嬢クラリッサは、婚約者である公爵家のライアンから蔑まれている。 クラリッサは「お前の目は醜い」というライアンの言葉を鵜呑みにし、いつも前髪で顔を隠しながら過ごしていた。 そんなある日、クラリッサは王家主催のパーティーに参加する。 いつも通りクラリッサをほったらかしてほかの参加者と談笑しているライアンから離れて廊下に出たところ、見知らぬ青年がうずくまっているのを見つける。クラリッサが心配して介抱すると、青年からいたく感謝される。 数日後、クラリッサの元になぜか王家からの使者がやってきて……。 ✴︎感想誠にありがとうございます❗️ ✴︎(承認不要の方)ご指摘ありがとうございます。第一王子のミスでした💦 ✴︎ヒロインの実家は侯爵家です。誤字失礼しました😵

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

婚約破棄ですか? ありがとうございます

安奈
ファンタジー
サイラス・トートン公爵と婚約していた侯爵令嬢のアリッサ・メールバークは、突然、婚約破棄を言われてしまった。 「お前は天才なので、一緒に居ると私が霞んでしまう。お前とは今日限りで婚約破棄だ!」 「左様でございますか。残念ですが、仕方ありません……」 アリッサは彼の婚約破棄を受け入れるのだった。強制的ではあったが……。 その後、フリーになった彼女は何人もの貴族から求愛されることになる。元々、アリッサは非常にモテていたのだが、サイラスとの婚約が決まっていた為に周囲が遠慮していただけだった。 また、サイラス自体も彼女への愛を再認識して迫ってくるが……。

加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました

ファンタジー
幼い頃、神獣ヴァレンの加護を期待され、ロザリアは王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、侍女を取り上げられ、将来の王妃だからと都合よく仕事を押し付けられ、一方で、公爵令嬢があたかも王子の婚約者であるかのように振る舞う。そんな風に冷遇されながらも、ロザリアはヴァレンと共にたくましく生き続けてきた。 そんな中、王子がロザリアに「君との婚約では神獣の加護を感じたことがない。公爵令嬢が加護を持つと判明したし、彼女と結婚する」と婚約破棄をつきつける。 家も職も金も失ったロザリアは、偶然出会った帝国皇子ラウレンツに雇われることになる。元皇妃の暴政で荒廃した帝国を立て直そうとする彼の契約妃となったロザリアは、ヴァレンの力と自身の知恵と経験を駆使し、帝国を豊かに復興させていき、帝国とラウレンツの心に希望を灯す存在となっていく。 *短編に続きをとのお声をたくさんいただき、始めることになりました。引き続きよろしくお願いします。

処理中です...