上 下
15 / 32

商会。

しおりを挟む
「今日はありがとう。君が一緒に入ってくれて、美味い氷菓が食べられた」

「いえ、わたしなんかでよかったのであれば……」

「ねえ、マリー。もしよかったらまたいろいろ付き合ってくれないかな」

「え?」

「君と一緒に食べるとなんだかとても幸せな気分になる。お願いだ。無理は言わないから」

 どうしよう。この瞳、じっと見つめている彼の瞳にみつめられていると、無碍に断るのがなんだか悪いことのような気もしてくる。
 本当はあんまり親しくなりたくないのに。
 ううん、嘘、だ。
 好きになってしまうのが怖いんだ、わたくしは。
 そして、ジュリウス様を思い出し辛くなる。その繰り返し。
 今が一応人妻だというのは置いておいても、このまま彼を好きになりそうな自分を許すことができないでいるから。

「だめ、かな?」

 じっと黙ったままのわたくしを、彼が縋るような瞳で覗いてくる。
 だめだ。ほんと。この瞳は、だめ。


「だめ、です……。わたし、貴方に釣り合うような人間じゃないですから……」

 そう。わたくしのような容姿の女が、こんな美麗な貴族の男性に釣り合うわけがない。
 そう思わないと断れそうにない。

「君は、可愛いよ。とっても魅力的だ」

 縋るような瞳から一転、優しい笑みを浮かべる彼。

「だめ、かな?」

 その笑みがだんだん近づいてくる。もう、だめだって思ってるのに心がドキドキしてしまうのがわかる。

「少し、だけですよ……? お食事程度ならご一緒しても……」

 根負けし、そう答えていた。多分顔は真っ赤になっていたと思う。ほおが熱い。

「ありがとう嬉しいよ!」

 満面の笑みでそうおっしゃるユリアス様。

 だめ。もう。

「そういえば君に連絡を取りたいと思ったらどこにすればいいのかな? 金華亭?」

「ああ、それなら……」

 ちょうど裏通りに戻ったところだった。わたくしは目の前の古い建物を指差して。

「あそこ、マリーゴールド商会っていうんですけど、わたしあそこで働いているんです。ですから何かあったら商会宛にお手紙くだされば」

「マリーゴールド商会!?」

「ええ、そうですけど、ご存知でした?」

「い、や、詳しくは……。そうか、でも。うん。わかったよ」

 なんか微妙なお顔?
 どうしたんだろう?

 そんなふうにも思いながら、商会の入り口の前でお別れした。
 いつまでもこちらを見ているユリアス様に背を向けるのはなんとなく心苦しいけれど、それでもいつまでもお別れをしているわけにもいかなくて。
「それでは。ありがとうございました」
 と一声かけ扉を開け中に入った。
「ああ。また連絡する。今日はありがとう」
 そう言ってくれた彼の言葉が嬉しくて。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】殿下は私を溺愛してくれますが、あなたの“真実の愛”の相手は私ではありません

Rohdea
恋愛
──私は“彼女”の身代わり。 彼が今も愛しているのは亡くなった元婚約者の王女様だけだから──…… 公爵令嬢のユディットは、王太子バーナードの婚約者。 しかし、それは殿下の婚約者だった隣国の王女が亡くなってしまい、 国内の令嬢の中から一番身分が高い……それだけの理由で新たに選ばれただけ。 バーナード殿下はユディットの事をいつも優しく、大切にしてくれる。 だけど、その度にユディットの心は苦しくなっていく。 こんな自分が彼の婚約者でいていいのか。 自分のような理由で互いの気持ちを無視して決められた婚約者は、 バーナードが再び心惹かれる“真実の愛”の相手を見つける邪魔になっているだけなのでは? そんな心揺れる日々の中、 二人の前に、亡くなった王女とそっくりの女性が現れる。 実は、王女は襲撃の日、こっそり逃がされていて実は生きている…… なんて噂もあって────

愛してほしかった

こな
恋愛
「側室でもいいか」最愛の人にそう問われ、頷くしかなかった。  心はすり減り、期待を持つことを止めた。  ──なのに、今更どういうおつもりですか? ※設定ふんわり ※何でも大丈夫な方向け ※合わない方は即ブラウザバックしてください ※指示、暴言を含むコメント、読後の苦情などはお控えください

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

【完結】お世話になりました

こな
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

【完結】憧れの人の元へ望まれて嫁いだはずなのに「君じゃない」と言われました

Rohdea
恋愛
特別、目立つ存在でもないうえに、結婚適齢期が少し過ぎてしまっていた、 伯爵令嬢のマーゴット。 そんな彼女の元に、憧れの公爵令息ナイジェルの家から求婚の手紙が…… 戸惑いはあったものの、ナイジェルが強く自分を望んでくれている様子だった為、 その話を受けて嫁ぐ決意をしたマーゴット。 しかし、いざ彼の元に嫁いでみると…… 「君じゃない」 とある勘違いと誤解により、 彼が本当に望んでいたのは自分ではなかったことを知った────……

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

【完結】名ばかり婚約者だった王子様、実は私の事を愛していたらしい ~全て奪われ何もかも失って死に戻ってみたら~

Rohdea
恋愛
───私は名前も居場所も全てを奪われ失い、そして、死んだはず……なのに!? 公爵令嬢のドロレスは、両親から愛され幸せな生活を送っていた。 そんなドロレスのたった一つの不満は婚約者の王子様。 王家と家の約束で生まれた時から婚約が決定していたその王子、アレクサンドルは、 人前にも現れない、ドロレスと会わない、何もしてくれない名ばかり婚約者となっていた。 そんなある日、両親が事故で帰らぬ人となり、 父の弟、叔父一家が公爵家にやって来た事でドロレスの生活は一変し、最期は殺されてしまう。 ───しかし、死んだはずのドロレスが目を覚ますと、何故か殺される前の過去に戻っていた。 (残された時間は少ないけれど、今度は殺されたりなんかしない!) 過去に戻ったドロレスは、 両親が親しみを込めて呼んでくれていた愛称“ローラ”を名乗り、 未来を変えて今度は殺されたりしないよう生きていく事を決意する。 そして、そんなドロレス改め“ローラ”を助けてくれたのは、名ばかり婚約者だった王子アレクサンドル……!?

処理中です...