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王女、エヴァンジェリン。

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 よく見たらこの子の着ているワンピース、エリカティーナだ。
 夏にぴったりな半袖のワンピース。白が基調なんだけど胸元から腰までたっぷりのお花で覆われたデザイン。スカートの部分はサテン。ツヤツヤでサラサラなそんな可愛いの。
 丈も膝丈で、少なくとも貴族のお嬢様用では無かった。
 わたくしが商会を離れる前に手がけてたデザイン。工房のデザイナーさんと何度も打ち合わせした、それ、だ。
 人気になるかな。
 若い子、特に成人前の子がターゲットだったけど、おしゃれが大好きなそんな年代の子に喜んでもらえるかな。そんなふうに考えてデザイン詰めてたっけ。

 今回の新作にもこれと似たようなデザインのものを用意してある。
 スカート部分の裏地ににもっとレースをふんだんに使って。裾の部分からひらひらとレースが見えるようにしたかわいいの。

 でも。

「ふふーん。おじさまったら離宮に行ってもずっとお留守だし、王宮にも全然きてくれないし。あたし、寂しかったんだから」

 そんなふうに甘えた感じでマクギリウスの腕に頬擦りするその子。

 っていうか、離宮? 王宮? じゃぁ……。

「殿下! もう困らせないでくださいってお願いしましたよね。また私を振り切るようだったらお忍びで街に出るのも禁止してもらいますからね!」

 慌てて追いかけてきたのはシックな装いの侍女ふうな女性。マクギリウスと同じくらいのお年、かしら。

「あらら、ニーナったら。あたしだったら大丈夫だっていつも言ってるでしょう? どうせこの周囲にはお父様がつけてくださった影もちゃんといるもの。危険はないわ」

「そういう問題ではございません。殿下がお一人で歩き回るだなんて。無用なトラブルに巻き込まれたらどうするんですか」

「あら、一人じゃないわ。だってここにはマクギリウスおじさまがいらっしゃったんだもの」

 ニーナと呼ばれた女性。マクギリウスの名前が出た途端、やっとわたくしたちに気がついた様子で。じっとマクギリウスのお顔を覗き込んで、慌てて一歩後ろに下がった。

「まあ。本当にマクギリウス様ではありませんか。というか、どうなさったのです? 王弟殿下ともあろう方がこんなところで執事のふりをして」

「ああ、ニーナか。息災だったか」

「私はエヴァンジェリン様に振り回されておりますけどね。それ以外は健康で過ごしておりますよ」

「なら良かった」

「でもほんと、どうされたのです? こんなところで。あら、そちらの女性は?」

「うむ。ここでは人目がありすぎる。詳しい話はそこのレストラン『シャルル』で。あそこなら個室もあるし、エヴァがくっついて離れないのをなんとかしたい。いいかい? アリーシア」

「ええ。わたくしは」

「じゃぁいいな? エヴァ」

「おじさまったらひどい。あたしをくっつき虫のおじゃま虫みたいに扱ってない? もう!」

「じゃぁお前は来ないのか? ここで離れてくれるか?」

「いいわ。ちょうどお腹が空きました。シャルルはオムライスが美味しいのでしたよね? 王宮じゃなかなかそんな料理出してもらえないから楽しみだわ」

「ふふ。殿下ったら」

「ニーナも一緒に頂きましょ? ほんと美味しいって評判なんだから」

 マクギリウスが歩き出すのに合わせてついていく。エヴァンジェリン王女(だよね。間違いなく)はマクギリウスの腕にくっついたまま。なんだかちょっとだけ気分が悪い。なんで? だろう?
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