【完結】呪言《ことほぎ》あなたがそうおっしゃったから。

「君はまだ幼い、私は君を大事にしたいのだ」

 あなたがそうおっしゃったから。
 わたくしは今までお飾りの妻でがまんしてきたのに。
 あなたがそうおっしゃったから。
 好きでもない商会のお仕事を頑張ってこなしてきたのに。
 全部全部、嘘だったというの?
 そしたらわたくしはこれからどうすればいいっていうの?

 子供の頃から将来の伴侶として約束された二人。
 貴族らしく、外あたりが良く温厚に見えるように育ったラインハルト。
 貞淑な令嬢、夫を支えるべき存在になるようにと育てられたアリーシア。
 二人は両家に祝福され結婚したはず、だった。

 しかし。

 結婚したのはラインハルトが18になった歳、アリーシアはまだ14歳だった。
 だから、彼のその言葉を疑いもせず信じたアリーシア。
 それがまさか、三年後にこんなことになるなんて。

 三年間白い結婚を継続した夫婦は子を残す意思が無いものと認められ、政略的な両家のしがらみや契約を破棄し離縁できる。
 それがこの国の貴族の婚姻の決まりだった。
 元は親同士の契約に逆らって離縁しやり直すための決まり事。
 もちろん、そんな肉体的繋がりなど無くても婚姻を継続する夫婦は存在する。
 いや、貴族であれば政略結婚が当たり前、愛はなくても結婚生活は続いていく。
 貴族の結婚なんて所詮そんなもの。
 家同士のつながりさえあれば問題ないのであれば、そこに愛なんてものがなくってもしょうがないのかも、知れない。
 けれど。

 まさかそんなラインハルトから離婚を言い出されるとは思ってもいなかったアリーシア。
 自分は傾いた家を立て直すまでのかりそめの妻だったのか。
 家業が上手くいくようになったらもう用無しなのか。

 だまされていたのかと傷心のまま実家に戻る彼女を待っていたのは、まさかのラインハルトと妹マリアーナの婚約披露。

 悲しみのまま心が虚になったまま領地に逃げ引き篭もるアリーシアだったが……


 夫と妹に、いや、家族全てから裏切られたお飾り妻のアリーシア。
 彼女が心の平穏を取り戻し幸せになるまでの物語。

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