29 / 32
おもうさま。
しおりを挟む
「あああ、お前たち、帰ったのか。心配した。心配したのだよ。お前たちが世を儚んで橋から飛び降りる夢を何度見たことか。その度に水行をして二人の安堵を祈っておったのだよ……」
およよよとにいさまに寄りかかりその手を掴むおもうさま。
にいさまは一足先に自室に戻り、装束を変え髪も纏め男姿に戻っていた。
だからおもうさまにとっては失踪する前そのままのにいさまだ。
わたしにはそんなふうにしないところを見ても、おもうさまはやっぱり心のどこかでにいさまを息子扱いしているのだろう。
わたしにはちゃんと女性と接する時のように距離を保っている。
それにしても。
おもうさま、痩せた?
食事も喉を通らないほど心配してくれたのだろうか。
だったらほんと申し訳なかったな。
一応、わたしたちの行き先はちゃんと把握はしていたのであろうっていうのは行く先々で感じていたけれど、それでも。
確かに、世を儚んで、っていうのはあり得る事だった。
だからね。
「おもうさま。ごめんなさい。心配かけて」
にいさまも、わたしも、二人してそう声にしてた。
♢ ♢ ♢
「あかんあかん、それだけはだめや。お前のことは不憫に思っている、だけれどダメや。主上をたばかることだけは絶対に許すことはできん」
いつもおっとりした話し方をなさるおもうさまにしては随分と口調も乱れ、強く反対された。
「それでも、帝はわたくしをそのままのわたくしでいいと仰っておいでなのです。子は成さなくてもいい、そばにいてほしいと仰ってくださいました……」
わたしは自分たちの秘密が帝にはバレていること。それでもにいさまにはそのまま殿上するように、わたしにも后になってほしいとおっしゃられたこと、ゆっくりと説明して。
最後にそう、付け加えて。
帝の秘密までは話せなかった。流石にそれを御本人の口からではなく明かすのは憚られて。
「なんと、帝が男色やったとは……。皇子ができぬのもそのためだとは……。しかし、良いのか? 其方は。男の体で入内して、本当に後悔せんのか?」
「ええ。おもうさま。わたくしは帝のお側にいたいのです。あのかたの、心を癒して差し上げたいのです」
「まぁ、なら、仕方ない。お前が生きながらえたのも仏のお告げのおかげ。今のお前の運命も、仏の指し示すものかもしれまへんな……。ああ、わかった。お前たちの好きにするがいい」
「ありがとうおもうさま!」
わたしは扇をとり落としおもうさまに抱きついた。はしたないとかそんなこと、もう考えている余裕はなかった。
おもうさまに、初めて一人の人間として認められた気がして嬉しくて。
目を白黒させているおもうさまに、大好きですと囁いたのだった。
およよよとにいさまに寄りかかりその手を掴むおもうさま。
にいさまは一足先に自室に戻り、装束を変え髪も纏め男姿に戻っていた。
だからおもうさまにとっては失踪する前そのままのにいさまだ。
わたしにはそんなふうにしないところを見ても、おもうさまはやっぱり心のどこかでにいさまを息子扱いしているのだろう。
わたしにはちゃんと女性と接する時のように距離を保っている。
それにしても。
おもうさま、痩せた?
食事も喉を通らないほど心配してくれたのだろうか。
だったらほんと申し訳なかったな。
一応、わたしたちの行き先はちゃんと把握はしていたのであろうっていうのは行く先々で感じていたけれど、それでも。
確かに、世を儚んで、っていうのはあり得る事だった。
だからね。
「おもうさま。ごめんなさい。心配かけて」
にいさまも、わたしも、二人してそう声にしてた。
♢ ♢ ♢
「あかんあかん、それだけはだめや。お前のことは不憫に思っている、だけれどダメや。主上をたばかることだけは絶対に許すことはできん」
いつもおっとりした話し方をなさるおもうさまにしては随分と口調も乱れ、強く反対された。
「それでも、帝はわたくしをそのままのわたくしでいいと仰っておいでなのです。子は成さなくてもいい、そばにいてほしいと仰ってくださいました……」
わたしは自分たちの秘密が帝にはバレていること。それでもにいさまにはそのまま殿上するように、わたしにも后になってほしいとおっしゃられたこと、ゆっくりと説明して。
最後にそう、付け加えて。
帝の秘密までは話せなかった。流石にそれを御本人の口からではなく明かすのは憚られて。
「なんと、帝が男色やったとは……。皇子ができぬのもそのためだとは……。しかし、良いのか? 其方は。男の体で入内して、本当に後悔せんのか?」
「ええ。おもうさま。わたくしは帝のお側にいたいのです。あのかたの、心を癒して差し上げたいのです」
「まぁ、なら、仕方ない。お前が生きながらえたのも仏のお告げのおかげ。今のお前の運命も、仏の指し示すものかもしれまへんな……。ああ、わかった。お前たちの好きにするがいい」
「ありがとうおもうさま!」
わたしは扇をとり落としおもうさまに抱きついた。はしたないとかそんなこと、もう考えている余裕はなかった。
おもうさまに、初めて一人の人間として認められた気がして嬉しくて。
目を白黒させているおもうさまに、大好きですと囁いたのだった。
1
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
八重桜の巫女
櫛田こころ
恋愛
時は平安。
やんごとなき身分を持つ、貴族の殿方や姫君らが恋に花を咲かせる日々を過ごしている。
その姫君である咲夜(さくや)は走っていた。釣り合わない、絶対結ばれない……と勘違いして、とある八重桜の木に助力を求めた。
自らが、その八重桜の樹に舞を奉納する巫女ゆえに……樹に宿る神へ。
男性アレルギー令嬢とオネエ皇太子の偽装結婚 ~なぜか溺愛されています~
富士とまと
恋愛
リリーは極度の男性アレルギー持ちだった。修道院に行きたいと言ったものの公爵令嬢と言う立場ゆえに父親に反対され、誰でもいいから結婚しろと迫られる。そんな中、婚約者探しに出かけた舞踏会で、アレルギーの出ない男性と出会った。いや、姿だけは男性だけれど、心は女性であるエミリオだ。
二人は友達になり、お互いの秘密を共有し、親を納得させるための偽装結婚をすることに。でも、実はエミリオには打ち明けてない秘密が一つあった。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない
たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。
何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話
外れスキルをもらって異世界トリップしたら、チートなイケメンたちに溺愛された件
九重
恋愛
(お知らせ)
現在アルファポリス様より書籍化のお話が進んでおります。
このため5月28日(木)に、このお話を非公開としました。
これも応援してくださった皆さまのおかげです。
ありがとうございます!
これからも頑張ります!!
(内容紹介)
神さまのミスで異世界トリップすることになった優愛は、異世界で力の弱った聖霊たちの話し相手になってほしいとお願いされる。
その際、聖霊と話すためのスキル【聖霊の加護】をもらったのだが、なんとこのスキルは、みんなにバカにされる”外れスキル”だった。
聖霊の言葉はわかっても、人の言葉はわからず、しかも”外れスキル”をもらって、前途多難な異世界生活のスタートかと思いきや――――優愛を待っていたのは、名だたる騎士たちや王子からの溺愛だった!?
これは、”外れスキル”も何のその! 可愛い聖霊とイケメンたちに囲まれて幸せを掴む優愛のお話。
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる