しんとりかえばや。

友坂 悠

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あかなくに。

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 あかなくに。



『あかなくて、隠るる月の 後を追い』

「うーん、儚くて、と、空かなくに、が、混乱してますね。あと、隠るるだとお亡くなりになる感じが強いので後追い自殺みたいでちょっと……」

 うーん、じゃぁどんな表現がいいだろう?

 消える? 傾く? どっちもイマイチ。後追いもそういう意味ではアウトかな。

 無難に離るる、かなぁ?

『あかなくに はなるる月の跡を追う 瞼を閉じて 思い募るる』

「さっきより良いと思いますけど、るるが二回有るのは頂けませんね。こういう時は表現を変える方が調子が良くなりますよ」

 そっか、じゃぁ。

『あかなくに 離るる月の 跡を追う 瞼を閉じて 想い募らむ』
 これでどう?

「だいぶん良くなりましたね。技巧的には幼いですが、ちょっと直接過ぎますし。でも、姫様らしくて良いお歌だと思いますよ」

「ありがとー少納言! じゃぁこれで清書するね」

 筆をとって、落ち着いて清書する。

 心は込めたつもりだから、届くといいなぁと思いながら。



 訳は、

「まだ物足りないのに離れていってしまう月 その軌跡を目で追ってしまうけれど、瞼を閉じると想いがもっと募るようですよ」

 なのだけど、

 気持ちは、

「もっと一緒に居たいのに帰ってしまうあなた。その姿をずっと追ってしまうけれど、こうして瞼をとじると、眼をあけている時よりももっと恋しく感じます」

 に、なるの。

 直接的、か。そうかも。
 でも、技巧とかはもう一つよくわからない。
 書いてあるものを読み取るだけならともかく、自分の気持ちを婉曲に表すのはなかなか難しいよね。

 清書した文は丁寧に包み虎徹に託した。

 うん。どうな風に思ってくれるかな。怖いけど楽しみ。おかしいな。
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