26 / 29
回復魔法の残滓。
しおりを挟む
「ふむ。ノームの森に居たと」
「ええ。お父様。先日弱っていたところを見つけて。あ、でも今日は元気になっていたのよ」
「今まで猫科の動物は確認がされたことはない。森に張られた結界は空からの侵入をも防いできたはずだ。それなのに、か?」
「だって、居たのは間違い無いのですもの。レイアだって見てるわ」
「お前が持ち込んだのでは無いのか?」
え?
「外で拾った子猫を森で飼おうとしたのでは無いのか?」
「そんな! わたくしそんなこと考えたこともありません!」
ああ。お父様は完全にわたくしを疑っている。
そうか。
誰かがこの子をあの森に連れてきたと考える方が自然、と言うことだ。
勝手に入ることのできない森。わたくしたち王族しかあの扉を自在にくぐることはできない、そんな場所だもの。
従者だって、あくまで王族と一緒の時でないと扉を開けることはできない。
仮に王族と一緒に扉を通ったとしても、もし一人取り残されたら帰ってくることもできないから。
「お父様、信じて。わたくし、そんな……」
ギロリとこちらを見るお父様の怖い顔に、だんだんと声が小さくなっていく。
いくら言っても無駄かもしれない。
お父様は役立たずのわたくしのことなんか、もう愛していないのだろうから。
そう思うとだんだんと顔が曇っていく。涙が溢れてきそうになるのを必死で堪えて。
「ふむ。見せてみろ」
え?
「それを見せろと言っている」
怖いお顔とは裏腹に、優しい手つきで子猫を抱き上げるお父様。
何かを調べるように子猫の全身を撫でまわし。
「弱っていたと言ったな」
「ええ、最初見た時は黄色い毛玉にしか見えなかったのです。何かの切れ端か何かかと。まったく動く気配もなくてうずくまっていて……」
「ふむ。回復魔法の残滓がみえるな」
え?
「それも、我ら王家特有の魔力紋に近い。これは……マリアリアにも話を聞かねばならんな……」
ああ、お姉様。お姉様がこの子を回復させてくれたのかしら。なら、お姉様に感謝しなくちゃだ。
「まったく。猫が飼いたいならそう言えば良いものを。わしは反対などしないのに」
その言葉はほんと小声で。
かろうじて聞き取れた。
「お父様……」
「まあいい。この子猫は健康そのものだ。もうどこにも悪いところはなさそうだ。おまえがしっかり世話をしてやるといい」
そういってお父様、わたくしに子猫を返してくれた。
「にゃぁ」とわたくしの胸に抱かれ丸くなる子猫。
良かった。
この子と一緒にいられる。
嬉しくって。
可愛らしい子猫の額をちょこっと指で撫でると、代わりと言わんばかりに、にゃっとその指を舐めてくれた。
「ええ。お父様。先日弱っていたところを見つけて。あ、でも今日は元気になっていたのよ」
「今まで猫科の動物は確認がされたことはない。森に張られた結界は空からの侵入をも防いできたはずだ。それなのに、か?」
「だって、居たのは間違い無いのですもの。レイアだって見てるわ」
「お前が持ち込んだのでは無いのか?」
え?
「外で拾った子猫を森で飼おうとしたのでは無いのか?」
「そんな! わたくしそんなこと考えたこともありません!」
ああ。お父様は完全にわたくしを疑っている。
そうか。
誰かがこの子をあの森に連れてきたと考える方が自然、と言うことだ。
勝手に入ることのできない森。わたくしたち王族しかあの扉を自在にくぐることはできない、そんな場所だもの。
従者だって、あくまで王族と一緒の時でないと扉を開けることはできない。
仮に王族と一緒に扉を通ったとしても、もし一人取り残されたら帰ってくることもできないから。
「お父様、信じて。わたくし、そんな……」
ギロリとこちらを見るお父様の怖い顔に、だんだんと声が小さくなっていく。
いくら言っても無駄かもしれない。
お父様は役立たずのわたくしのことなんか、もう愛していないのだろうから。
そう思うとだんだんと顔が曇っていく。涙が溢れてきそうになるのを必死で堪えて。
「ふむ。見せてみろ」
え?
「それを見せろと言っている」
怖いお顔とは裏腹に、優しい手つきで子猫を抱き上げるお父様。
何かを調べるように子猫の全身を撫でまわし。
「弱っていたと言ったな」
「ええ、最初見た時は黄色い毛玉にしか見えなかったのです。何かの切れ端か何かかと。まったく動く気配もなくてうずくまっていて……」
「ふむ。回復魔法の残滓がみえるな」
え?
「それも、我ら王家特有の魔力紋に近い。これは……マリアリアにも話を聞かねばならんな……」
ああ、お姉様。お姉様がこの子を回復させてくれたのかしら。なら、お姉様に感謝しなくちゃだ。
「まったく。猫が飼いたいならそう言えば良いものを。わしは反対などしないのに」
その言葉はほんと小声で。
かろうじて聞き取れた。
「お父様……」
「まあいい。この子猫は健康そのものだ。もうどこにも悪いところはなさそうだ。おまえがしっかり世話をしてやるといい」
そういってお父様、わたくしに子猫を返してくれた。
「にゃぁ」とわたくしの胸に抱かれ丸くなる子猫。
良かった。
この子と一緒にいられる。
嬉しくって。
可愛らしい子猫の額をちょこっと指で撫でると、代わりと言わんばかりに、にゃっとその指を舐めてくれた。
11
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

顔も知らない旦那さま
ゆうゆう
恋愛
領地で大災害が起きて没落寸前まで追い込まれた伯爵家は一人娘の私を大金持ちの商人に嫁がせる事で存続をはかった。
しかし、嫁いで2年旦那の顔さえ見たことがない
私の結婚相手は一体どんな人?

私の完璧な婚約者
夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。
※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)

1年後に離縁してほしいと言った旦那さまが離してくれません
水川サキ
恋愛
「僕には他に愛する人がいるんだ。だから、君を愛することはできない」
伯爵令嬢アリアは政略結婚で結ばれた侯爵に1年だけでいいから妻のふりをしてほしいと頼まれる。
そのあいだ、何でも好きなものを与えてくれるし、いくらでも贅沢していいと言う。
アリアは喜んでその条件を受け入れる。
たった1年だけど、美味しいものを食べて素敵なドレスや宝石を身につけて、いっぱい楽しいことしちゃおっ!
などと気楽に考えていたのに、なぜか侯爵さまが夜の生活を求めてきて……。
いやいや、あなた私のこと好きじゃないですよね?
ふりですよね? ふり!!
なぜか侯爵さまが離してくれません。
※設定ゆるゆるご都合主義

夫が愛人を離れに囲っているようなので、私も念願の猫様をお迎えいたします
葉柚
恋愛
ユフィリア・マーマレード伯爵令嬢は、婚約者であるルードヴィッヒ・コンフィチュール辺境伯と無事に結婚式を挙げ、コンフィチュール伯爵夫人となったはずであった。
しかし、ユフィリアの夫となったルードヴィッヒはユフィリアと結婚する前から離れの屋敷に愛人を住まわせていたことが使用人たちの口から知らされた。
ルードヴィッヒはユフィリアには目もくれず、離れの屋敷で毎日過ごすばかり。結婚したというのにユフィリアはルードヴィッヒと簡単な挨拶は交わしてもちゃんとした言葉を交わすことはなかった。
ユフィリアは決意するのであった。
ルードヴィッヒが愛人を離れに囲うなら、自分は前々からお迎えしたかった猫様を自室に迎えて愛でると。
だが、ユフィリアの決意をルードヴィッヒに伝えると思いもよらぬ事態に……。

はずれのわたしで、ごめんなさい。
ふまさ
恋愛
姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。
婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。
こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。
そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。

彼女が望むなら
mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。
リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる