25 / 29
再会。
しおりを挟む
従者にはばあやをお願いしたかったんだけれどお年もいってるばあやには少し荷が重いかもと思い、侍女のレイアに一緒にきてもらうことにした。
お姉様と同年代のレイアはおっとりしていて口数も少なくて。ばあやに言われるままにお仕事をこなす、そんな少女だった。
赤茶の髪を後ろで纏めたおとなしめな容姿の彼女はお父様に厳命されているのか、とくに何も聞かずわたくしの行くところについてくるようになっていたからまあちょうど良かったのもある。
森に行くのは朝の日課にした。早起きして準備を終えて廊下に出ると、そこにはレイアが待っていた。
「ありがとうレイア。ごめんなさいね付き合わせて」
「いえ。私はお嬢様に付き従うのが仕事なので」
そう、無表情に答えるレイア。
服装は侍女のお仕着せのままだったけれど、足元は動きやすいように編み上げのブーツを履いている。
山歩きだしね。
それくらいの格好じゃないと。
扉をぬけるとすぐ緑の樹々が目に映る。
ところどころの隙間から朝日が差し込みあたりを照らしていた。
レイアはわたくしの斜め後ろをしずしずとついてくる。わたくしの行動に何か言うわけでもなく、ただただ見守ってくれている感じ。
咲いている花を見て、森の空気をいっぱいに吸って、なんだかとってもいい気持ちになってきたところで、あの子、あの黄色の子猫を見つけた場所まで辿り着いた。
あの子、どうなっちゃったんだろう……。
少なくともあの場から離れているのは間違いないし、うずくまって動けなかったところから少しは回復してくれていればいいんだけど。そう思いながら辺りを見渡してみた。
「うーん。やっぱりわかんないかなぁ」
思わずそう声が漏れる。
ちょこっと諦めが混じったため息を漏らしたところで、ものすごく明るい、喜びに溢れた感情がこもった意識がわたくしをみているのに気がついた。
「あ、猫ちゃん、いた!」
黄色い毛玉。藪の隙間からクリンクリンの目を見開きこちらをみている。
後ろにいるレイアを警戒している?
時々レイアに対しそんな意識を向けている。
それでも。
「ああ、良かった。猫ちゃん、元気になったのね」
そう安堵して子猫を見つめると、子猫の方も嬉しいって気持ちが溢れてくるように見えて。
我慢ができない、といったようにわたくしに飛びついてきた。
「危ない!」
レイアがわたくしを庇うように前に出るのを掻い潜り、わたくしに抱きついてきたその子猫。
「良かった。良かった。ふふふ。ほんと元気になったのね。はは、くすぐったいわ。もう、しょうがないなぁ」
わたくしに抱きつき頭を擦り付けるその子猫。
「レイア。ごめんね。このこは危なくないから大丈夫よ」
まだ困惑の表情を隠さないレイアに、わたくしはそう笑顔を向ける。
「しかしお嬢様。この森には肉食獣はいない筈なのです。それなのに猫科の動物がいるだなんて」
「そう、ね。どこから来たのかしら。この間見た時はとっても弱ってうずくまっていたのよ」
「これは陛下にご報告しなければ……」
「待って、レイア。この子のことはわたくしからお父様にお話しするわ。先日わたくしこの子に出会っているのよ。それも踏まえてお話しするから。というかこの子、王宮に連れて行こうと思うの」
「まあ。ここに放置して行くわけにもいきませんし……」
「でしょう? それこそここにいるわけがない猫をこの森に置いておくわけにもいかないわよね」
きゅうんと、わたくしの胸の中で小さく鳴く子猫に。
「ごめんね猫ちゃん。あなたをこんなとこに置いて帰るなんてできないから、わたくしと一緒にきてくれる?」
そう頬擦りしながら聞いてみる。
「にゃぁ」
小さくそう答えてわたくしのほおをぺろんと舐めた子猫。
それはわたくしの言葉が分かったかのように、そんなふうに思えた。
少なくともわたくしがこうして抱いているのを嫌がってはいない。それは確信して。
お姉様と同年代のレイアはおっとりしていて口数も少なくて。ばあやに言われるままにお仕事をこなす、そんな少女だった。
赤茶の髪を後ろで纏めたおとなしめな容姿の彼女はお父様に厳命されているのか、とくに何も聞かずわたくしの行くところについてくるようになっていたからまあちょうど良かったのもある。
森に行くのは朝の日課にした。早起きして準備を終えて廊下に出ると、そこにはレイアが待っていた。
「ありがとうレイア。ごめんなさいね付き合わせて」
「いえ。私はお嬢様に付き従うのが仕事なので」
そう、無表情に答えるレイア。
服装は侍女のお仕着せのままだったけれど、足元は動きやすいように編み上げのブーツを履いている。
山歩きだしね。
それくらいの格好じゃないと。
扉をぬけるとすぐ緑の樹々が目に映る。
ところどころの隙間から朝日が差し込みあたりを照らしていた。
レイアはわたくしの斜め後ろをしずしずとついてくる。わたくしの行動に何か言うわけでもなく、ただただ見守ってくれている感じ。
咲いている花を見て、森の空気をいっぱいに吸って、なんだかとってもいい気持ちになってきたところで、あの子、あの黄色の子猫を見つけた場所まで辿り着いた。
あの子、どうなっちゃったんだろう……。
少なくともあの場から離れているのは間違いないし、うずくまって動けなかったところから少しは回復してくれていればいいんだけど。そう思いながら辺りを見渡してみた。
「うーん。やっぱりわかんないかなぁ」
思わずそう声が漏れる。
ちょこっと諦めが混じったため息を漏らしたところで、ものすごく明るい、喜びに溢れた感情がこもった意識がわたくしをみているのに気がついた。
「あ、猫ちゃん、いた!」
黄色い毛玉。藪の隙間からクリンクリンの目を見開きこちらをみている。
後ろにいるレイアを警戒している?
時々レイアに対しそんな意識を向けている。
それでも。
「ああ、良かった。猫ちゃん、元気になったのね」
そう安堵して子猫を見つめると、子猫の方も嬉しいって気持ちが溢れてくるように見えて。
我慢ができない、といったようにわたくしに飛びついてきた。
「危ない!」
レイアがわたくしを庇うように前に出るのを掻い潜り、わたくしに抱きついてきたその子猫。
「良かった。良かった。ふふふ。ほんと元気になったのね。はは、くすぐったいわ。もう、しょうがないなぁ」
わたくしに抱きつき頭を擦り付けるその子猫。
「レイア。ごめんね。このこは危なくないから大丈夫よ」
まだ困惑の表情を隠さないレイアに、わたくしはそう笑顔を向ける。
「しかしお嬢様。この森には肉食獣はいない筈なのです。それなのに猫科の動物がいるだなんて」
「そう、ね。どこから来たのかしら。この間見た時はとっても弱ってうずくまっていたのよ」
「これは陛下にご報告しなければ……」
「待って、レイア。この子のことはわたくしからお父様にお話しするわ。先日わたくしこの子に出会っているのよ。それも踏まえてお話しするから。というかこの子、王宮に連れて行こうと思うの」
「まあ。ここに放置して行くわけにもいきませんし……」
「でしょう? それこそここにいるわけがない猫をこの森に置いておくわけにもいかないわよね」
きゅうんと、わたくしの胸の中で小さく鳴く子猫に。
「ごめんね猫ちゃん。あなたをこんなとこに置いて帰るなんてできないから、わたくしと一緒にきてくれる?」
そう頬擦りしながら聞いてみる。
「にゃぁ」
小さくそう答えてわたくしのほおをぺろんと舐めた子猫。
それはわたくしの言葉が分かったかのように、そんなふうに思えた。
少なくともわたくしがこうして抱いているのを嫌がってはいない。それは確信して。
12
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

顔も知らない旦那さま
ゆうゆう
恋愛
領地で大災害が起きて没落寸前まで追い込まれた伯爵家は一人娘の私を大金持ちの商人に嫁がせる事で存続をはかった。
しかし、嫁いで2年旦那の顔さえ見たことがない
私の結婚相手は一体どんな人?

私の完璧な婚約者
夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。
※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)

夫が愛人を離れに囲っているようなので、私も念願の猫様をお迎えいたします
葉柚
恋愛
ユフィリア・マーマレード伯爵令嬢は、婚約者であるルードヴィッヒ・コンフィチュール辺境伯と無事に結婚式を挙げ、コンフィチュール伯爵夫人となったはずであった。
しかし、ユフィリアの夫となったルードヴィッヒはユフィリアと結婚する前から離れの屋敷に愛人を住まわせていたことが使用人たちの口から知らされた。
ルードヴィッヒはユフィリアには目もくれず、離れの屋敷で毎日過ごすばかり。結婚したというのにユフィリアはルードヴィッヒと簡単な挨拶は交わしてもちゃんとした言葉を交わすことはなかった。
ユフィリアは決意するのであった。
ルードヴィッヒが愛人を離れに囲うなら、自分は前々からお迎えしたかった猫様を自室に迎えて愛でると。
だが、ユフィリアの決意をルードヴィッヒに伝えると思いもよらぬ事態に……。

はずれのわたしで、ごめんなさい。
ふまさ
恋愛
姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。
婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。
こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。
そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる