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空を切って。
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泣きそうになりながら走った。
足がもつれて、転びそうになって。
それでもとにかく逃げたい一心で足を動かす。
でも。
あっと気がついた時には急にボコって盛り上がってきた地面の土に足を取られ。
なんとか手で受け身を取ったけど、盛り上がった土に紛れていた木の根っこに引っかかった右足が痛い。
夜着もところどころギザギザに裂け、あちこち擦りむいて。
土が急に盛り上がるだなんて、それは魔法のせいだろう。
こんなところで捕まってしまうのが悔しくて、わたくしはそれでも足掻こうと泥だらけになりながら前に進もうとした。
「まだ逃げますか。しょうがないお姫様だ」
静かだけれど、その声はとても恐ろしく聞こえる。
ゆっくりとこちらに近づいてくるジークバルト。
もう、だめ。
そう諦めかけた時。
バサ!
それは空を切って現れた。
空中から漆黒のマントを翻して、わたくしとジークの間に飛び降りて。
月の光を遮るようにわたくしの前に、大きな男の人の背中が映る。
「どう言うことだ!?」
ああ。レオン、さま……。
間違いなくレオンハルト様のお声。
とても響く、耳障りの良いそんなお声。少し、怒っていらっしゃる?
「ああ、我が主よ。奥方様のお部屋の前を通りかかったところ何やら異変を感じ様子を確認したところ部屋の中に奥方様がいらっしゃらないことがわかりました。もしや賊かとすぐさまお部屋を捜索していた所、背後で逃げる人影を発見し追いかけてここまで来た次第です。まさか奥様がご自分で逃げ出そうとしていたのだとは思いもよりませんでしたが……」
「そうなのか? アリス」
わたくしを抱きかかえ顔を近づけるレオンハルト様。
ああ。
彼がわたくしを排除しようとしていたというのは間違いない。彼の心がそう叫んでいたのをわたくしは感じている。でも。
それもこれもわたくしの主観だけのこと、と。
わたくしのこの能力すら、思い込みに過ぎないのだと、そう言い逃れられてしまえば返す言葉がなくなってしまう。
証拠、は、ないのだもの。
どうしよう。わたくしはどうしたらいいのだろう。
「こわ、かったので……」
喉が詰まってそれだけしか言葉にすることができなかった。
「奥様は何か怖い夢でもみたのでしょうか?」
白々しくそうのたまうジークバルト。
「怖かったのか? もう、大丈夫だ。私が君を守るから」
そう優しくわたくしを抱き寄せ額に口を寄せ……
あ、あ、あ、あ……
顔がどんどん近づいてくる。恥ずかしくって目を瞑るわたくし。額に触れるレオン様の唇の感触が、これは夢ではないのだとそう告げているようで……。
涙が溢れてくるののを止めることができなかった。
そのままわたくしを抱き上げるレオンさま。
横抱きに、両膝の下に腕を通し、もう片方の腕で体をささえ抱き抱えられて。
え? ちょっと、レオンさま!!
「おろしてくださいませ。わたくし、一人で歩けます!」
そのままスタスタ歩き出したレンさまに抱きついたまま、そう懇願する。
それでも。
「足から血が出ているぞ。そんな状態の君をそのままにして置けるわけがない。このまま行く」
と、聞く耳も持ってもらえない。
レオンハルト様はそのまま何くわぬ顔でスタスタと入口に向きなおり歩き、ジークバルトのそばを通り過ぎる時。
「二度目はないぞ、ジーク」
と、怖い声で仰った。
足がもつれて、転びそうになって。
それでもとにかく逃げたい一心で足を動かす。
でも。
あっと気がついた時には急にボコって盛り上がってきた地面の土に足を取られ。
なんとか手で受け身を取ったけど、盛り上がった土に紛れていた木の根っこに引っかかった右足が痛い。
夜着もところどころギザギザに裂け、あちこち擦りむいて。
土が急に盛り上がるだなんて、それは魔法のせいだろう。
こんなところで捕まってしまうのが悔しくて、わたくしはそれでも足掻こうと泥だらけになりながら前に進もうとした。
「まだ逃げますか。しょうがないお姫様だ」
静かだけれど、その声はとても恐ろしく聞こえる。
ゆっくりとこちらに近づいてくるジークバルト。
もう、だめ。
そう諦めかけた時。
バサ!
それは空を切って現れた。
空中から漆黒のマントを翻して、わたくしとジークの間に飛び降りて。
月の光を遮るようにわたくしの前に、大きな男の人の背中が映る。
「どう言うことだ!?」
ああ。レオン、さま……。
間違いなくレオンハルト様のお声。
とても響く、耳障りの良いそんなお声。少し、怒っていらっしゃる?
「ああ、我が主よ。奥方様のお部屋の前を通りかかったところ何やら異変を感じ様子を確認したところ部屋の中に奥方様がいらっしゃらないことがわかりました。もしや賊かとすぐさまお部屋を捜索していた所、背後で逃げる人影を発見し追いかけてここまで来た次第です。まさか奥様がご自分で逃げ出そうとしていたのだとは思いもよりませんでしたが……」
「そうなのか? アリス」
わたくしを抱きかかえ顔を近づけるレオンハルト様。
ああ。
彼がわたくしを排除しようとしていたというのは間違いない。彼の心がそう叫んでいたのをわたくしは感じている。でも。
それもこれもわたくしの主観だけのこと、と。
わたくしのこの能力すら、思い込みに過ぎないのだと、そう言い逃れられてしまえば返す言葉がなくなってしまう。
証拠、は、ないのだもの。
どうしよう。わたくしはどうしたらいいのだろう。
「こわ、かったので……」
喉が詰まってそれだけしか言葉にすることができなかった。
「奥様は何か怖い夢でもみたのでしょうか?」
白々しくそうのたまうジークバルト。
「怖かったのか? もう、大丈夫だ。私が君を守るから」
そう優しくわたくしを抱き寄せ額に口を寄せ……
あ、あ、あ、あ……
顔がどんどん近づいてくる。恥ずかしくって目を瞑るわたくし。額に触れるレオン様の唇の感触が、これは夢ではないのだとそう告げているようで……。
涙が溢れてくるののを止めることができなかった。
そのままわたくしを抱き上げるレオンさま。
横抱きに、両膝の下に腕を通し、もう片方の腕で体をささえ抱き抱えられて。
え? ちょっと、レオンさま!!
「おろしてくださいませ。わたくし、一人で歩けます!」
そのままスタスタ歩き出したレンさまに抱きついたまま、そう懇願する。
それでも。
「足から血が出ているぞ。そんな状態の君をそのままにして置けるわけがない。このまま行く」
と、聞く耳も持ってもらえない。
レオンハルト様はそのまま何くわぬ顔でスタスタと入口に向きなおり歩き、ジークバルトのそばを通り過ぎる時。
「二度目はないぞ、ジーク」
と、怖い声で仰った。
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