ループ!! 絶望の淵の【替え玉聖女】は三度目の人生をやり直す! 〜わたくしを殺したもふもふの獣帝が今世ではなぜか溺愛してくるのですが!

友坂 悠

文字の大きさ
上 下
13 / 29

反対。

しおりを挟む
「アリスティア・メルクマール嬢、ご入場!」

 ホールの大きな扉がギイっと開く。
 そんなタイミングで中から大きな声でわたくしの名が呼ばれた。

 ざわっとした声があたりに広がる。
 ゆっくりと歩くわたくしを見る多くの瞳。興味本意に眺めるもの、きつく睨みつけるもの、穏やかに見つめるもの。
 そこに悪意があるかどうかまではわからないけれど、必ずしも歓迎されているわけではない様子は見てとれた。

 上座の玉座にどっしりと腰掛けるレオンハルト・バッケンバウアー陛下。
 わたくしのエスコートが、ミーアからジークに変わる。そのまま陛下のお隣の小さなお席に案内されたわたくし。レオンハルト様の視線に促されるまま、そこに腰掛ける。

「本日は陛下の婚約者となられたアリスティア様を皆様にお披露目させていただく会となります。挙式は一週間後。その折の披露宴では諸外国からの来訪もあるでしょう。本日はそれに先立ち、我が国の重鎮の方々にお集まりいただいた次第」

 わたくしの斜め前に立つジークバルト。
 遠くまで通る響きのある声でそう会の趣旨を話し、ホールに集まった多くの方達に視線を送る。
 わたくしもジークの顔の動きに合わせるように、こちらを見つめる多くの顔を眺めて。

 今日集まっている方たちはこの国の貴族なのだろう。
 そういった爵位をもし持っていないとしても、重要な役職に就いた方達なのだろうというのはジークの言葉で想像できる。

 お顔も、人型のお顔の方だけじゃなく、獣人としてのお顔そのままの方もいる。
 狼のお顔、うさぎのお顔、獅子のお顔、牛のようなお顔。
 人型のお顔だとしても、ヤギのような角、猫のような耳、背中に翼のある人もいる。
 男性も、女性も、ほんとたくさんの人がそこに集まっていた。

 この人たちが全員、わたくしを見ている……。

 怖い、そう少しだけ、恐怖を感じ。

「震えているね。アリス。大丈夫だ、何があろうと君は私が守る」

 隣に座ったわたくしの手にそっとご自分の手を重ね。小声でそうおっしゃった陛下。
 そのお声が本当に優しくて。胸が苦しくなる。

「皆、今日はよく集まってくれた。私はここにいるアリスティアをきさきに迎え、共に歩むことを誓った。アリスティアのことは私だと思い支えて欲しい。よろしく頼む」

 え!!

 きさき??

 わたくしはしがない人類域の出身で、獣族ですらない存在で。
 生贄、人身御供として捧げられただけのそんな存在で。
 披露宴と聞いてもきっと側室の一人くらいに迎えられるだけなのだろうって、そう思っていた。
 まさか、后、だなんて。

 そんなの……。

「恐れながら陛下、人族などを后の座につけるなど、前例がありません。陛下の后とはこの帝国の皇后となるお方。お血筋的にもそれに相応しい方からお選びくださいますよう」

 大勢の中から一歩前に出てそうおっしゃるヤギの角のおじいさま。
 白いお髭が胸までのび、その角は長く生きてきたことを主張するように立派にうねっている。

「そうですわ! 陛下。なぜ人類域などから娶られるのですか! 百歩譲って多くのハレムの一人としてならわからなくもありません。しかし、陛下はまだ伴侶をお選びになってさえいらっしゃらなかったではありませんか! それなのになぜ!」

 ヤギの御大に続き、爬虫類のような目をしたご婦人がそう進み出て陛下に迫る。
 こちらをギロリとにらむその目がとてもきつくて。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の完璧な婚約者

夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。 ※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)

顔も知らない旦那さま

ゆうゆう
恋愛
領地で大災害が起きて没落寸前まで追い込まれた伯爵家は一人娘の私を大金持ちの商人に嫁がせる事で存続をはかった。 しかし、嫁いで2年旦那の顔さえ見たことがない 私の結婚相手は一体どんな人?

夫が愛人を離れに囲っているようなので、私も念願の猫様をお迎えいたします

葉柚
恋愛
ユフィリア・マーマレード伯爵令嬢は、婚約者であるルードヴィッヒ・コンフィチュール辺境伯と無事に結婚式を挙げ、コンフィチュール伯爵夫人となったはずであった。 しかし、ユフィリアの夫となったルードヴィッヒはユフィリアと結婚する前から離れの屋敷に愛人を住まわせていたことが使用人たちの口から知らされた。 ルードヴィッヒはユフィリアには目もくれず、離れの屋敷で毎日過ごすばかり。結婚したというのにユフィリアはルードヴィッヒと簡単な挨拶は交わしてもちゃんとした言葉を交わすことはなかった。 ユフィリアは決意するのであった。 ルードヴィッヒが愛人を離れに囲うなら、自分は前々からお迎えしたかった猫様を自室に迎えて愛でると。 だが、ユフィリアの決意をルードヴィッヒに伝えると思いもよらぬ事態に……。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

王宮勤めにも色々ありまして

あとさん♪
恋愛
スカーレット・フォン・ファルケは王太子の婚約者の専属護衛の近衛騎士だ。 そんな彼女の元婚約者が、園遊会で見知らぬ女性に絡んでる·····? おいおい、と思っていたら彼女の護衛対象である公爵令嬢が自らあの馬鹿野郎に近づいて····· 危険です!私の後ろに! ·····あ、あれぇ? ※シャティエル王国シリーズ2作目! ※拙作『相互理解は難しい(略)』の2人が出ます。 ※小説家になろうにも投稿しております。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

処理中です...