ループ!! 絶望の淵の【替え玉聖女】は三度目の人生をやり直す! 〜わたくしを殺したもふもふの獣帝が今世ではなぜか溺愛してくるのですが!

友坂 悠

文字の大きさ
上 下
11 / 29

炎に包まれて。

しおりを挟む
 最初の、何もわからずにまるで災害にでも襲われたかのような死に方をしたあと。

 わたくしはふと、自分が幼い子供の姿であることに気がついた。

 いや、きっと生まれ変わっていたのだろう。過去の自分にもう一度。
 そして、幼い頃に自分の前世を思い出した、のが正解だ、そう思った。

 最初は驚いた。だって、まさかもう一回同じ自分に生まれ変わるだなんてふつう思わないもの。
 過去の時間にリープした?
 小説ではそんな話も読んだことがある。
 けれど、まさか自分にそんなことが起きるだなんて信じられなくて。
 この人生が過去にあったものだという確証も持てないまましばらく過ごして。

 輪廻転生は概念として知っていた。
 だから最初は全く似ているけれど違う生に転生したんだと、そうも考えた。
 記憶が突然戻ったのがあまりにも幼い子供の時期だったこともあって、一回目の当時の記憶が曖昧にしかなかったのもそう思い至った理由だったけれど。
 それでも流石に、お父様のお名前、お姉様のお名前、そしてこの国の名前までもが一回目の生と一緒だと分かった時。
 そこに至ってやっと、この世界、ここにいるわたくし、そして全てが一回目に経験した世界そのものなのだと納得したのだった。

 何の呪いかそれとも祝福か。
 まだ、なにもわかっていなかったあのときに戻っていたわたくし。

 やさしいお母様。厳しいけれど大好きなお父様。そして、美しくて気高いお姉様。
 わたくしは家族のことが大好きで、家族もみんなわたくしのことが大好きだって疑っていなかったあの頃に——

 ♢

「お嬢様、朝ですよ」

 ばあやのいつもの声で目が覚めた。

「にゅー、まだ眠い……」

 わたくしはいつものようにそうグズってみせて。

「もう。レディがいつまでもそう子供みたいなまねしていてはいけませんよ。お姉様のマリアリア様なんかもうアリスティア様と同じ年の頃から光の聖女と讃えられていましたから」

「だってー」

「さ、起きましょうね。朝ごはんにはアリスティア様の大好きなソーセージがいっぱいですよ?」

「いっぱい? いろんなの、あるの?」

「ええ。たくさんありますからね。さ、お着替えしましょうか」

 ばあやに促されるまま両手を伸ばし、寝巻きを脱がされたわたくし。新しい肌触りのいいワンピースをすっぽりとかぶって。
 裾のところに大きな花の模様がいっぱい散らしてある、そんな可愛らしいデザインのワンピース。
 わたくしのお気に入りだった。

 顔を洗って髪をとかしてもらって、そのまま手を引かれ食堂についた。
 お父様お母様、お姉様はもうお席についている。

「おはようアリス」

「おはようございますお父様。お母様。お姉様」

 そうにっこりと微笑みながら朝の挨拶をすると、ばあやが椅子を引いてくれた。
 よっこらってそこに腰掛けると、もうテーブルの席にはお野菜がたんまりよそわれていた。
 両手を合わせいただきますすると、みなも待っていてくれたのか、食事が始まる。
 美味しいお野菜をいただいているとコーンスープのお皿がやってきた。
 ソーセージはまだかなぁって思っていると次のお皿にはたっぷりのソーセージ。
 真ん中にドンと大皿で置かれたそれ。給餌のお兄さんたちによってそれぞれのお皿に取り分けられて行く。

 お食事の間に声を出すのは怒られる。
 わたしが黙ってそのソーセージの行方に注目していると、給餌のお兄さんがそっと耳打ちしてくれた。
「お嬢様はソーセージがお好きでしたからね。ちょっと多めにのせておきましたよ」
「ありがとう。ジェフ」
 五歳のわたくしはそんなにたくさん食べられない。でも、小さなソーセージだったら何本か食べても大丈夫。
 そう思ってほくほくして。

「アリス。お前はまだ小さいのだからあまり食べすぎないように」

「はい、お父様」

 美味しくていっぱいお口に放り込んでいたら、お父様からそうお小言。
 渋いお顔はされているけど、この時のお父様はきっとわたくしのことを愛してくれていたんだよなぁと、そう思い至って心の奥底が癒されていく。

 うん。五歳の子供からのやり直し。
 どうして戻ってしまったのかわからないけどしょうがないもの。
 せっかく戻ったんだからちゃんとやり直さなきゃ、と。

 この一度目のループの後は、結局ただひたすら最初の人生をなぞっただけだった。

 もしかしたら、もうあんな結末が訪れることなんてないんじゃないかって。
 途中からそんな希望も持っていた。

 でも。
 時間が流れて行くうちに、それが最初の人生と全く同じだったことがわかって行くうちに。
 怖くなって逃げ出したくなって。

 最後の最後で逃げ出そうとして、でもダメで。
 つかまった挙句、両手を後ろ手に拘束されたまま櫓に登らされたわたくし。



 ああこのまま最初の時のように巨大な獣帝のお顔が現れるのかと絶望した。

 嵐はどんどんと酷くなっていく。
 だけれど、いつまでまてどあの咆哮が聞こえてくることはなくて。
 やまない雨のなか櫓の上に一人取り残されて、あきらめきれないまま天に向かって祈りをささげ続けたわたくし。

 もしかしたら今度は前とは違うのだろうか。
 わたくしは、助かるのだろうかと、少し希望が芽生えたその時、だった。

 ころせ!
 生贄にささげよ!

 背後からそんな怒号がきこえる。

 うそ、どうして、そんな!

 櫓にくべられる松明の炎。
 両手が後ろ手に縛られたまま、逃げることもできずそのまま炎につつまれた。






 ▪️ ▪️

 はっと気がつくとそこは大浴場の脱衣所。
 籐の椅子に腰掛け熱風を浴びながら髪を梳ってもらっている所だった。

 ああ。二回目の人生の夢を見ていたのか。と。
 あれが今、今回の人生では無いことに、こころから安堵した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

顔も知らない旦那さま

ゆうゆう
恋愛
領地で大災害が起きて没落寸前まで追い込まれた伯爵家は一人娘の私を大金持ちの商人に嫁がせる事で存続をはかった。 しかし、嫁いで2年旦那の顔さえ見たことがない 私の結婚相手は一体どんな人?

私の完璧な婚約者

夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。 ※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)

1年後に離縁してほしいと言った旦那さまが離してくれません

水川サキ
恋愛
「僕には他に愛する人がいるんだ。だから、君を愛することはできない」 伯爵令嬢アリアは政略結婚で結ばれた侯爵に1年だけでいいから妻のふりをしてほしいと頼まれる。 そのあいだ、何でも好きなものを与えてくれるし、いくらでも贅沢していいと言う。 アリアは喜んでその条件を受け入れる。 たった1年だけど、美味しいものを食べて素敵なドレスや宝石を身につけて、いっぱい楽しいことしちゃおっ! などと気楽に考えていたのに、なぜか侯爵さまが夜の生活を求めてきて……。 いやいや、あなた私のこと好きじゃないですよね? ふりですよね? ふり!! なぜか侯爵さまが離してくれません。 ※設定ゆるゆるご都合主義

夫が愛人を離れに囲っているようなので、私も念願の猫様をお迎えいたします

葉柚
恋愛
ユフィリア・マーマレード伯爵令嬢は、婚約者であるルードヴィッヒ・コンフィチュール辺境伯と無事に結婚式を挙げ、コンフィチュール伯爵夫人となったはずであった。 しかし、ユフィリアの夫となったルードヴィッヒはユフィリアと結婚する前から離れの屋敷に愛人を住まわせていたことが使用人たちの口から知らされた。 ルードヴィッヒはユフィリアには目もくれず、離れの屋敷で毎日過ごすばかり。結婚したというのにユフィリアはルードヴィッヒと簡単な挨拶は交わしてもちゃんとした言葉を交わすことはなかった。 ユフィリアは決意するのであった。 ルードヴィッヒが愛人を離れに囲うなら、自分は前々からお迎えしたかった猫様を自室に迎えて愛でると。 だが、ユフィリアの決意をルードヴィッヒに伝えると思いもよらぬ事態に……。

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

別れ話をしましょうか。

ふまさ
恋愛
 大好きな婚約者であるアールとのデート。けれど、デージーは楽しめない。そんな心の余裕などない。今日、アールから別れを告げられることを、知っていたから。  お芝居を見て、昼食もすませた。でも、アールはまだ別れ話を口にしない。  ──あなたは優しい。だからきっと、言えないのですね。わたしを哀しませてしまうから。わたしがあなたを愛していることを、知っているから。  でも。その優しさが、いまは辛い。  だからいっそ、わたしから告げてしまおう。 「お別れしましょう、アール様」  デージーの声は、少しだけ、震えていた。  この作品は、小説家になろう様にも掲載しています。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

処理中です...