ループ!! 絶望の淵の【替え玉聖女】は三度目の人生をやり直す! 〜わたくしを殺したもふもふの獣帝が今世ではなぜか溺愛してくるのですが!

友坂 悠

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偽物。

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 陛下はきっと、以前に姉様を見かけたことがあるのだろう。
 それで姉様とわたくしを見間違えていらっしゃる?

 ズクン
 胸の奥が痛む。

 陛下を騙していることに。

 辛い。

 陛下が姉様を愛しているのだとわかったことが。

 まさか、こんなふうに歓迎してくれるとは思ってもいなかった。
 姉様が辛い思いをなさるなら、わたくしが身代わりでもいい、そう思ったはずだった。
 生贄。奴隷にでもなるのかと、そう思っていたはず。
 殺され食べられるとまでは思ってはいなかったけれど、普通の人間らしい扱いなんて望むべくもない、そう信じていた。

 優しい瞳をしてこちらを見るレオンハルトさま。
 あの瞳は、決してわたくしに向けられたものではないはず。

 わたくしと姉様は容姿だけならよく似ている。だから、替え玉として送られることにもなったわけだけれど。
 それも、こんなにも厚遇されると思っていなかったからこその話。
 捨て置かれる存在だと、皇帝陛下もそれほど興味もないだろうと思ったからこその話で。
 陛下を騙す、とか、そこまで深刻に考えていたわけではなかったのだ。

 あの、一回目の人生の時のように、怒りに塗れた厄災帝王としてのレオンハルトさまを思い出す。

 陛下がその気になれば、人類域など全て火の海にすることだってできるのだろう。

 怒りに任せ暴れるだけで、残された人族など一人残らず滅ぼされてしまうかもしれない。

 で、あれば。

 隠し通さなければ。
 わたくしが替え玉であるということは、出来うる限り陛下に悟られないようにしなくては。

 申し訳ない。
 そんな思いと、
 人族のために。
 そんな思いが交差する。

 わたくしは自分の心を押し殺してでも、陛下の嫌気を買わないようにしなければ。
 陛下に、わたくしが姉様ではないのだと悟られないようにしなければ。

 あの陛下の優しい声が、わたくしに向けられたものではないのだという事実から、目を背けることのないようにしなければ。
 陛下の、「愛している」という声は、姉様のものだということを忘れないようにしなければ。

 勘違いしそうになるのを、抑えなければ。いけない。わたくしは偽物。替え玉、なのだから。


「今日は午後から君の歓迎式典を執り行うから、午前中はそれに備えていてくれ。婚姻披露は七日後だ。それまで色々と忙しいかもしれないけれど、何かわからないことがあったらミーアかジークに聞いてくれ。いいかい?」

「ジークさま、ですか?」

「ああ、ジークはこの屋敷を取り仕切ってくれている執事長だ。ジーク、こちらへ」

 さっと前に出たのは黒山羊の獣人、グネンと曲がった大きな角、お口の周りは長いおひげで覆われている男性。
 黒の執事服がとてもよく似合っている。

「ジークバルトと申します。以後お見知り置きを」

 ギランと光るモノクルのレンズ。

 うん。まるで黒魔法でも飛び出してくるような雰囲気の、そんな怖さもある。

「よろしくお願いします。ジークバルトさま」

「奥様。敬称は不要にございます。わたくしは執事でありますから、ジークとお呼びくださいませ」

「はい、わかりました、ジーク。ではよろしくお願いしますね」

「ええ、奥様。何なりとお申し付けくださいませ。本日はまず衣装合わせに職人を呼んでおりますので、あとはミーアとそちらで衣装をお選びくださいますよう」

「ありがとうございます。ミーア、それでは案内よろしくお願いいたしますね」

「ええ、奥様。参りましょう」

「それでは陛下。ありがとうございます。わたくしはこれで失礼致します」

「ああ、アリス。なるべく君の好みに沿うよう、用意してある。好きなドレスを選んでくれ」

 陛下はそう、笑みを崩さず送り出してくれた。

 少し気が重かったけれど、わたくしはそんなそぶりも見せないよう気をつけ、ミーアの後をついていった。


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