【完結】あなたがそうおっしゃったのに。

友坂 悠

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33【ジークSide】4 愛してる。

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 床に落ちた涙が滲みを作っていく。
 あの、笑顔で明るいエリカの姿はどこにもなく。
 あの、俺に対しても屈託なく応じてくれていたエリカは、全部演技だったのだろうか。
 本当はずっと、ここを出て行きたかったというのだろうか。

 それでも。
 じゃぁ何で今こうして泣いているんだ?
 もし、エリカが少しでもここでの暮らし、俺との暮らしを心地よく思ってくれていたのだったら……。




 親父が右手を伸ばしてエリカの肩に置いた。
 ビクッと身体を震わせるエリカ。

「悪かったね。エーリカさん。君がそんなふうに思い詰めているなんて、気がついてもあげられなくて」

 その親父の言葉に被せるように、おれも思いを絞り出す。

「エーリカ、ごめん。全部聞いたよ。俺が悪かった。君の顔もわからないままだったなんて、本当に情けない。ごめん」

 はっとして顔を上げる彼女。
 ありえないものをみたような、そんな表情で、

「ジーク、さま?」

 と、云った。

 もうどんな顔をしたらいいのかわからくなって。
 たぶん、かなり情け無い顔をしていたんだろうな。

 そんな俺をみて、泣き笑いのように表情が崩れるエリカ。

「ジーク様が謝ることなんかありません。わたくしがメイドと偽ってお世話していたのですから」

 そう、声が聞こえた。

 ああ、ここだ。ここしかない。
 思いのたけを伝えようと、少し早口になる。

「だけどね、君を好きだっていうのはほんとなんだ。信じてくれないか?」

「だって、貴方が好きだったのはメイドのエリカでしょう?」

「意地悪を言わないでよ。俺が好きになったのは君なんだよ。君のその笑顔に惹かれたんだから」


 エリカがクスッと、笑みをこぼす。

 俺の顔も、ちょっと苦笑いみたいに崩れて。

 彼女はちょっと悪戯っぽく微笑み、

「離婚届、返してもらってもいいですか?」

 そんなふうに云った。

「いや、あれはもう燃やしちゃったよ。っていうか、離婚だなんて嫌だ。お願いだ。やり直させてくれないか?」


 真剣な表情で見つめる俺に。目をしっかりとあわせて心の奥底まで見据えるように。


「わたくしを愛してくださいますか?」

 そう云う彼女に。

「もちろん。愛してるよ、ううん、ずっと君を愛するよ。神に誓って」

 そう答えた。

 エーリカは思いっきりの笑顔を返してくれ。


「なら、もう少しだけあなたのメイドでいていいでしょうか? 本当の妻になれる自信はまだないのですけど、今まで通りのメイドからなら。お願いします」

 と、そう云った。
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