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26 白銀の髪の彼女。
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「悪いエリカ。俺、この匂いに耐えられそうにない。ちょっと外の空気を吸ってくるよ」
「え? 旦那様、まだ来たばかり、会も始まったばかりです。ご挨拶とかしなくてよろしいのでしょうか?」
「まあ、大丈夫だよ。その辺は父上がやるだろうし、そもそも俺はここにくるのは了承したけれどそんなにまじめに社交をするつもりはないのさ。もとから社交界には顔を出していなかったんだ。俺の顔を知る者だって、貴族院同期か親類縁者くらいなものだからね」
苦虫を噛み潰したような顔をして、そこまで一気に話すジーク。
それでも一応申し訳なさげに両手を合わせてこちらを覗き込む。
「そばを離れるのは悪いと思っているけど、君まで俺と一緒に来てしまったらそれこそせっかくのパーティーのご馳走も食べられなくなってしまうから申し訳ない。少しのあいだ一人で食事でも楽しんでいてくれ」
それだけ云うと、さっと振り返り大急ぎでバルコニーの方へ向かって歩いていく。
大きく広い窓。人が何人も一度に通れるそんな窓の外に、やっぱり広めのバルコニーがある様子。
幾つものカーテンがかかっていてはっきり外の様子は見えなかったけれど、どうやらもともとパーティーの喧騒から逃れられる場所として用意されているのだろう。
いくつかの椅子が並べてあるのが垣間見えた。
(匂い、かぁ)
確かに今いる場所は多種多様な香水の香りが入り混じっている。
そこに人々が口にしているアルコールの匂いが混じり合い、じっとしていても悪酔いしそうだ。
エーリカはアルコールを口にしたことはまだ無かったけれど、これでは匂いを嗅いでいるだけでふらふらしてきてしまう。
頭を振って大勢の人のそばを離れ、自分もバルコニーとはいかなくても壁の端っこに避難しよう、と、ふらふらと歩き出した。
途中、くるくるまわりながら給仕する黒い服の侍従から飲み物を勧められて、ジュースをいただいたエーリカ。
柑橘系の果汁がたっぷり入ったそれは口当たりもよく、喉越しも爽やかで。
あっという間に飲み干してしまった。
(ジーク様が居なければどなたがどなたか区別もつきませんし。せっかく来たのですもの、おいしいお食事でもいただきましょう)
さっきのジークの言葉に内心少し腹をたてていたエーリカ。
今日の主役の令嬢のことを悪く言う彼に少しばかり腹をたて、幻滅して暗い気分になっていた。
それでも、いただいたジュースが美味しくて、すっかり気分が良くなった彼女。
もうこうなったら一人で美味しいものでも食べて過ごしましょう、と。
お料理のお皿がいっぱい並んでいるテーブルに向かって。
取り皿に美味しそうなものをいくつか見繕っていた時だった。
お皿に残った最後に一個のソーセージを取ろうとしたところで、やっぱりそのソーセージを取ろうとしていた令嬢とがちあった。
「あ、ごめんなさい。わたくしはいいのであなたがそれどうぞ」
目があって、こちらを覗き込みながらそう云うその令嬢。
「あ、いえ。わたくしのほうこそごめんなさい。どうぞお取りください」
一応、そう、遠慮してみる。
年は近い?
ああでもわたくしよりはは年上、かな?
っていうかこの白銀の髪、さっきもみたような……。
少しピンクがかった銀。主役の王子様が少し青みがかった銀で、お相手の侯爵令嬢が少しピンクがかった銀。どちらも基本白銀でよく似た銀色の髪ではあるけれど、ちょっとだけ違う感じで。
そんなふうに考えてその彼女を見つめてしまっていたエーリカ。
はっと我にかえり急に恥ずかしくなって。
「すみませんあんまりにも綺麗な髪色で、見惚れてしまって……」
そう頭を下げる。
クスクス、と、可愛らしい声が聞こえ。
顔をあげると。
そこには満面の笑みでこちらをみつめている白銀の髪の彼女の姿があった。
「え? 旦那様、まだ来たばかり、会も始まったばかりです。ご挨拶とかしなくてよろしいのでしょうか?」
「まあ、大丈夫だよ。その辺は父上がやるだろうし、そもそも俺はここにくるのは了承したけれどそんなにまじめに社交をするつもりはないのさ。もとから社交界には顔を出していなかったんだ。俺の顔を知る者だって、貴族院同期か親類縁者くらいなものだからね」
苦虫を噛み潰したような顔をして、そこまで一気に話すジーク。
それでも一応申し訳なさげに両手を合わせてこちらを覗き込む。
「そばを離れるのは悪いと思っているけど、君まで俺と一緒に来てしまったらそれこそせっかくのパーティーのご馳走も食べられなくなってしまうから申し訳ない。少しのあいだ一人で食事でも楽しんでいてくれ」
それだけ云うと、さっと振り返り大急ぎでバルコニーの方へ向かって歩いていく。
大きく広い窓。人が何人も一度に通れるそんな窓の外に、やっぱり広めのバルコニーがある様子。
幾つものカーテンがかかっていてはっきり外の様子は見えなかったけれど、どうやらもともとパーティーの喧騒から逃れられる場所として用意されているのだろう。
いくつかの椅子が並べてあるのが垣間見えた。
(匂い、かぁ)
確かに今いる場所は多種多様な香水の香りが入り混じっている。
そこに人々が口にしているアルコールの匂いが混じり合い、じっとしていても悪酔いしそうだ。
エーリカはアルコールを口にしたことはまだ無かったけれど、これでは匂いを嗅いでいるだけでふらふらしてきてしまう。
頭を振って大勢の人のそばを離れ、自分もバルコニーとはいかなくても壁の端っこに避難しよう、と、ふらふらと歩き出した。
途中、くるくるまわりながら給仕する黒い服の侍従から飲み物を勧められて、ジュースをいただいたエーリカ。
柑橘系の果汁がたっぷり入ったそれは口当たりもよく、喉越しも爽やかで。
あっという間に飲み干してしまった。
(ジーク様が居なければどなたがどなたか区別もつきませんし。せっかく来たのですもの、おいしいお食事でもいただきましょう)
さっきのジークの言葉に内心少し腹をたてていたエーリカ。
今日の主役の令嬢のことを悪く言う彼に少しばかり腹をたて、幻滅して暗い気分になっていた。
それでも、いただいたジュースが美味しくて、すっかり気分が良くなった彼女。
もうこうなったら一人で美味しいものでも食べて過ごしましょう、と。
お料理のお皿がいっぱい並んでいるテーブルに向かって。
取り皿に美味しそうなものをいくつか見繕っていた時だった。
お皿に残った最後に一個のソーセージを取ろうとしたところで、やっぱりそのソーセージを取ろうとしていた令嬢とがちあった。
「あ、ごめんなさい。わたくしはいいのであなたがそれどうぞ」
目があって、こちらを覗き込みながらそう云うその令嬢。
「あ、いえ。わたくしのほうこそごめんなさい。どうぞお取りください」
一応、そう、遠慮してみる。
年は近い?
ああでもわたくしよりはは年上、かな?
っていうかこの白銀の髪、さっきもみたような……。
少しピンクがかった銀。主役の王子様が少し青みがかった銀で、お相手の侯爵令嬢が少しピンクがかった銀。どちらも基本白銀でよく似た銀色の髪ではあるけれど、ちょっとだけ違う感じで。
そんなふうに考えてその彼女を見つめてしまっていたエーリカ。
はっと我にかえり急に恥ずかしくなって。
「すみませんあんまりにも綺麗な髪色で、見惚れてしまって……」
そう頭を下げる。
クスクス、と、可愛らしい声が聞こえ。
顔をあげると。
そこには満面の笑みでこちらをみつめている白銀の髪の彼女の姿があった。
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