虐げられた灰かぶりの男爵令嬢は紫の薔薇に愛される。

友坂 悠

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クリスタルに輝く。

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 真っ白な世界。

 明るい? ううん、これはただただ白いだけで明るい光ではない?

 そんな場所にふわふわと漂っていたあたし。


「ああ、気がついたのかい?」

 そう優しい声が降り注ぐ。

 っと、誰?

 もう周りが真っ白すぎて何もわからなくなってる。

「はは。そう怯えなくても大丈夫。あたしゃ、エレベカ。白銀の魔女さ」

 はい?

 エレベカってさっきのお話の?

「まあ、そうさね? あんたの魔力によって本の中から出てこれたのだもの」

 じゃぁ。お話の中に出てきた魔女エレベカさんで間違いないの?

「そうだよ。魔法陣によってあの本に封じ込められてしまっていたんだけどね。やっと出られたよ。あんたには何かお礼をしなくちゃって思ってね」

 お礼って。ううん、っていうかここはどこです? 真っ白で何が何だか分からなくて。

「ここは、あんたの心の中さ。ほら、あの中心にほんのり熱が見えないかい? あんたが一生懸命灰をかけて隠そうとした心の熱さね」

 ああ。あれは。わかる。

 真っ白な中に、真っ白な灰の山が出来ていた。
 その中に埋まっていたのはあたしの感情。真っ赤に燃えそうになって、ダメだと思って一生懸命に埋めたあたしの心。


「そうしんみりしなさんな。人は誰でもちゃん感情っていうものを持っているものだよ。それは悪いことじゃない。あんたはちゃんとそれを暴走させずにコントロールできる理性の鍵を持ってるからね。感情の中には嬉しいとか悲しいとか色々あるけれど、そんな感情もあんた自身でちゃんと育ててやらないとね」

 ええ、でも。
 あたしには何もないんです……。
 生きて行けるだけでありがたいんだって、そう思わなくちゃって。

「バカだね。まあいい。これはあんたへのお礼のご褒美だ」

 魔女エレベカは魔法の呪文を唱えた。
 あたしには聞き取れなかったその呪文の詠唱が終わった時。


 あたしが立っていたのは屋根裏の、あの埃まるけのあの場所で。
 でも。
 あたしの容姿は綺麗に磨かれ化粧も施され。
 あたしの瞳の色とおそろいな綺麗なブルーのドレスを身に纏って。
 あたしの髪はお母様譲りの金色のふわふわの髪だったけど、それも綺麗に整えられ。
 額には白銀のティアラが嵌った。

 真っ白な光沢のある手袋は薔薇の刺繍が施され。
 足元はクリスタルに輝くハイヒール。

 驚いて何も言えないでいると空中からまたエレベカの声がした。

「ほら、右手を前に出してご覧」

 言われるままに手を伸ばすあたし。
 そこにはぼんやりと別の空間が広がる。

「魔法で城のパーティー会場と空間を繋げてあげたよ。さあ一歩踏み出してごらんな。自分の幸せは自分で掴み取るがいいさ」

 その声に。

 あたしは一歩踏み出した。
 ふわんと空気が変わるのがわかる。
 次元の膜のようなものを一瞬で通り抜けるとそこは煌々とシャンデリアの灯りがともる大広間だった。

「必ず深夜零時の鐘が鳴るまでに戻っておいで。そうでなけれな魔法は全て解けてしまうよ」
 あの本にあったあの場面のように、そんな声が聞こえた気がした。



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