虐げられた灰かぶりの男爵令嬢は紫の薔薇に愛される。

友坂 悠

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火種を灰で埋め尽くす。

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「ねえお父様、来週末にあるお城のパーティに着ていくドレスを新調したいの」
「ああ姉様だけずるい。あたくしも新しいドレスが欲しいですわ」
「ああ、では仕立屋を呼ぶとしよう」
「ほほ。サマンサ、シャロン、あなたたちにはぜひ王子様のハートを射止めてもらわなければいけませんからね」
「でしょう? お母様。わたくしは絶対に王子様を射止めてご覧に入れますわ」
「だめよ王子様はあたくしがメロメロにしてあげるんだから」
「シャロンには負けないわ」
「サマンサ姉様よりもあたくしの方が可憐に見えますもの。負けませんわよ」
「お前たち、競争もいいが王子は2人いるからね。どちらも狙えばいいのだよ」
「そうね、わたくしは兄の方を」
「じゃぁあたくしは弟君の方を」
「2人とも頼もしいわ。当日はめいいっぱい着飾って参りましょうね」
「おいおいお前も着飾るのかい? スーザンや」
「もちろん当たり前じゃありませんかあなた。2人の娘を連れて社交会に赴くのですから私もそれ相応に豪奢でないと。他の貴族にバカにされたくはありませんもの」
「まあ、そうだな」

 お父様のお顔は少し優れませんが。まあきっとまたお金のことを考えているのでしょうか。
 かちゃかちゃと食器を鳴らし食べるのもそっちのけでべちゃくちゃと来週のパーティのお話で盛り上がるかれら。
 早く食べ終わってくれないと後片付けが遅くなるなぁとぼんやり隅で待機してたあたしでしたが。

「まあ、そこの灰かぶりが羨ましそうに話を聞いていますわ」
「まあエーリカったらそんなみすぼらしいなりでお城のパーティーに行きたいのかしら」
「食事を出し終わったのならそんなところで聞いてないで台所に戻ってらっしゃい」
「そうよ、あんたなんかが行ける場所じゃないんだから。羨んでも無駄よ」

 義姉様や義母様にそう罵られ、あたしは頭を下げさっと奥に引っ込んだ。
 関わったらまけ。負けだから。
 あの人たちの居るところでは心を殺す。
 そうでなければもうとっくに耐えられなくてどうかなってしまいそうだったから。

 あたしは心の奥底に真っ赤に燃え上がりそうになる火種を、それこそ灰で埋め尽くすようにして。
 そうして押さえ込んだ。

 うん。だめ。

 何も考えないでいなきゃ、だめ……。


 ⭐︎⭐︎⭐︎
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