虐げられた灰かぶりの男爵令嬢は紫の薔薇に愛される。

友坂 悠

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サンドリヲン。

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「エーリカ。貴女なんかその灰の中がお似合いよ!」

 そう言って義姉様たちは部屋に戻っていった。
 ああでももうこれで今日は意地悪をされずに済むのだと思うと少しホッとするけれど、あたしの寝る場所はこの灰でまみれたこの場所しか無いかと思うと悲しくなる。

 暖炉の火は落とされお部屋も与えられていないあたしにはこのお台所の隅しか寝る場所は許されていなかった。
 それでも。

 かまどの灰の中にはまだ種火が残されている。
 毛布一枚で寒いけれど、まだほんのりとぬくもりが残るこのお台所は他の場所よりはマシだった。

 あたしは今この男爵家でおさんどんをしている。
 婿養子で男爵を継いだお父様はお祖父様お祖母様お母さまが相次いで亡くなった後、あたしがまだ5歳の時に後妻に今のお義母さまを迎え。
 お義母さまと連れ子のお義姉さま2人がお家に入った後、亡くなったお母さまそっくりなあたしは皆に疎まれた。

「お前など、食わしてやっているだけでありがたいと思え」

 気に入らないことがあるとそう言いながらあたしを鞭で打つお父様。

 ある時、「金の無駄だ」と屋敷の使用人さんたち全てに暇を出したお父様。
 以来このお屋敷の掃除洗濯食事の用意等々全てあたしのお仕事になったのだった。


 朝になって。
 かまどの火を起こし水を張った鍋をかけ。
 沸くまでの時間、あたしは屋根裏に登る。

 窓を開け思いっきり朝の空気を吸い込むと、ちょっとは生き返った気分になる。

「ああ小鳥さんおはよう。今日もご機嫌ね」

 チュンチュンと囀りながら窓にとまる小鳥にそう挨拶をして、本を開いて昨日の続きを読むのが日課。
 灯りももったいないないからと言われ満足に蝋燭も使えない身としては、こうして皆が起きてこない僅かな時間しか自由な時間が取れないし。

 まともに貴族としての教育も受けてこなかったあたしがこうして字が読める本が読めるとは家のものは誰も思っていないだろう。
 お父様は御本に興味がないのかお祖父様やお母様が大事にしていた本はみなこの屋根裏部屋で埃をかぶっていた。
 もうすでに三つの頃からお母様に絵本をねだり少しずつだけど字も教えてもらっていたあたしは、屋根裏でこうしていっぱいの本を見つけたときは喜んだものだ。
 以来、隠れてこうして御本を読むうちに、通り一遍の教養は身につけることができたと思う。
 一番好きなのは魔法の本。
 世界の源、エーテル理論。
 マナと魔術の関係やその技術論。
 ふふ。
 自分じゃ使えやしないのにね。
 そんな魔法に憧れて、知識だけはいっぱいになっていたのだった。

 ちらちらと舞うホコリに差し込む朝日が綺麗で。
 この一瞬だけはあたしは灰かぶりのおさんどんではなく、男爵令嬢エーリカ・サンドリヲンに戻れた気分になれたのだった。



 ⭐︎⭐︎⭐︎
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