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空間転移。

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 ——まさか! 空間転移だなんて。

 へ? 空間転移?

 ——もう、カペラさんたらやりすぎですよ。いきなりこんな場所まで転移して、わたくしが聖魔法で結界と空気を生成してなかったらどうなってたか!

 え? え? ちょっと待って、意味わかんないんだけど。
 っていうかここ、どこ? なんだか体もふわふわするんだけど?

 真っ暗闇、ではないか。
 灰色な大きな岩のようなものが眼下にあるのと、そして綺麗なまあるく青いものが頭の上に浮かんでる。それはわかる、わかるんだけど。

 ——どうやらここは月面の上空、ですね。あなたがここまで跳んだんですよ? カペラさん?

「はうあう。月面って、あの月の上ってこと? じゃぁ、頭の上の見える青いのって……」

 ——あれがわたくしたちのいた大地、なのでしょうね。青い海に囲まれた大陸がぼんやりと見えますけど、きっとあそこは今は夜だから暗いのでしょう。端に見えるところは綺麗な青に光ってますし。

 ああ。そっか。
 大地は丸いのだと、そう本で読んだ覚えがある。信じられなかったけど、本当だったんだ。
 今更ながらそう実感して。

 ああでも、結界? 空気?

 ——ここにはわたくしたちが呼吸ができる空気がありませんでした。咄嗟のことだったですけど、なんとか間に合ってよかった。

「はうあう。そっか。ありがとうディア」

 ——いえ。でも、そのおかげでわたくしもちゃんと魔法が使えるってわかりましたし。

「それにしてもすごいね。聖結界はわかるけど空気の生成って、物質を無から生み出すのはほんと大変なのに」

 ——本当に無なわけでもないのですよ。でも、確かにここではそんなに長い時間持たないかもなので、急いで地上へと帰りましょうね。

 え、でも。
 どうやって帰るのかわからないかも。
 うん。ここにだってどうやってきたのかよくわからないのだ。
 ジャンプして空を飛んできたわけでもなさそう。

 あたしの、禍の魔女としての力が全盛の時でも、ここまで高いところには飛んできたことがなかった。精々地上から数百メトル上空まで跳んだくらいで。
 フライトの魔法で体を浮かしてそのまま移動するくらいが精一杯だったかな。

「帰るって、どうするの?」

 ——そうですねー。わたくしも空間転移は知識としては識ってましたけど、実際に体験したのは初めてでしたし……。

「はう、その空間転移って」

 ——カペラさんが繋げたんだと思いますわ。月に向かって手を伸ばして。

「空間と空間を?」

 ——ええ。

「はうー。流石にあたし、そんなことしたこと無かったよ」

 ——心の中のゲートからマナの手を伸ばし、対象の空間を認識して掴み。

 あう。

 ——そうした後その空間と今居る空間をひっくり返すのだそうです。

 え?

「ちょっと意味わかんないんだけど……」

 空間をひっくり返すだなんて。そんな事ができるの? ううん、どうやってそんなこと……。

 ——無意識のうちにそれをやったって事ですよね、カペラさん。

「うそうそ! あたし、そんな」

 ——でもこうして実際に転移してるわけですし。

「ディアがやったとかいうわけじゃないの?」

 ——わたくしではないです。それは間違いありません。

「そんな」

 そんな荒唐無稽な事。

 ——カペラさんだから出来たのかもですね。きっと今までずっとこの身体の中でレイスの操作に専念してきたのでしょうから。マナの手を伸ばすということもきっと貴女だから。

 ああ。そっか。


『喉から手が出る』って慣用句がある。
 実際の手ではなく、心から何かを欲する時に使う言葉。
 喉から手が出るくらいあれが欲しい。
 そんな使い方をする言葉。

 あたしはずっとクラウディアの裏の存在として生きてきて、実際の手足を動かすよりもずっと、心の手を動かす方が多かった。
 何かを手に取るイメージは、ずっと心の中だけで養ってきたかもしれない。

 だからかな。

 今では実はちょっとしたものなら実際の手を使わなくとも触れるし掴める。
 持ち上げることだってできる。

 見える範囲なら、ちょっと心に力を込めれば引き寄せることができるようになっていた。

 普通に魔法というかマナの力だと思っていたけど、そうか、これがマナの手、か。


 ならば。


「やってみるよ」

 あたしはそうディアに言うと、あの青い地上に向い意識を飛ばす。
 そして。
 もと来た場所。あの草原をマナの目で捉え。

「見えた!」

 レイスのゲートからマナの手を伸ばす。
 そして。
 目的の空間そのものをぎゅっと掴んで。
 今居るここの空間とぐるんと裏返す。

 ああ、空間って不思議だ。
 空間の裏側には距離なんてものは存在していなかった。
 掴んだそれをグネんと捻ると、ぐるんといった感じで裏返り。
 そしてそのままあたしはぐるんと空間ごとひっくり返り、元いた草原に戻っていた。
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