禍《わざわい》の魔女とよばれた公爵令嬢〜王子様から婚約を破棄されました。ほんとは聖女のわたくしなのによろしいのでしょうか?

友坂 悠

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魔の荒野。

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「ごめんなさい。カペラさん」

 なんで謝るの?
 確かにあなたはきっかけだったけど、悪いのはあなたじゃないのに。

 目の前の女性はその真っ白なローブをゆらゆらと揺らしながらあたしが発する氣を受け止めているようだった。

 背後には大勢の人人人。
 ここ魔の大地にあたしを追い詰めた彼ら人間は、あたしを倒すただそれだけのために一つに結びついていた。

 なんだ。できるじゃない。
 人同士が憎み合い争うそんな醜い世界ではなしに、こうして一つになることが。

 荒涼ととしたこの魔の大地。
 人の住む場所をあたしは侵食した。
 あらゆる生命が死に絶えたこの場所は、ガリアの地に広がりもう後わずかで聖都に迫り。

 最初は、全てを滅ぼしてしまうつもりだった。
 あたしの中に広がった真っ赤なシミは、やがてあたしの全身に広がって。

 あたしは人ではない何かに変わってしまっていた。

 それは、魔とでもいうべきもの。

 人として生きている状態ではなしに、魔として存在するあたし。

 魔女、カペラは人ではない、本当の魔女になった。

 そして人々はあたしのことをこう呼んだ。

 禍の魔女、と。


 あたしから滲み出る魔は人の世には強すぎた。
 その毒は、動植物を魔物に変え、そして人すらも魔人に変えて。

 人の世を形作るマナがあたしによる魔に置き換えられるに至って。
 人の住む世界が人が住めない魔の荒野に侵食されるに至って。

 初めて人の世は一つにまとまる道を選んだのだろう。

 それは、それまでの世界の常識を百八十度変えるまでに至り、人は人同士で争っていられる状態では無くなっていた、のだった。

 あたしが侵食した世界はまだ人の住む世界の全てではなかったけれど。
 大きさで言えばまだほんの少ない地域ではあったけれど。
 それでもそれは人々の心に恐怖を植え付けるには充分だった。



 自分が世界を侵食すると悟ったあたしは世界の果てまで飛び、そしてこの身を滅しようともしたけれど。
 世界を滅ぼしてしまおうといっときでもそう思った自分に後悔をしたけれど。
 もはやそれは遅すぎた。

 あたしは自分ではこの魔の侵食を止めることは叶わなくなっていたのだった。



 此の期に及び、あたしはただひたすら自身を滅ぼしてくれる存在をただただ待った。
 もうそれしか此の世界を救う方法は、あたしには思いつかなかったから。



 魔物を倒し魔人を滅し、そうしてとうとうあたしの前に現れてくれた人間の連合、それは神聖教のクロスを掲げたクロス軍と呼ばれていた。

 先頭に立つのは聖女アマリリス。

 彼女のその能力はあたしを滅してくれるのに充分。

 だから、謝らなくていいんだよ。

 あたしは貴女に討たれてあげる。
 ううん、あたしを滅ぼして。お願い。アマリリス。

「ごめんなさいカペラ。わたくしがもっと思慮深く行動してさえいればあなたをこんな目に合わせなくて済んだのに」

 だから、謝らなくていいっていうのに。

 これ以上謝られたらあたし、貴女を憎んでしまう。

 レキシーを救ってくれなかった貴女を。

 エグザさまを救ってくれなかった貴女を。

 逆恨みだってことは充分承知しているの。

 だけど。

 それでも。

 貴女には彼らを助けることができたのだ。
 そんなことを聞かされたらあたし、だめだよ。

 貴女が自分のせいだと自分がもっとしっかりしていたらなんて言えばいうほど、あたしは貴女のことを逆恨みしてしまうもの。



「謝らないで。聖女さま」

 あたしはなんとか。潰れた喉でそれだけを搾り出した。

 あたしの身体は爛れ、もはや人の形をしていない。

 それでも死ねないあたし。

 これ以上あたしがあたしでなくなる前に。

 どうかお願い。

 あたしを殺して。

 お願い。聖女さま。
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