21 / 31
魔の荒野。
しおりを挟む
「ごめんなさい。カペラさん」
なんで謝るの?
確かにあなたはきっかけだったけど、悪いのはあなたじゃないのに。
目の前の女性はその真っ白なローブをゆらゆらと揺らしながらあたしが発する氣を受け止めているようだった。
背後には大勢の人人人。
ここ魔の大地にあたしを追い詰めた彼ら人間は、あたしを倒すただそれだけのために一つに結びついていた。
なんだ。できるじゃない。
人同士が憎み合い争うそんな醜い世界ではなしに、こうして一つになることが。
荒涼ととしたこの魔の大地。
人の住む場所をあたしは侵食した。
あらゆる生命が死に絶えたこの場所は、ガリアの地に広がりもう後わずかで聖都に迫り。
最初は、全てを滅ぼしてしまうつもりだった。
あたしの中に広がった真っ赤なシミは、やがてあたしの全身に広がって。
あたしは人ではない何かに変わってしまっていた。
それは、魔とでもいうべきもの。
人として生きている状態ではなしに、魔として存在するあたし。
魔女、カペラは人ではない、本当の魔女になった。
そして人々はあたしのことをこう呼んだ。
禍の魔女、と。
あたしから滲み出る魔は人の世には強すぎた。
その毒は、動植物を魔物に変え、そして人すらも魔人に変えて。
人の世を形作るマナがあたしによる魔に置き換えられるに至って。
人の住む世界が人が住めない魔の荒野に侵食されるに至って。
初めて人の世は一つにまとまる道を選んだのだろう。
それは、それまでの世界の常識を百八十度変えるまでに至り、人は人同士で争っていられる状態では無くなっていた、のだった。
あたしが侵食した世界はまだ人の住む世界の全てではなかったけれど。
大きさで言えばまだほんの少ない地域ではあったけれど。
それでもそれは人々の心に恐怖を植え付けるには充分だった。
自分が世界を侵食すると悟ったあたしは世界の果てまで飛び、そしてこの身を滅しようともしたけれど。
世界を滅ぼしてしまおうといっときでもそう思った自分に後悔をしたけれど。
もはやそれは遅すぎた。
あたしは自分ではこの魔の侵食を止めることは叶わなくなっていたのだった。
此の期に及び、あたしはただひたすら自身を滅ぼしてくれる存在をただただ待った。
もうそれしか此の世界を救う方法は、あたしには思いつかなかったから。
魔物を倒し魔人を滅し、そうしてとうとうあたしの前に現れてくれた人間の連合、それは神聖教のクロスを掲げたクロス軍と呼ばれていた。
先頭に立つのは聖女アマリリス。
彼女のその能力はあたしを滅してくれるのに充分。
だから、謝らなくていいんだよ。
あたしは貴女に討たれてあげる。
ううん、あたしを滅ぼして。お願い。アマリリス。
「ごめんなさいカペラ。わたくしがもっと思慮深く行動してさえいればあなたをこんな目に合わせなくて済んだのに」
だから、謝らなくていいっていうのに。
これ以上謝られたらあたし、貴女を憎んでしまう。
レキシーを救ってくれなかった貴女を。
エグザさまを救ってくれなかった貴女を。
逆恨みだってことは充分承知しているの。
だけど。
それでも。
貴女には彼らを助けることができたのだ。
そんなことを聞かされたらあたし、だめだよ。
貴女が自分のせいだと自分がもっとしっかりしていたらなんて言えばいうほど、あたしは貴女のことを逆恨みしてしまうもの。
「謝らないで。聖女さま」
あたしはなんとか。潰れた喉でそれだけを搾り出した。
あたしの身体は爛れ、もはや人の形をしていない。
それでも死ねないあたし。
これ以上あたしがあたしでなくなる前に。
どうかお願い。
あたしを殺して。
お願い。聖女さま。
なんで謝るの?
確かにあなたはきっかけだったけど、悪いのはあなたじゃないのに。
目の前の女性はその真っ白なローブをゆらゆらと揺らしながらあたしが発する氣を受け止めているようだった。
背後には大勢の人人人。
ここ魔の大地にあたしを追い詰めた彼ら人間は、あたしを倒すただそれだけのために一つに結びついていた。
なんだ。できるじゃない。
人同士が憎み合い争うそんな醜い世界ではなしに、こうして一つになることが。
荒涼ととしたこの魔の大地。
人の住む場所をあたしは侵食した。
あらゆる生命が死に絶えたこの場所は、ガリアの地に広がりもう後わずかで聖都に迫り。
最初は、全てを滅ぼしてしまうつもりだった。
あたしの中に広がった真っ赤なシミは、やがてあたしの全身に広がって。
あたしは人ではない何かに変わってしまっていた。
それは、魔とでもいうべきもの。
人として生きている状態ではなしに、魔として存在するあたし。
魔女、カペラは人ではない、本当の魔女になった。
そして人々はあたしのことをこう呼んだ。
禍の魔女、と。
あたしから滲み出る魔は人の世には強すぎた。
その毒は、動植物を魔物に変え、そして人すらも魔人に変えて。
人の世を形作るマナがあたしによる魔に置き換えられるに至って。
人の住む世界が人が住めない魔の荒野に侵食されるに至って。
初めて人の世は一つにまとまる道を選んだのだろう。
それは、それまでの世界の常識を百八十度変えるまでに至り、人は人同士で争っていられる状態では無くなっていた、のだった。
あたしが侵食した世界はまだ人の住む世界の全てではなかったけれど。
大きさで言えばまだほんの少ない地域ではあったけれど。
それでもそれは人々の心に恐怖を植え付けるには充分だった。
自分が世界を侵食すると悟ったあたしは世界の果てまで飛び、そしてこの身を滅しようともしたけれど。
世界を滅ぼしてしまおうといっときでもそう思った自分に後悔をしたけれど。
もはやそれは遅すぎた。
あたしは自分ではこの魔の侵食を止めることは叶わなくなっていたのだった。
此の期に及び、あたしはただひたすら自身を滅ぼしてくれる存在をただただ待った。
もうそれしか此の世界を救う方法は、あたしには思いつかなかったから。
魔物を倒し魔人を滅し、そうしてとうとうあたしの前に現れてくれた人間の連合、それは神聖教のクロスを掲げたクロス軍と呼ばれていた。
先頭に立つのは聖女アマリリス。
彼女のその能力はあたしを滅してくれるのに充分。
だから、謝らなくていいんだよ。
あたしは貴女に討たれてあげる。
ううん、あたしを滅ぼして。お願い。アマリリス。
「ごめんなさいカペラ。わたくしがもっと思慮深く行動してさえいればあなたをこんな目に合わせなくて済んだのに」
だから、謝らなくていいっていうのに。
これ以上謝られたらあたし、貴女を憎んでしまう。
レキシーを救ってくれなかった貴女を。
エグザさまを救ってくれなかった貴女を。
逆恨みだってことは充分承知しているの。
だけど。
それでも。
貴女には彼らを助けることができたのだ。
そんなことを聞かされたらあたし、だめだよ。
貴女が自分のせいだと自分がもっとしっかりしていたらなんて言えばいうほど、あたしは貴女のことを逆恨みしてしまうもの。
「謝らないで。聖女さま」
あたしはなんとか。潰れた喉でそれだけを搾り出した。
あたしの身体は爛れ、もはや人の形をしていない。
それでも死ねないあたし。
これ以上あたしがあたしでなくなる前に。
どうかお願い。
あたしを殺して。
お願い。聖女さま。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜
白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます!
➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結保証】嘘で繋がった婚約なら、今すぐ解消いたしましょう
ネコ
恋愛
小侯爵家の娘リュディアーヌは、昔から体が弱い。しかし婚約者の侯爵テオドールは「君を守る」と誓ってくれた……と信じていた。ところが、実際は健康体の女性との縁談が来るまでの“仮婚約”だったと知り、リュディアーヌは意を決して自ら婚約破棄を申し出る。その後、リュディアーヌの病弱は実は特異な魔力によるものと判明。身体を克服する術を見つけ、自由に動けるようになると、彼女の周りには真の味方が増えていく。偽りの縁に縛られる理由など、もうどこにもない。

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。
氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。
聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。
でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。
「婚約してほしい」
「いえ、責任を取らせるわけには」
守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。
元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。
小説家になろう様にも、投稿しています。
誰にも愛されずに死んだ侯爵令嬢は一度だけ時間を遡る
月
ファンタジー
癒しの能力を持つコンフォート侯爵家の娘であるシアは、何年経っても能力の発現がなかった。
能力が発現しないせいで辛い思いをして過ごしていたが、ある日突然、フレイアという女性とその娘であるソフィアが侯爵家へとやって来た。
しかも、ソフィアは侯爵家の直系にしか使えないはずの能力を突然発現させた。
——それも、多くの使用人が見ている中で。
シアは侯爵家での肩身がますます狭くなっていった。
そして十八歳のある日、身に覚えのない罪で監獄に幽閉されてしまう。
父も、兄も、誰も会いに来てくれない。
生きる希望をなくしてしまったシアはフレイアから渡された毒を飲んで死んでしまう。
意識がなくなる前、会いたいと願った父と兄の姿が。
そして死んだはずなのに、十年前に時間が遡っていた。
一度目の人生も、二度目の人生も懸命に生きたシア。
自分の力を取り戻すため、家族に愛してもらうため、同じ過ちを繰り返さないようにまた"シアとして"生きていくと決意する。

【完結】仕事を放棄した結果、私は幸せになれました。
キーノ
恋愛
わたくしは乙女ゲームの悪役令嬢みたいですわ。悪役令嬢に転生したと言った方がラノベあるある的に良いでしょうか。
ですが、ゲーム内でヒロイン達が語られる用な悪事を働いたことなどありません。王子に嫉妬? そのような無駄な事に時間をかまけている時間はわたくしにはありませんでしたのに。
だってわたくし、週4回は王太子妃教育に王妃教育、週3回で王妃様とのお茶会。お茶会や教育が終わったら王太子妃の公務、王子殿下がサボっているお陰で回ってくる公務に、王子の管轄する領の嘆願書の整頓やら収益やら税の計算やらで、わたくし、ちっとも自由時間がありませんでしたのよ。
こんなに忙しい私が、最後は冤罪にて処刑ですって? 学園にすら通えて無いのに、すべてのルートで私は処刑されてしまうと解った今、わたくしは全ての仕事を放棄して、冤罪で処刑されるその時まで、押しと穏やかに過ごしますわ。
※さくっと読める悪役令嬢モノです。
2月14~15日に全話、投稿完了。
感想、誤字、脱字など受け付けます。
沢山のエールにお気に入り登録、ありがとうございます。現在執筆中の新作の励みになります。初期作品のほうも見てもらえて感無量です!
恋愛23位にまで上げて頂き、感謝いたします。

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?
宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。
そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。
婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。
彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。
婚約者を前に彼らはどうするのだろうか?
短編になる予定です。
たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます!
【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。
ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる