禍《わざわい》の魔女とよばれた公爵令嬢〜王子様から婚約を破棄されました。ほんとは聖女のわたくしなのによろしいのでしょうか?

友坂 悠

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手を引かれ。

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 手を引かれ歩いている間にディアの目が覚めたみたい。
 あたしはそっと身体のコントロールを彼女に返す。

 はっとビクッとして。
 状況に驚きつつもそのままなんとかついていくディア。
 顔がどんどん赤くなり。
 熟れたトマトのように真っ赤になったその顔が熱い。

 うん。がんばれ。

 あたしはそう親が子供を見るようなそんな気分でディアの様子を見守っていた。

 今日はどこにいくのかな?
 それには少し興味があったあたし。
 心の中で「どこに行くか聞こう、黙ってるとどこに連れて行かれるかわからないよ」とそう囁く。
 ディアにその声が聞こえるとは思ってはいないけど、それでも少しは彼女の心をそっちに誘導できるのは今までの経験で感じていた。

 真っ赤になって、それでも。

「あの、ジークさま。今日はどちらに行かれるのでしょう?」

 なんとかそう言葉を紡ぎ出したディア。

 うん、そうだよ。
 やればできるじゃない。

 あたしは心の中で彼女の魂《レイス》を撫でる。
 ん?
 気分の問題よ。気分のね?

「ああディア。そう聞いてくれて嬉しいよ。今日はね、君に王宮図書館を見せてあげようと思ってさ」

 そう述べる殿下。

 って、えー?
 王宮図書館だって。
 ああ、すっごく嬉しい。

 そんなふうに思いっきり喜んでいるあたしと裏腹に、キョトンとしてしまっているクラウディア。

「図書館、興味ない?」

 せっかくの大切な場所なのだろう。図書館っていうのはジーク殿下にとっても。きっと。
 あまり良い反応が返ってこなかったことに、ちょっとしょんぼりした顔を見せる殿下。

「あ、ごめんなさい。わたくし図書館っていうのがよくわからなくて」

 殿下があからさまに悲しそうな顔をしたのがクラウディアにもわかったのだろう。
 彼女はそう弁解した。

 ああそっか。
 クラウディアは図書館がどんなところか知らないんだ。

 公爵家の図書室にさえ出入りさせてもらえなかったディアは、図書館というものそのものを知らなかった。
 学園に入学した後であればきっと彼女も図書館が好きになる、そんな予感はあったけど。
 まだ見たこともない空間を想像することは流石に無理っていうものだ。

 ふふふ。
 まあしょうがないよね。
 でも、王宮図書館、かぁ。
 どんな場所だろう。
 すっごく楽しみだ。

「そっか。それならしょうがないね。でもきっと君にも気に入ってもらえると思うよ」

 しょぼんとした顔がぱあっと明るくなった。

 うん。ジーク殿下は笑った顔の方が素敵だ。

 しょぼんとした顔もそれはそれでなんだかいじめちゃいたくなるようなそんなお顔だけどそれでもね。

 殿下は再びニコニコと上機嫌でクラウディアの手を引いて。

 王宮の真っ赤なベルベットの敷き詰められた廊下を歩いて行った。

 ふふ。

 ちょっとスキップするような感じで、かわいいな。

 あたしはほんと微笑ましい気分になって。
 幸せ、だな。

 そう感じていた。
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