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レキシー。
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カラン。
扉を開けて中に入ると飛び出してきたのは少年だった。
「帰りやがれ! って、あれ? 聖女さま? どうして?」
「あら、レキシー? あなたこそどうしてここに?」
殴りかからん勢いで隅から飛び出してきた少年レキシーだったが、目の前にいるのがいつも孤児院に差し入れを持ってきてくれる聖女さまだとわかって仰天している。
「どうしたもこうしたも。この間から変に嫌がらせが続いて困ってるんだ。魔道士協会っていうの? 最初は中に入れろっていうだけだったのが最近じゃ俺たちに出ていけときたもんだ。ここはじっちゃんから守ってくれと頼まれた俺たちの家なんだ。理不尽に出て行けって言われてはいそうですかって出ていけるもんか」
「ああ。レキシー」
「俺はカペラに拾われた。カペラはじっちゃんに助けられた。その恩は返さなきゃなんねえ。それに、ここは俺とカペラにとって大事な本がいっぱいあるんだ。じっちゃんに守ってくれって頼まれた本、知らない奴に渡すわけにはいかないんだよ」
「君、そのじっちゃんっていうのはエグザ・ネイチャー老師のことだよね? 彼は先日お亡くなりになったんだよ」
横からそう、フロスが口を出した。
あっ。そうアマリリスが声を出すと同時に、
「嘘だ! エグザさまがお亡くなりになるわけない! エグザさまは優れた魔道士なんだ。そう簡単におっ死ぬわけはないんだ!」
階段の上からそうカペラが叫ぶ。
その顔には涙が零れ落ちんばかりに浮かんでいた。
泣き出したカペラを宥めるようにレキシーが背中を撫でる。
とりあえず、ということでレキシーの計らいでリビングのテーブルに腰掛けたマリアンヌたち。
マリアンヌの正面の席に座らされたカペラの背中に手を当てたまま、
「なあカペラ。そう泣くなよ。じっちゃんが死んじまっただなんて俺も考えたくないけども、聖女さまが嘘をいうわけもないんだ。だから……」
「だって、だって。エグザさまはあたしに言ったんだ。『わしが戻るまでこの屋敷の管理を、わしの蔵書を全て任せたぞ』って、そう……」
ぐずぐずと泣く彼女にアマリリスもどう答えてあげていいのか分からずにいた。
大事な人が亡くなっただなんていう話をこんな形で聞かされてその気持ちはいくばくか。
「ああ、あたしのせいだ。やっぱりあたしがあの時もっと強かったらエグザさまはみすみす戦争になんか行かずに済んだのに」
泣きながらそう叫ぶ彼女に、慰めの言葉も見つからない。
「何か気の休まるお飲み物でも用意いたしましょうか?」
タビアがそうアマリリスの耳元で囁いた。
「そうね。ねえレキシー、ちょっとお台所をお借りしてもいいかしら」
「ああ、いいよ。悪いけど任せるよ」
そうタビアの方を向き答えるレキシー。
外で包囲する重装歩兵軍団のことも忘れているわけではなかったが、アマリリスにはこれでもう不埒なことも起きずに解決するものとそう楽観し始めたその時、だった。
「残念ですがこれで時間切れです。このまま我々は屋敷の中に突入いたします!」
セキレイのそんな声が拡声魔法に乗って屋敷中にひびき渡った。
扉を開けて中に入ると飛び出してきたのは少年だった。
「帰りやがれ! って、あれ? 聖女さま? どうして?」
「あら、レキシー? あなたこそどうしてここに?」
殴りかからん勢いで隅から飛び出してきた少年レキシーだったが、目の前にいるのがいつも孤児院に差し入れを持ってきてくれる聖女さまだとわかって仰天している。
「どうしたもこうしたも。この間から変に嫌がらせが続いて困ってるんだ。魔道士協会っていうの? 最初は中に入れろっていうだけだったのが最近じゃ俺たちに出ていけときたもんだ。ここはじっちゃんから守ってくれと頼まれた俺たちの家なんだ。理不尽に出て行けって言われてはいそうですかって出ていけるもんか」
「ああ。レキシー」
「俺はカペラに拾われた。カペラはじっちゃんに助けられた。その恩は返さなきゃなんねえ。それに、ここは俺とカペラにとって大事な本がいっぱいあるんだ。じっちゃんに守ってくれって頼まれた本、知らない奴に渡すわけにはいかないんだよ」
「君、そのじっちゃんっていうのはエグザ・ネイチャー老師のことだよね? 彼は先日お亡くなりになったんだよ」
横からそう、フロスが口を出した。
あっ。そうアマリリスが声を出すと同時に、
「嘘だ! エグザさまがお亡くなりになるわけない! エグザさまは優れた魔道士なんだ。そう簡単におっ死ぬわけはないんだ!」
階段の上からそうカペラが叫ぶ。
その顔には涙が零れ落ちんばかりに浮かんでいた。
泣き出したカペラを宥めるようにレキシーが背中を撫でる。
とりあえず、ということでレキシーの計らいでリビングのテーブルに腰掛けたマリアンヌたち。
マリアンヌの正面の席に座らされたカペラの背中に手を当てたまま、
「なあカペラ。そう泣くなよ。じっちゃんが死んじまっただなんて俺も考えたくないけども、聖女さまが嘘をいうわけもないんだ。だから……」
「だって、だって。エグザさまはあたしに言ったんだ。『わしが戻るまでこの屋敷の管理を、わしの蔵書を全て任せたぞ』って、そう……」
ぐずぐずと泣く彼女にアマリリスもどう答えてあげていいのか分からずにいた。
大事な人が亡くなっただなんていう話をこんな形で聞かされてその気持ちはいくばくか。
「ああ、あたしのせいだ。やっぱりあたしがあの時もっと強かったらエグザさまはみすみす戦争になんか行かずに済んだのに」
泣きながらそう叫ぶ彼女に、慰めの言葉も見つからない。
「何か気の休まるお飲み物でも用意いたしましょうか?」
タビアがそうアマリリスの耳元で囁いた。
「そうね。ねえレキシー、ちょっとお台所をお借りしてもいいかしら」
「ああ、いいよ。悪いけど任せるよ」
そうタビアの方を向き答えるレキシー。
外で包囲する重装歩兵軍団のことも忘れているわけではなかったが、アマリリスにはこれでもう不埒なことも起きずに解決するものとそう楽観し始めたその時、だった。
「残念ですがこれで時間切れです。このまま我々は屋敷の中に突入いたします!」
セキレイのそんな声が拡声魔法に乗って屋敷中にひびき渡った。
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