禍《わざわい》の魔女とよばれた公爵令嬢〜王子様から婚約を破棄されました。ほんとは聖女のわたくしなのによろしいのでしょうか?

友坂 悠

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説得。

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 ガシャガシャと歩く重装歩兵。その鎧には防御の魔法陣が描かれている。
 通常の魔法攻撃だけではなく物理攻撃さえある程度は無効化するその術式は、古代の帝国時代の技術でもあった。
 魔法術式で守られた盾と鎧でその身を守りその隙間から槍を出す、ファランクス形態と呼ばれるそれは過去の帝国軍を無敵と言わしめるに相応しい装いで。
 そんな技術アーツを持ち出してまで相対しなければならないなんて、その自称後継者である魔道士はどれほどの魔法を操るのか。
 リーダーのセキレイに率いられた魔道士たちの中にもいかにもこれは大袈裟だろうとそう思っているものもちらほらいたくらいだった。

 普段であれば早朝のそろそろいちも立とうかという頃合いで人々も起き出し往来も賑わいを見せる頃ではあったが、この王宮より出立した重装歩兵軍団の物々しさに、みな家の窓から外を様子見るにとどめている。

 子供の嬌声も親が抑えるのか全く聞こえてこない異常な朝に、聖女はただ一人、ため息をついていた。

「姫さま。大丈夫ですか?」
「姫さま。お顔の色が優れませんが」

 そう心配そうにつきそうフロスとタビア。

「ごめんね心配かけて。わたくしは大丈夫ですよ。ただ、こういった物々しさに人々が不安に感じているだろうことが悲しいのです」

「姫さま……」
「姫様がそう気にやむことではございません。どうしようもないことではありませんか」

「ありがとうタビア、フロス。でもね、それでもわたくしは神聖教より聖女の名を与えられているのですもの。なんとかしなければと願うこともわたくしの使命なのですわ……」

「姫様は真面目すぎます。それであれば本来は神聖教の教皇が担うことではありませんか。今代の教皇は奥に籠っているばかり、決して表に出てこようとはなされませんのに。姫様だけがそう気にやむ必要はないと私は思ってしまいます」

「ごめんねフロス。でもね、こんな世界こんなご時世でもわたくしにもまだできることがあるはず。そう思うと」

「どうかあまりご自分だけで抱え込まないでください。私は姫様が心配です」

「ありがとう。フロス。大好きよ」



 問題の場所に到着し屋敷の周りに一部の兵士を散開させたセキレイは、正面玄関の前に立ち声を上げた。

「魔道士協会である。この屋敷は国家の管轄に置かれた。中にいるものは至急退去しここを明け渡すように!」

「待ってください! セキレイ様、わたくしに交渉させて下さるのではなかったのですか!」

 いきなりの横暴な物言いに声を上げたアマリリス。
 しかし、遅かった。

「あたしはエグザさまからここを預かったんだ! じいさんが戻るまでここから出るわけにはいかないよ!」

 そう中から女性の声がした。

 ああ、まだうら若い女性、少女と言ってもいいくらいなそんな女性が建物の二階の窓から顔を出す。

「私はまず宣言を発したまで。実力行使に出るまでに少し時間をあげましょう。さあどうか彼女を説得してみてください」

 そうにやけた顔をこちらに向けるセキレイ。

 アマリリスはふうとため息をつくと、扉までまっすぐ進んでいった。

 途中突風が吹き彼女の前進を止めるとどめるかに見えたが、その風は彼女の周囲で急激に収まって。
 そのまま扉をあけ中に入る彼女。
 二人の随身も慌てて追いかけていった。
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