12 / 31
大規模魔法。
しおりを挟む
今日はあちら、明日はこちら。
戦火の煙があちらからもこちらからもたつようになっていた昨今、聖王国では自国に火の粉が掛からなければそれでいいと考える刹那的な人々が増えていた。
聖王国の貴族らは同時に周囲の小国の王を兼ねるものも多く、己の利権をかけて戦争に明け暮れ。
かろうじて聖王国内だけは戦火を免れているだけの状態で。
聖王国中央にある神聖教教皇領。
それがあるがため外では争う貴族もフーデンブルク聖王国国内ではお互いに牽制するにとどまっていたというのが正しい。
その状態を嘆かわしく思う女性が一人。
聖女アマリリスは王宮の自室にて現状に憂い自身の力のなさを嘆いていた。
なんのための神聖教か。
なんのための聖女か。
戦火によって街には孤児が増え。
そしてそういった孤児を捕まえ奴隷として売る非合法な奴隷商が蔓延る。
もちろん国の法はそうした奴隷も奴隷商も禁止はしているのだけれど実際にそうした横行を止める術はもはやなく。
奴隷は安価な労働力として、そして安価な兵力としてその需要が増していた。
また、食べ物もなく働き口もなくただただ死を待つのみだった孤児にとっても、そうやって奴隷として売り買いされた方が生き延びられる確率も上がるとあって。
こうした奴隷売買はこの世界での必要悪と見做されるに至っていたのだった。
それでも。
聖女アマリリスの胸中はそんな必要悪などという言葉では誤魔化すことは出来はしなかった。
孤児院は、
一時的な救済にしかならないことは十分理解している。
教育と、自由な働き口、そして幸せな人生を生きること。
簡単に叶うことではないけれど。
求める人にはそれが叶う世界が欲しい。
ううん、
求めることさえできない、
いいえ、
求めることさえ知らないそんな子供を一人でも減らしたい。
そう願ってやまないのだ。
西方のコルドバとその北にあるフェリオ公国との戦争は激しさを増し、とうとう十万人もの被害を出したと言われるゴンドワの戦いがおこった。
この戦いでは双方の主力がほぼ壊滅するといった結果で、大規模な魔法戦は周囲5キロ四方を焼け野原にしたという。
ゴンドワの砦はその威容を跡形もなく消し去られ、そこで使用された大規模魔法の威力に人々は恐れ慄いた。
ただ、使用した魔法士本人もすでにこの世のものでは無く。
その技術を知るものももはやいないだろうと思われていたのだが。
宮殿内の魔道士の塔周辺がざわめき立っていることに気がついたアマリリスは、側近を連れてその様子を見にいくことにした。
「何か良くない予感がするのです」
そういうアマリリスに側近の二人も不安に感じて。
「何があったのですか!」
物々しい重装備に身を固めた魔道士たち。
そのリーダーなのであろう青年が前に出て答える。
「これは、聖女アマリリス様。どうされましたか?」
そう皮肉な笑みを浮かべ話すその姿に、アマリリスは不穏な空気を感じていた。
「どうもこうも、こんな夜更けにそんな重装備で身を固め、今にも戦争に行くような姿ではありませんか」
「ああ。ご心配には及びません。我々はこれから亡きネイチャー老師の館を接収すべく出動するところです。賊の排除も必要でしょうからこうした装備ではありますが」
「なんと、ネイチャー老師はお亡くなりになったというのですか!?」
「ご存知ございませんでしたか。先日行われたコルドバとフェリオ公国の戦争の際、ゴンドワの砦で使用された大規模魔法、それがネイチャー老師の行使されたものだったわけですが。その際老師も命を落とされたということなのです」
「なんと、そうでしたか……」
「流石にあの規模の大規模魔法です、国家の管理におかず放置するわけには参りません。彼の屋敷にその魔法陣の資料や魔法術式の内容が書かれた資料が存在するはずなのですが、現在彼の地は野良魔道士に占拠されておりまして。ですから我々はこうして実力行使に出ざるを得ないとこういう訳でございます」
「占拠、とは穏やかではないですね」
「ネイチャー老師の後継者を自称する野良魔道士ですがね。生意気にもかなり手強い魔法を使うとあってうちの協会の使いはことごとく追い払われました」
「なんと、それではその方は老師のお弟子さんということではないですか!」
「弟子であろうとなんであろうと、老師の重要な文献は国家の財産です。個人が勝手にしていいものではないのですよ? まして、今回接収する必要性に駆られている大規模魔法はもしもこの聖都で使われでもしたら神聖教領から王宮まで全てが灰になる危険があるのです。放置するわけには参りません」
「ですが」
「いくら聖女様であってもこの決定は覆りません。我々魔道士協会としてはこの国の安全を守るためには多少の犠牲は致し方ないと思っておりますゆえ」
「それでは、せめて、わたくしも連れて行ってはいただけませんか? なんとかそのお弟子さんを説得してみます。そのお屋敷を明け渡していただければそれでいいのでしょう? それなら話し合いでなんとかするべきではないでしょうか」
「そこまでいうなら聖女様、やってみればいいです。まあ、物別れに終わるようだったら我々は容赦せず屋敷の接収に入りますから」
両手を広げそんなにいうならやってみせろよとでも言いたげに苦笑いを浮かべるその青年。
聖女アマリリスはそれ以上は口をつぐみ。
彼らの後をついていくことにした。
なんとか話してわかってもらわないと。そう決意をして。
戦火の煙があちらからもこちらからもたつようになっていた昨今、聖王国では自国に火の粉が掛からなければそれでいいと考える刹那的な人々が増えていた。
聖王国の貴族らは同時に周囲の小国の王を兼ねるものも多く、己の利権をかけて戦争に明け暮れ。
かろうじて聖王国内だけは戦火を免れているだけの状態で。
聖王国中央にある神聖教教皇領。
それがあるがため外では争う貴族もフーデンブルク聖王国国内ではお互いに牽制するにとどまっていたというのが正しい。
その状態を嘆かわしく思う女性が一人。
聖女アマリリスは王宮の自室にて現状に憂い自身の力のなさを嘆いていた。
なんのための神聖教か。
なんのための聖女か。
戦火によって街には孤児が増え。
そしてそういった孤児を捕まえ奴隷として売る非合法な奴隷商が蔓延る。
もちろん国の法はそうした奴隷も奴隷商も禁止はしているのだけれど実際にそうした横行を止める術はもはやなく。
奴隷は安価な労働力として、そして安価な兵力としてその需要が増していた。
また、食べ物もなく働き口もなくただただ死を待つのみだった孤児にとっても、そうやって奴隷として売り買いされた方が生き延びられる確率も上がるとあって。
こうした奴隷売買はこの世界での必要悪と見做されるに至っていたのだった。
それでも。
聖女アマリリスの胸中はそんな必要悪などという言葉では誤魔化すことは出来はしなかった。
孤児院は、
一時的な救済にしかならないことは十分理解している。
教育と、自由な働き口、そして幸せな人生を生きること。
簡単に叶うことではないけれど。
求める人にはそれが叶う世界が欲しい。
ううん、
求めることさえできない、
いいえ、
求めることさえ知らないそんな子供を一人でも減らしたい。
そう願ってやまないのだ。
西方のコルドバとその北にあるフェリオ公国との戦争は激しさを増し、とうとう十万人もの被害を出したと言われるゴンドワの戦いがおこった。
この戦いでは双方の主力がほぼ壊滅するといった結果で、大規模な魔法戦は周囲5キロ四方を焼け野原にしたという。
ゴンドワの砦はその威容を跡形もなく消し去られ、そこで使用された大規模魔法の威力に人々は恐れ慄いた。
ただ、使用した魔法士本人もすでにこの世のものでは無く。
その技術を知るものももはやいないだろうと思われていたのだが。
宮殿内の魔道士の塔周辺がざわめき立っていることに気がついたアマリリスは、側近を連れてその様子を見にいくことにした。
「何か良くない予感がするのです」
そういうアマリリスに側近の二人も不安に感じて。
「何があったのですか!」
物々しい重装備に身を固めた魔道士たち。
そのリーダーなのであろう青年が前に出て答える。
「これは、聖女アマリリス様。どうされましたか?」
そう皮肉な笑みを浮かべ話すその姿に、アマリリスは不穏な空気を感じていた。
「どうもこうも、こんな夜更けにそんな重装備で身を固め、今にも戦争に行くような姿ではありませんか」
「ああ。ご心配には及びません。我々はこれから亡きネイチャー老師の館を接収すべく出動するところです。賊の排除も必要でしょうからこうした装備ではありますが」
「なんと、ネイチャー老師はお亡くなりになったというのですか!?」
「ご存知ございませんでしたか。先日行われたコルドバとフェリオ公国の戦争の際、ゴンドワの砦で使用された大規模魔法、それがネイチャー老師の行使されたものだったわけですが。その際老師も命を落とされたということなのです」
「なんと、そうでしたか……」
「流石にあの規模の大規模魔法です、国家の管理におかず放置するわけには参りません。彼の屋敷にその魔法陣の資料や魔法術式の内容が書かれた資料が存在するはずなのですが、現在彼の地は野良魔道士に占拠されておりまして。ですから我々はこうして実力行使に出ざるを得ないとこういう訳でございます」
「占拠、とは穏やかではないですね」
「ネイチャー老師の後継者を自称する野良魔道士ですがね。生意気にもかなり手強い魔法を使うとあってうちの協会の使いはことごとく追い払われました」
「なんと、それではその方は老師のお弟子さんということではないですか!」
「弟子であろうとなんであろうと、老師の重要な文献は国家の財産です。個人が勝手にしていいものではないのですよ? まして、今回接収する必要性に駆られている大規模魔法はもしもこの聖都で使われでもしたら神聖教領から王宮まで全てが灰になる危険があるのです。放置するわけには参りません」
「ですが」
「いくら聖女様であってもこの決定は覆りません。我々魔道士協会としてはこの国の安全を守るためには多少の犠牲は致し方ないと思っておりますゆえ」
「それでは、せめて、わたくしも連れて行ってはいただけませんか? なんとかそのお弟子さんを説得してみます。そのお屋敷を明け渡していただければそれでいいのでしょう? それなら話し合いでなんとかするべきではないでしょうか」
「そこまでいうなら聖女様、やってみればいいです。まあ、物別れに終わるようだったら我々は容赦せず屋敷の接収に入りますから」
両手を広げそんなにいうならやってみせろよとでも言いたげに苦笑いを浮かべるその青年。
聖女アマリリスはそれ以上は口をつぐみ。
彼らの後をついていくことにした。
なんとか話してわかってもらわないと。そう決意をして。
1
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
【短編集】あなたが本当に知りたいことは何ですか?
ひかり芽衣
恋愛
「私を信じるなら、これを飲ませてごらん?」
それは、”一つだけ知りたい真実を知ることが出来る薬”だった……
カトリーヌの住む町には魔女がいる。人々は忌み嫌っており、森のハズレの魔女の家に人々は近づこうとしない。藁にもすがる想いの者を除いて……
果物屋の看板娘カトリーヌは、ひょんなことから魔女に小瓶を手渡され、上記セリフを言われる。
実は最近のカトリーヌは、恋煩いという名の病を罹っていた。片想いをしている幼馴染ローイの気持ちが知りたくて……
オムニバス形式というのでしょうか? 共通テーマのある短編集です。各章ごとに完結しているので、一つだけ読んでも大丈夫です。
各章毎に一気に投稿するので、毎回一応完結で投稿します。
書きたい時に書いて投稿します!
こんな薬が手に入ったなら、あなたならどうしますか?
色々なバージョンを読んでいただけたらと思います!
よろしくお願いいたします^ ^

【本篇完結】無能だと言われて婚約破棄に追放されましたが、女王陛下に見初められました!
ユウ
恋愛
ルイス・フェンネルは平凡でありながら温和で心優しい青年だった。
家族をこよなく愛し、領地の特産物でもある薬草を育てることに精を出していた。
ただ目下の悩みは婚約者のマリエルとの関係だった。
長男でありながら、婿養子に迎えられる立場故に、我儘で横暴なマリエルには困り果てていた。
「本当に無能な男、こんな男と結婚しなくてはいけないんてなんて不幸なの!」
そんな中、マリエルに婚約破棄を告げられ伯爵家から追い出されてしまうのだが――。
「誰の邪魔にならないように静かに暮らそう」
婚約破棄を甘んじて受けようとしたルイスだったが、リディア王女殿下に見初められてしまう。
しかもリディア王女殿下は、第一王位継承権を持っており、次期女王陛下となることが決まっていた。
婚約破棄をされ追放されたはずが、いきなり王配となるのだが、マリエルが王宮に乗り込んで来てしまう。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

旦那様は離縁をお望みでしょうか
村上かおり
恋愛
ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。
けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。
バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。

【コミカライズ&書籍化・取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。
私の初恋の男性が、婚約者に今にも捨てられてしまいそうです
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【私の好きな人が婚約者に捨てられそうなので全力で阻止させて頂きます】
入学式で困っている私を助けてくれた学生に恋をしてしまった私。けれど彼には子供の頃から決められていた婚約者がいる人だった。彼は婚約者の事を一途に思っているのに、相手の女性は別の男性に恋している。好きな人が婚約者に捨てられそうなので、全力で阻止する事を心に決めたー。
※ 他サイトでも投稿中

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜
白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます!
➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ
こな
恋愛
公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。
待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。
ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる