禍《わざわい》の魔女とよばれた公爵令嬢〜王子様から婚約を破棄されました。ほんとは聖女のわたくしなのによろしいのでしょうか?

友坂 悠

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生きている喜び。

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 ふふ。ふふふ。
 あはははは。

 使えるよ。あたし、魔法が間違いなく使えるよ!

 その場で思いっきりジャンプして。
 両手を伸ばす。
 全身で喜びを表したあたし。
 生きてる。
 あたし、生きてる。
 嘘じゃない。
 間違いでもない。
 この身体はあたしだけのものじゃないけれど、でも。

 あたしはこの身体の中に、ちゃんと生きている。
 そう感じて心の中から湧き出てくる悦びに浸ってたところでどうやらクラウディアが起きた。

 起き抜けで立っているものだから一瞬キョトンとした彼女。
 でもすぐに忘れてそのまま扉に向かって歩き出した。
 ちょうどそのタイミングで扉を叩くアンに、「おはようアン。わたくしお手洗いに行きたいの」そう可愛らしい声でおねだりするクラウディア。

「まあまあお嬢様。お早いお目覚めだと思ったらお手洗いでございますね。さあさこちらです。ご一緒に向かいましょう」
 そうアンに手を引かれ廊下を歩く。

 お手洗いまではそんなに遠くはないけれど。
 あたしはアンと手を繋いでるこの時間を楽しんで。
 アンが、彼女が寄せてくれる愛情をその手に感じて心が温かくなっていた。



 明るい日差し。
 気持ちのいい青い空。
 おいしい空気。

 心地よい風に。
 ゆうらりとほおにあたるその感触に。
 あたしは生きている喜びを感じていた。

 お庭のお池の周りの芝生が気持ち良くて。
 裸足になって寝転がった。

 こうしてお庭で遊んでる時もあたしをやさしくみまもってくれるお母様とアン。
 ああもちろん、身体を動かしてるのはクラウディアだしお母様やアンがその優しい瞳でみつめているのも彼女、クラウディアであってあたしじゃないのも充分わかってる。

 でも。

 それでも嬉しいの。

 幸せを感じているクラウディアの心がそのままあたしにも伝わってきて。
 まるで自分がそう感じているかのように嬉しい。
 そんな感情まで共有できている事は不思議だなって思うけれどほんと。
 どうしてだろうね?


 そんなふうに。
 あたしはクラウディアとしての幼少期を過ごしてた。
 幸せで、何も考えなくてもいいくらいに幸せで。
 こんな幸せな人生があってもいいのだろうか?
 そんなふうに思えてきたのはあたしがクラウディアの中で目覚めて二年が経とうとした頃だった。


 七つになったあたしクラウディアはお父様に連れられて王宮に来ていた。
 お父様、マルクス・ファウンバーレン公爵が従兄弟でもある当時の王太子、レクサス・アウレリアヌス・フーデンブルク殿下のもとを訪ねて、というだけの話だったけれどなぜかそこにつれてこられていたクラウディア。

 レクサスさまの元には御子息のジークフリート殿下がいらっしゃったから、きっとあたしたちの顔合わせの意味もあったんだろうと思う。

 お父様たちは難しいお話があるからと子供だけで中庭に繰り出したあたしたち。
 会ったばかりのあたしの手を引くジーク殿下に、あたしクラウディアは顔を真っ赤にしてよたよたついて行ったのだった。
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