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本の部屋。
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キラキラとふる光。
ほこりに反射した優しい光がふわふわと漂って。
そんな幻想的な雰囲気が好き。
この部屋の本たちの背表紙があたしをよんでいるようで。
ゆらゆら揺れるチェアにゆったりと座り、お気に入りの本を読む。
最初はとにかく右端から順番に読んでいった。難しい文字ばかりだったからちょっと苦労して。
段々と、その文字と文字が繋がっていって。
いつの間にかあたしにその意味を理解させてくれていた。
不思議だな。
あたしはエグザさまに拾ってもらわなかったら、きっと今頃は生きていなかったかもしれない。
奴隷の一生は短いと聞く。
病気になってもまともに治療してもらえないなんてことはしょっちゅうらしい。
まあそれはそうか。
奴隷の命は治療費よりも安いもの。
死んでしまっても代わりがいるもの。
エグザさまみたいに、まるで家族のように接してくれるそんな奇特な人はそうはいないから。
「わしが戻るまでこの屋敷の管理を、わしの蔵書を全て任せたぞ」
そう言い残して出立したエグザさま。
あたしはきっと、約束を果たす。
エグザさまが帰ってこられるまで、ここでこうして本を護って暮らすのだ。
そう決意して。
一人の食事を用意するのは気乗りがせず、クロコの食事だけは欠かさなかったけどそれでも。
あたしにはずいぶんと時間ができてしまった。
ただ一人ここに残され過ごすのは寂しくて。
あたしもずいぶんと人間くさくなったものだとそう自嘲して。
いつしかここで、この図書室でこうして本に囲まれて1日を過ごすようになって。
あたしはエグザさまの蔵書を片っぱしから読んで。
いつの間にか魂の奥底で理解して。
そして。
気がついた時。
あたしの中にはエグザさまの知識が多種多様にわたって蓄積されて行った。
元々魔法を行使するための素質っていうのかなそういうものがあったのか、あたしは魔法を自由自在に操れる、いわゆる魔女になっていた。
エグザさまの弟子。正当継承者。そう名乗ってもいいくらいには魔法の腕前も上がっていた、と思う。
時々。
魔道士協会とかいうところから使いがきた。
エグザさまに用があるのだと言っていうんだけどあたしがエグザさまは戦争に行ったっていうと諦めて帰って行った。
それでもある時。
諦めきれないように中に通すよう主張する若い男が来た時には、あたしも流石にうんざりしてちょっとだけ魔法で脅かして帰ってもらった。
驚いたように目をみはるその男性の顔。
まあしょうがないよね?
その男はあの時の騎士たちを思い出させた。
あたしがあの時もう少しだけでも戦う力があったら、みすみすエグザさまが奴らの言いなりになんかならずに済んだのに、と。
ちょっとだけ意地悪な気分になったのは内緒。
ほんとにね。
あの時にこの今の力があったなら。
あたしは悔やんでも悔やみきれない気持ちでいっぱいになって。
クロコを抱きしめて思いっきり泣いたのだ。
カラン。
玄関で呼び鈴の音がする。
また誰か招かれざる客が来たのかと、あたしは重い腰を上げて玄関まで歩く。
「どなた?」
声をかけながら階段を降りると扉の向こうから幼い少年の声が聞こえた。
「カペラ。俺」
ああレキシー?
「レキシー? 今日はどうしたの?」
「ああカペラ姉ちゃん。今日はうまい肉が手に入ったからお裾分けさ」
ドアを開けたそこにいたのはまだ10歳にもならないかと思われる少年。この界隈でのあたしの唯一の友人。孤児の少年レキシーだった。
ホクホクの笑顔で両手で串焼きの包みを持ったその姿に、あたしはちょっと微笑ましくなり。
「ありがとうね。レキシー。さあ上がって」
そう招きあげると彼をダイニングのチェアに腰掛けさせ、あたしはお茶を入れようと台所に立った。
ほこりに反射した優しい光がふわふわと漂って。
そんな幻想的な雰囲気が好き。
この部屋の本たちの背表紙があたしをよんでいるようで。
ゆらゆら揺れるチェアにゆったりと座り、お気に入りの本を読む。
最初はとにかく右端から順番に読んでいった。難しい文字ばかりだったからちょっと苦労して。
段々と、その文字と文字が繋がっていって。
いつの間にかあたしにその意味を理解させてくれていた。
不思議だな。
あたしはエグザさまに拾ってもらわなかったら、きっと今頃は生きていなかったかもしれない。
奴隷の一生は短いと聞く。
病気になってもまともに治療してもらえないなんてことはしょっちゅうらしい。
まあそれはそうか。
奴隷の命は治療費よりも安いもの。
死んでしまっても代わりがいるもの。
エグザさまみたいに、まるで家族のように接してくれるそんな奇特な人はそうはいないから。
「わしが戻るまでこの屋敷の管理を、わしの蔵書を全て任せたぞ」
そう言い残して出立したエグザさま。
あたしはきっと、約束を果たす。
エグザさまが帰ってこられるまで、ここでこうして本を護って暮らすのだ。
そう決意して。
一人の食事を用意するのは気乗りがせず、クロコの食事だけは欠かさなかったけどそれでも。
あたしにはずいぶんと時間ができてしまった。
ただ一人ここに残され過ごすのは寂しくて。
あたしもずいぶんと人間くさくなったものだとそう自嘲して。
いつしかここで、この図書室でこうして本に囲まれて1日を過ごすようになって。
あたしはエグザさまの蔵書を片っぱしから読んで。
いつの間にか魂の奥底で理解して。
そして。
気がついた時。
あたしの中にはエグザさまの知識が多種多様にわたって蓄積されて行った。
元々魔法を行使するための素質っていうのかなそういうものがあったのか、あたしは魔法を自由自在に操れる、いわゆる魔女になっていた。
エグザさまの弟子。正当継承者。そう名乗ってもいいくらいには魔法の腕前も上がっていた、と思う。
時々。
魔道士協会とかいうところから使いがきた。
エグザさまに用があるのだと言っていうんだけどあたしがエグザさまは戦争に行ったっていうと諦めて帰って行った。
それでもある時。
諦めきれないように中に通すよう主張する若い男が来た時には、あたしも流石にうんざりしてちょっとだけ魔法で脅かして帰ってもらった。
驚いたように目をみはるその男性の顔。
まあしょうがないよね?
その男はあの時の騎士たちを思い出させた。
あたしがあの時もう少しだけでも戦う力があったら、みすみすエグザさまが奴らの言いなりになんかならずに済んだのに、と。
ちょっとだけ意地悪な気分になったのは内緒。
ほんとにね。
あの時にこの今の力があったなら。
あたしは悔やんでも悔やみきれない気持ちでいっぱいになって。
クロコを抱きしめて思いっきり泣いたのだ。
カラン。
玄関で呼び鈴の音がする。
また誰か招かれざる客が来たのかと、あたしは重い腰を上げて玄関まで歩く。
「どなた?」
声をかけながら階段を降りると扉の向こうから幼い少年の声が聞こえた。
「カペラ。俺」
ああレキシー?
「レキシー? 今日はどうしたの?」
「ああカペラ姉ちゃん。今日はうまい肉が手に入ったからお裾分けさ」
ドアを開けたそこにいたのはまだ10歳にもならないかと思われる少年。この界隈でのあたしの唯一の友人。孤児の少年レキシーだった。
ホクホクの笑顔で両手で串焼きの包みを持ったその姿に、あたしはちょっと微笑ましくなり。
「ありがとうね。レキシー。さあ上がって」
そう招きあげると彼をダイニングのチェアに腰掛けさせ、あたしはお茶を入れようと台所に立った。
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