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黒獣。
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ゴーオーと唸りをあげるその黒塊。
段々とその姿がはっきり見えてきた。
って、え? あれって!
「我が眷属を殺す人間、許さない!」
そう叫ぶそれ。
大きな口をがっと開け。
ギュルルルル!!
っとその口蓋に嵐のような塊が見えたと思ったその瞬間。
ブワオーとした大音量と共にそのブレスがあたしたちに向かって放たれた。
(まずい!)
あたしはとっさに全天に防御シールドをはって防ぐ。
円形に馬車ごと張られたその膜がなんとかそのブレスを防ぐけれど、その周囲の樹々は一瞬にして蒸発した。
とてつもないその熱量に、地面から水蒸気が上がり辺りを真っ白に染め上げる。
(だめ、蒸し焼きになっちゃう!)
ブレスがやんだところでシールドを解除したあたし。
熱量を相殺するために冷気を振り撒き、そのまま自分のレイスに周囲の熱を吸い込んで。
なんとか温度の均衡を保ったところでマキナがグラムスレイヤーを構えその黒塊に向かってジャンプした。
あ、だめ! マキナ!
デューイをその場に降ろし、とっさにマキナの前の空間に転移する。
目標の位相に真那の手を伸ばしその空間を掴む。
そうしてぐるんとその空間と自分のいる空間を入れ替えることで可能となる空間転移。
あたしはその黒塊とマキナの間に割り込んだ。
だめ。マキナ。この子を殺しちゃ、だめ。
#############################
青白く光るグラムスレイヤーを上段に構えその黒い塊に向かって振り下ろした。
一撃で決めるつもりで自分に残されたありったけのマナをその剣に込め。
「だめ、マキナ! この子を殺しちゃ、ダメ!」
愛するマリアンヌの声が聞こえたかと思ったけれど、もう遅かった。
自分のその手を止めることは叶わず、そのまま振り下ろしたマキナのその目の前にあったのは自分の剣で袈裟懸けに斬られた彼女のその背中。
「マリカ!!」
一瞬何が起こったのか、理解ができなかった。
だけれど。
目の前にある現実は、背中に傷を負ったマリアンヌがそのまま力なくその黒塊に向かって落ちていく姿。
「あああああああああああ!!!!」
マキナはその心の奥が真っ赤に染まるのを認識しながら、その場で氷りついた。
⭐︎⭐︎⭐︎
それは。
目の前で何が起こったのか一瞬認識できなかった。
怒りに任せブレスを放った後、無防備になったところに振り下ろされた剣に。
自分の負けを、死を、覚悟した。
ああこのまま無に帰すのも悪くはない、か。
マリア様のおそばにやっと行けるのか。
そう走馬灯のようにあの愛らしい主人の顔を思い浮かべて。
「ああ、クロコ。よかった、無事で」
目の前の少女は自分を庇い斬られ、そして落ちていく。
ああ、ああ、マリア様、マリア様!!
間違いない。彼女は自分の唯一の主人。
聖女マリア様。
姿形は変わっているけれどその心は、魂は、匂いは一緒だ。間違いない!
自分をクロコと呼ぶその愛らしい声。
大好きだった彼女。
とっさにもう忘れてかけていた人の姿に変化したクロコ。
落ちていくマリアを受け止めて抱きしめた。
ああ。
気を失っていらっしゃる。
ダメ、このままじゃ、またこのひとを失ってしまう。
自分の中にあるマナに祈る。
どうか、どうかご主人を、マリア様を助けて。
##################################
真っ白な空間に漂って。
ああ。
失敗しちゃった。
またやり直し、なのかな。
拡散しようとする意識をなんとか繋ぎ止めそう反省するあたしの目の前に。
ふうわりと。
デウス様がその姿を現した。
「あたし、死んじゃいました? 結局失敗しちゃったのかな……」
そう泣き言を漏らす。
「いや、まだかろうじて命の火は繋ぎ止められているようだ。お前の従者、黒獣によって」
ああ。クロコ。
あたしのこと、思い出してくれたのか。よかった。
「しかし。魔王は覚醒したようだぞ」
え?
まさか、マキナ!
「お前を斬ったことに心が耐えきれなかったのだろう。魔王石は完全に赤に染まり、かの者は魔王となった」
「そんな、ダメ。なんとかならないのですか!? デウス様!」
「本来の姿に戻ったのだ。これを押しとどめることも摂理に反する」
そんな……。
「諦めるか。抗うか。お前にはまだ選択肢は残ってはいるが」
「諦めるなんてできません! デウス様は最初っからこういうおつもりだったのでしょう? でも、あたしは嫌です。この世界も、マキナのことも、諦めきれません」
「では最後まで抗うがいい。魔王はもうすでにその場を去った。力を蓄えやがて人の世に恐怖を与える存在になるだろう」
ああ。ああ、マキナ。
ごめん、あたしのせいだ。
「あたし、抗います。マキナに人の心を思い出してもらえるように」
デウスはそれ以上はもう何も言わず。
あたしの意識から出て行った。
目を開けるとそこには女性の姿になったクロコがあたしを抱きしめて泣いていた。
周囲にはすでにマキナはいなかった。
彼のあの特徴的な魔力を感じることは、できなかった。
あたしは手を伸ばし彼女の頬に触れ、ありがとうと一言いうと。
そのまままた意識を失った。
段々とその姿がはっきり見えてきた。
って、え? あれって!
「我が眷属を殺す人間、許さない!」
そう叫ぶそれ。
大きな口をがっと開け。
ギュルルルル!!
っとその口蓋に嵐のような塊が見えたと思ったその瞬間。
ブワオーとした大音量と共にそのブレスがあたしたちに向かって放たれた。
(まずい!)
あたしはとっさに全天に防御シールドをはって防ぐ。
円形に馬車ごと張られたその膜がなんとかそのブレスを防ぐけれど、その周囲の樹々は一瞬にして蒸発した。
とてつもないその熱量に、地面から水蒸気が上がり辺りを真っ白に染め上げる。
(だめ、蒸し焼きになっちゃう!)
ブレスがやんだところでシールドを解除したあたし。
熱量を相殺するために冷気を振り撒き、そのまま自分のレイスに周囲の熱を吸い込んで。
なんとか温度の均衡を保ったところでマキナがグラムスレイヤーを構えその黒塊に向かってジャンプした。
あ、だめ! マキナ!
デューイをその場に降ろし、とっさにマキナの前の空間に転移する。
目標の位相に真那の手を伸ばしその空間を掴む。
そうしてぐるんとその空間と自分のいる空間を入れ替えることで可能となる空間転移。
あたしはその黒塊とマキナの間に割り込んだ。
だめ。マキナ。この子を殺しちゃ、だめ。
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青白く光るグラムスレイヤーを上段に構えその黒い塊に向かって振り下ろした。
一撃で決めるつもりで自分に残されたありったけのマナをその剣に込め。
「だめ、マキナ! この子を殺しちゃ、ダメ!」
愛するマリアンヌの声が聞こえたかと思ったけれど、もう遅かった。
自分のその手を止めることは叶わず、そのまま振り下ろしたマキナのその目の前にあったのは自分の剣で袈裟懸けに斬られた彼女のその背中。
「マリカ!!」
一瞬何が起こったのか、理解ができなかった。
だけれど。
目の前にある現実は、背中に傷を負ったマリアンヌがそのまま力なくその黒塊に向かって落ちていく姿。
「あああああああああああ!!!!」
マキナはその心の奥が真っ赤に染まるのを認識しながら、その場で氷りついた。
⭐︎⭐︎⭐︎
それは。
目の前で何が起こったのか一瞬認識できなかった。
怒りに任せブレスを放った後、無防備になったところに振り下ろされた剣に。
自分の負けを、死を、覚悟した。
ああこのまま無に帰すのも悪くはない、か。
マリア様のおそばにやっと行けるのか。
そう走馬灯のようにあの愛らしい主人の顔を思い浮かべて。
「ああ、クロコ。よかった、無事で」
目の前の少女は自分を庇い斬られ、そして落ちていく。
ああ、ああ、マリア様、マリア様!!
間違いない。彼女は自分の唯一の主人。
聖女マリア様。
姿形は変わっているけれどその心は、魂は、匂いは一緒だ。間違いない!
自分をクロコと呼ぶその愛らしい声。
大好きだった彼女。
とっさにもう忘れてかけていた人の姿に変化したクロコ。
落ちていくマリアを受け止めて抱きしめた。
ああ。
気を失っていらっしゃる。
ダメ、このままじゃ、またこのひとを失ってしまう。
自分の中にあるマナに祈る。
どうか、どうかご主人を、マリア様を助けて。
##################################
真っ白な空間に漂って。
ああ。
失敗しちゃった。
またやり直し、なのかな。
拡散しようとする意識をなんとか繋ぎ止めそう反省するあたしの目の前に。
ふうわりと。
デウス様がその姿を現した。
「あたし、死んじゃいました? 結局失敗しちゃったのかな……」
そう泣き言を漏らす。
「いや、まだかろうじて命の火は繋ぎ止められているようだ。お前の従者、黒獣によって」
ああ。クロコ。
あたしのこと、思い出してくれたのか。よかった。
「しかし。魔王は覚醒したようだぞ」
え?
まさか、マキナ!
「お前を斬ったことに心が耐えきれなかったのだろう。魔王石は完全に赤に染まり、かの者は魔王となった」
「そんな、ダメ。なんとかならないのですか!? デウス様!」
「本来の姿に戻ったのだ。これを押しとどめることも摂理に反する」
そんな……。
「諦めるか。抗うか。お前にはまだ選択肢は残ってはいるが」
「諦めるなんてできません! デウス様は最初っからこういうおつもりだったのでしょう? でも、あたしは嫌です。この世界も、マキナのことも、諦めきれません」
「では最後まで抗うがいい。魔王はもうすでにその場を去った。力を蓄えやがて人の世に恐怖を与える存在になるだろう」
ああ。ああ、マキナ。
ごめん、あたしのせいだ。
「あたし、抗います。マキナに人の心を思い出してもらえるように」
デウスはそれ以上はもう何も言わず。
あたしの意識から出て行った。
目を開けるとそこには女性の姿になったクロコがあたしを抱きしめて泣いていた。
周囲にはすでにマキナはいなかった。
彼のあの特徴的な魔力を感じることは、できなかった。
あたしは手を伸ばし彼女の頬に触れ、ありがとうと一言いうと。
そのまままた意識を失った。
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