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クラムスレイヤー。
しおりを挟む走るマキナの後を空中を滑るように滑降しついていく。
抱いて飛んであげてもよかったけど、それじゃ彼のプライドが許さないだろう。
だから。
あたしはその分後ろをついて。
彼のサポートに回るつもりだった。
村の入り口に着いたところで数匹のゴブリンが徘徊しているのを見つけたけど、そいつらはマキナの姿を見るなり怯えて逃げていってしまった。
やっぱり。
この魔王の魔力紋が魔物にはわかるんだ。
魔力紋、魔力の波紋は人それぞれによって違う。
マキナの魔王石から発するこの波紋は、魔王のそれと魔物には感じられるのだろう。
特に、今のグラムスレイヤーを持った彼の魔力は小さい魔物にとっては脅威でしかないのじゃなかろうか。
一目散に散っていく魔物を見ていると、そうとしか思えなかった。
村の中央にいくつもの穴が空いているのがわかった。
そして。
その穴の一つから強力な魔力を感じたと思って身構えた時。
ギャアオオーと雄叫びを挙げながらドラゴワームがその巨大な顔を持ち上げた。
「うわわわわー!!」
マキナの心に恐怖のような色が見えた。でも、それを振り切って駆け出す彼。
鎌首を持ち上げてこちらに大口を開けて威嚇するそのドラゴワームに向かって一直線に駆け抜け、剥き出しのその胴に向かって剣を薙ぐ。
「あ、だめ」
そう制止しようとしたあたしの声が聞こえなかったのか、ううん、意識がもうそれどころじゃなかったのか。
ドラゴワームの胴にガチんと当たったグラムスレイヤー。
だけれど。
その外皮は剣を通すことなく弾き返した。
「っく」
衝撃をもろに受けた腕の痛みに耐えきれなかったのか、剣はマキナが転がっていくのと反対方向に跳ねて飛んだ。
「危ない!」
ドラゴワームの大きな口がマキナに迫る。
あたしは翼を羽ばたかせ全速力で飛び、ギリギリのところでマキナを拾い上げた。
「すみません……」
シュン、とした顔のマキナ。それはそれでかわいいけどそんなばっかりも困る。
「何も考えずぶつかったってだめ。ううん、考えなくてもいいからちゃんと力を感じないと、だめだよ」
そういうとあたしは真那の手を伸ばしグラムスレイヤーを拾うと手元に引き寄せた。
心の中の奥深くに潜り、ゲートから手を伸ばすように出す。そうすると現実世界に干渉ができる真那の手が伸びる。
人の目には見えないその真那の手で引き寄せられたグラムスレイヤーは、まるで空中を飛んでくるようにあたしの手に収まった。
「え?」
ちょっとびっくりしているマキナ。
でも説明している暇は、ないかな。
「はい、これ。このグラムスレイヤーはね、使う人のマナを吸って力を出す剣なの。ただただ振り回してもただの棒切れと変わらないよ? しっかりと持って、それでもって手のひらから自分のマナをこの子に分けてあげてね」
あたしはそういうとマキナを下ろしグラムスレイヤーを手渡した。
彼は。
うん。表情がちょっと変わった、かな?
少しわかってきたのか、手に持ったグラムスレイヤーを眺め。
そして。
「もう一度やってみるよ」
そういうと今度は落ち着いた雰囲気でドラゴワームと対峙した。
うん。
その調子だよマキナ。
マキナのマナが籠ったグラムスレイヤーは真紅に輝き。
その力ははたから見ててもわかるぐらいに増大していった。
「うおー!!」
再度突進するマキナ。
でもさっきとは違う。
ドラゴワームにもその違いがわかったのか、大きな口をこちらに向け、ブレスの態勢に入った。
ギャォォォォ!!
吐き出されたのは炎のブレス。
灼熱のそのブレスがあたしたちを焼き払おうとしたその時。
マキナのグラムスレイヤーがそのブレスを断ち切った。
炎はちょうどあたしたちを避けるように別れ、そしてそのまま剣を構え突っ込むマキナ。
グラムスレイヤーの刀身はマキナの身長以上にも伸びたように見えたかと思うと、振り下ろされたそれはワームの頭部をまっすぐ縦に切り裂いた。
バッシャーン
血飛沫をあげ地面に落ちるドラゴワームの頭。
それが完全に沈黙するのを確認するかのように、村の奥から人がそろりそろりと顔を出した。
あたしはワームの体を穴から引き出すべく空間操作の魔法を発動する。
最初ちょっと驚いたような顔をしたマキナも、なんだか呆れたように納得して?
まあ、しょうがない。
あたしのこの力はきっとこの世界では異質なものだ。
だからこそ王都にいた頃はほとんどこんな力誰にも見せたこともなかったから、あの人たちはきっと知らないだろうと思う。
流石にここまでの力を一介の令嬢風情が使ったら、聖女どころか化け物扱いされかねないし。
それは避けたかったのもあるんだよね。
まあそう言う場面に遭遇しなかったっていうのも本当だけど。
よっこらと巨体を持ち上げるのは空間操作と重力操作の合わせ技。
上空から吸い上げるのとワーム自体の重さをゼロにすることで可能になるわけだけど。
あ、流石にね?
こんな大技、ワームが絶命してるから安心してできるってもので。
こんな力があるのなら自分で倒せばいいじゃないとか言われるかもなのはまあ置いておいて。
不可能、ではないよ?
あたしの力をフルに使えばこの程度の魔獣倒すのはたぶん容易い。
でも。
そうじゃないの。
あたしが人から脅威を取り除いたところで、それは一時的なものでしかない。
手を差し伸べることはやぶさかじゃないけど、それだけじゃダメだとも思ってる。
人が、本当の意味でちゃんと自立できるかは。
与えられるものだけに頼っちゃダメだってそう思うから。
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