聖女追放。

友坂 悠

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治療。

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 そこにはゴホゴホと咳き込む父の姿があった。
「大丈夫? 父さん。今日は女神の花を摘んで来たんだよ。これを煎じて飲めばきっと良くなるから」
 ベッドまで駆けつけて父の背中をさすりながらそういうマキナに、
「すまない、マキナ。とうさんはもうダメかもしれないよ」
 咳き込みながらそう弱々しく話す父。

「そんな、ああそうだ、今日はお客さんを連れてきたんだよ。医術の心得があるらしいんだ」
 そう言って後ろを振り返った。

「ごめん、君のこと紹介もしてなくて」
「ううん。だいじょうぶ。私はマリアンヌと言います。これでも以前教会の手伝いをしていた事があるのですこしは医術の心得があるんですよ。どうかお父様の様子を観させてくださいな」

 マリアンヌがそう丁寧に会釈をしながら話すと、マキナの母親も「お願いします」というように奥に通してくれた。
 白銀の髪を揺らしゆったりとベッドに近づくその姿に、マキナも、そして彼の両親さえも、女神のような神々しい姿を想い浮かべていた。


 #####################


 これは……、身体中の臓器が傷んでる。栄養の不足、ね。
 村八分が原因で新鮮なお野菜が不足していた事が原因かしら。お父様はきっと足りないお野菜は奥様や息子さんにと、ご自分はお肉ばかりを食べていたのかしら?
 そうで無くても偏食が原因なのだろうというのはわかるけど。

 ままよ。
 まずは治療。
 後のことはそれからだわ。


 あたしは両手のてのひらをお父さんの体にかざして。
 レイスのゲートからマナを放出する。
 金色の粒子が全身に吸い込まれるように入っていくと、その身体中に再生の魔法を行使した。
 表面だけの治療じゃない、体の奥底から本来の細胞の働きを取り戻していく。
 この人本来のマトリクスを、そのまま今の傷んだ身体と置き換えるように再生する。
 そんな、命の魔法。

 再生が行われていたのはほんの数刻。
 次第に彼の顔に生気が戻ってくるのがわかった。



 


 ############################


「おお……神よ……」
「奇跡だわ……」

 金色の光に包まれ次第に顔色が良くなっていく父、レヒト。

「やっぱり、女神さまだ……」

 両親の感嘆の声に思わずそう口走っていたマキナは、知らず知らず目の前に両手を掲げ手のひらを合わせ指を組み合わせ眼前のその少女に向かって祈りを捧げていた。

「気分はどうかしら?」

「ああ、信じられないくらいに体が軽くなりました。ありがとうございます、神よ」

「ちょっと待ってくださいな。あたしは神さまじゃありません。これはただの回復魔法ですよ!」

「いえ、これほどの御業みわざ、正教会でも見たことはありません。こんな身体の中からまるで生まれ変わったように感じる回復魔法などあるのでしょうか?」

「あるのよ! だからね、そんなに驚かないで」

 もう、と困ったように声を漏らすマリアンヌに、レヒトも妻もひたすら感謝の言葉を伝えるのだった。

 ☆☆☆☆☆


 夜も更けて。

 結局あたしは晩御飯もご馳走になってそのままマキナのおうちにお泊まりさせてもらうこととなった。
 お父様(レヒトさま)にもお母様(カクヤさま)にも神様みたいに思われて困惑したあたし、兎にも角にも思いっきり否定しておいたけどそれでもすごく感謝されて。





「さあ、どんどん食べていってくださいな」
 妻のカクヤが袖を捲って料理を運んでくるのをマリアンヌは少し困惑するように見つめていた。

(せっかくお料理を振る舞ってくれるというのだもの、断れないわ)

 そうは思うもののそれでなくともマキナ一家はそう裕福な状態でないことはわかっているし、自分がそんなにもご馳走してもらうことに罪悪感もある。

「ああ、でも」
 そういえば、と、思い出した。
「そういえばお父様のご病気は栄養不足が原因だと思われましたよ? 身体の中の栄養素が長年不足した時におこる症状が出ていましたもの。これからはなるべく偏食はやめて、お野菜も摂ってくださいね?」
 と、かわいく叱るように話すマリアンヌ。

「そうだよ。父さんは肉しか食わないからだめだ」
「そうね。お野菜、なんとか増やしましょうね」

「ああ、気をつけるよ」

 本当は妻や子に食べさせたくて自分は残していたのだろうというのはわかる。
 でも、それではせっかくこうして治った身体もまたダメになってしまう。

 それは避けたかった。

 でも。

(もう心配はいらないかも、ね)

 こうして仲良く家族で食事をしている景色を眺めながら、マリアンヌの胸は温かい気持ちでいっぱいになっていた。

(お野菜を自給自足できるようになればいいのだけれど)

 庭を見ても地面は岩盤でとても植物が育つような環境ではなかった。
 土も、水も、足りない。

 やはりこの村八分の状態をなんとかしなければいけないのかもしれない。
 そう思いながら。

 用意してもらった寝床のお布団に潜り込んで、マリアンヌは何かいい方法は無いかと考えているうち。
 いつのまにか眠りに落ちていた。

 風が少し強めに吹いているのか。ガタガタと揺れる外壁の音が響いていた。
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