レンタル法要応援人 〜死後のお裁きも四十九日〜

朔々

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舞い込んできた契約外の業務

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「こんな難しいお仕事が私につとまるんでしょうか」

「大丈夫。他者に対して丁寧に接しているサトリさんであれば、むしろ適任だと思います」

 嗚呼、推しの笑顔が爽やかである。違う、そんなことを考えている場合ではない。さすが役所の花形の経歴聴取課の仕事である。
 故人の知人に代わって、四十九日法要を行う。形式だけかと思って安請やすうけ合いをしてしまったけれど、生前の善い行いを証明するのだという。これでは弁護人ではないか。

「実際は四十九日に集まってくれた人たちの故人への想いを情状酌量の嘆願書とするんですが、そもそも執り行われない人たちが問い合わせてきてるんですよ」

「つまり、その嘆願書を作成しろと」

 法要応援人として活動するのは、最終裁判のみであるという。既に、地獄へ堕ちてしまうとか、再び人に生まれ変わるとか、そういう詳細は決まっている状況である。

「最近は輪廻転生から解脱げだつしようなんてこころざしの人は少ないですからね。行き先が良くても悪くても、不服申し立てですね」

 人であった時に悟りを開くと、延々えんえんと生まれ変わることをめ、神や仏になっていく。せいを受けること自体をうとむ人よりも、執着する人が大多数を占める。
 記憶喪失になっているせいか、不思議と未練はない。疲労感から解放されるのであれば、消えて失くなっても惜しい気はしないのだ。そもそも、今の自分の立ち位置がどうなっているのかすら分からない。死んでいるのか生きているのか、神か仏か、いや、そんなわけはないから、きっと裁きを下される十王じゅうおうたちの小間使こまづかいかなにかだろうと、ぼんやりと考えている。

「サトリさん? 疲れてますか」

 前言撤回してしまおう。ササヤマさんに会える日々は尊い。煩悩ぼんのうである。推し欲というものが重罪として追加されてしまったら、確実に地獄道行きである。

「僕の信条は、悩むより慣れろ、なんです」

「とりあえずやってみろ、と」

「サトリさんが一通りの流れを覚えるまでは、僕がついてますから安心してください」

 記憶至上、一番長い夜が始まった。
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