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舞い込んできた契約外の業務

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一昨日おとといにサービスを開始したばかりなんだけど、やっぱり最近の人はザ・現代人って感じよね。使えるものは使っておこうみたいな? 使わな損々ソンソンなのかしら」

 エチカさんは自身が新人であった頃の話を始めた。切羽せっぱ詰まった状況なのではないのだろうか。以前の日本人であれば遺された人たちにゆだねていたはずだとか、見た目は若輩者じゃくはいもののようであるが懐古かいこ主義者の立派なおつぼね様なのである。

「それで結局、私は何をすれば」

「そうなのよ! 経歴聴取課の若い子たちで回そうと思ってたんだけど、予約が殺到しちゃったせいで人手不足なの」

 猫の手も借りたい状況になってしまって、コピーと電話番、簡単な書類作成と記入漏れが無いかのチェックをしているだけの私が借り出されるというわけか。そうは言っても、業務内容は簡単でも、死亡者が多いとそれだけ仕事量が膨れ上がるのだ。

「ごめんね。最近ずっと九時五時が守れてないわよね」

「身体的な疲労が募ってるだけで、気持ちは安定してるので大丈夫です」

 目の前の、流行の平行眉が下がり眉になったのを見てしまった。申し訳なさそうに微笑ほほえまれるとたまれない。

「そう、早く思い出せると良いわね」

「……って、結局何をするんですか!」




 詳しい話は出向しゅっこう先でと言われた私の足取りは軽い。経歴聴取課には、あのササヤマさんがいる。穏やかな性格、几帳面な仕事ぶりで定評のある私の推しである。

「あ! サトリさんが来てくれたんですね。嬉しいです」

 推しが駆けてくる。あまりの嬉しさに言葉に詰まってしまう。こんな時の私は、内面の激動とは裏腹に、いつもポーカーフェイスなのである。

「わざわざ迎えに来てくれたんですか」

「サトリさんだったら迷子になることなんて無かったですよね。毎日来てくれてますから」

 眩しすぎる笑顔で後光ごこうが差しているのかと思うほどである。庶務課から書類を届ける度に、課金無用で振りいてくれるのである。

「さっ、行きましょう」

 彼からはいつも白壇はくだんの高貴な香りがする。懐かしさを覚えるが、ここで働き始める前の記憶が欠落している私には、胸が熱くなる症状しか感じられない。
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