神嫌いの神様と一つ屋根の下

朔々

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信仰心の厚い相談者

10話

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「よもぎのアク抜きから始めましょう」

 苑子さんは、戸棚の奥から引っ張り出しておいた大鍋にたっぷり水を入れて火にかけた。

「まず沸騰するのを待たないとね」

 待っている間も慣れた手つきで、たくさん摘んできたよもぎを水洗いしている。璃三郎さんは光の入り方なども気にしているみたい。てっきり、おしゃれ男子が持っている小さな一眼レフカメラを出してくるかと思ったら、「最近のスマートフォンは優秀」とばかりに使っている。

 ええと、『摘んできたよもぎを水洗いする』のね。

 私はと言うと、投稿用に手順と思い付いた文面を、これまたスマホに打ち込んでいく。情緒も何も無いが、これが真誉羅152年の思い出深い風景になること間違いない。

「よもぎはね、摘む時に茎はあまり取らないようにするの。最初の作業で選り分けないといけなくなっちゃうから。あ、媛さん、ザルとボウルを用意してくれるかしら。私の手提げに重曹じゅうそうやすり鉢とすりこぎが入っているから、使えるように出しておいて」

「はい! たくさん持ってきてくださったんですね。重かったんじゃ……」

「俺が、材料持ってきてって言っちゃったからかなぁ」

「ふふふ、そうね。迷ったけれど、実際に持ってきて正解よね。何も無いんだもの」

「普段、デリバリーかカップ麺で暮らしてますから」

「いや、それは体に悪いですって」

「そうよ。神様には長生きしてもらわないとね。長寿はこの国の幸福そのもの」

「健やかに長生きを目指すには無謀な食生活かもしれないなぁ」

 火にかけていた大鍋がぐつぐつと音を立て始めた。

「熱湯になったわね。さぁ、重曹を入れましょう」

「重曹は何のために入れるんですか」

「あら、媛さんもお料理しないのね。アクを出すために入れるのよ」

 璃三郎さんがにこにこと笑っている。料理ができないと言うことを笑っているのではなくて、同じだねと仲間を見つけて喜んでいる。

「柔らかく茹でていくわ。この工程は1、2分で良いの」

「お鍋のお湯ごとザルにあげますか?」

「そうね。お願い」

 パシャリと写真を撮っていく璃三郎さん。苑子さんも嬉しそうである。

「よもぎのあおを鮮やかに出すには、急に冷やすことが大事なの」

 水気を切ったと思ったら、ボウルの上に重ね、蛇口を捻って流水にさらす。

「このまま、10分ほど待ちましょう」
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