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婚約破棄 編

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 「んんっ!ま、まあ……これでも食べて待ってなさいということだろう」
 「あっ!これはさっきのっ!」
 「……うむ、毒もなさそうだ。安心なさい」
 「ありがとうございます」

 食べ損ねた限定品ですっ!わーい、ありがたくいただきます!
 もぐもぐ……ティーカップがものすごく高そうです。落としたりぶつけて欠けることこないように気をつけなくては。
 神殿長はあまり召し上がらないようなのでその分までもらい満足です。

 しばらくお菓子とお茶を堪能していると……部屋の外が騒がしくなった。
 食べるのをやめ、姿勢をシャキッとして聖女モードで待機する。神殿長に口のまわりを指摘されたので素早く拭っておくのも忘れない。

 すると疲れた表情の国王陛下とお怒り気味の王妃殿下が入ってこられた。
 どうやらパーティ自体も早々にお開きになってしまったようです。
 おふたりは椅子に座るなり

 「すまないな……あやつがあんなことをするとは」
 「私からも謝らせてくださいな」
 「いえ、どうせ側妃になるつもりでしたから……」

 あの王子と子作りするくらいなら側妃制度万歳ですよねー。
 聖女や聖人は代々守られるためにほとんどの方が王族と結びつくが、正妃か側妃かは聖女本人が選択可能(側妃の場合、王族とは白い結婚が多く人によっては本当に好きな人を愛人として囲うことも……)となっています。
 白い結婚でも問題ないのは聖女は血筋から選ばれるわけではないかららしいです。

 「……そういえば、殿下は私の悪行を訴えても聞いてもらえなかったと言っていましたけど」
 「何ですって?陛下、どういうことですの?」

 うわー、王妃様完全お怒りモード突入だ……一気に部屋の空気が凍ったよ。ぶるぶる。

 「う、うむ。何度もアルティアがやるとは思えないようなことをしたと訴えてきたのだが……まさか、自分で調べもしていないとは思わなくてな」
 「それで、どうなさったのかしら?」
 「……アルティアがそんなことをするわけないから勘違いだろうと言いました。いつもの戯言かと思ったのが間違いだった……アルティア、本当にすまないな」
 「いえ……私もあそこまで思い込んでいるとは知らなかったので」
 「はぁ。どうやら私たちは息子の教育を間違えたようですね」

 同じ教育を受けた王太子殿下は将来、賢君になると言われているくらいですから……教育の問題ではなさそうですけどね。どちらかといえば生まれ持った性質の問題でしょうか?

 「はぁ……あれほど大勢の前でやからしたからには第2王子は継承権剥奪の上、ふたりを結婚させ幽閉塔に入れておくしかあるまい」
 「ええ、今回ばかりはそうしますわ。たとえクズール侯爵が横槍をいれてこようともあちら念願の王族との縁組みですもの。文句など言わせませんわ」
 「うむ」

 幽閉塔とはやらかした王族が一生を過ごす場所である……ちなみに聖女や聖人だけはそこから厳重な警備(監視)の元、人々を癒す為にのみ出られるらしい。ある意味強制労働ってこと……幽閉塔は石造りで冬は寒く夏は暑いところだそう。もちろん最低限の食事はでますが贅沢などもってのほか。
 民からすれば十分に暮らせる所だそうですが、豪華絢爛な城で贅沢三昧に暮らしていた第2王子にとってはまさしく牢獄でしょうね……

 「そうですか……」
 「それにここだけの話あのアヤネという娘……見極めたいのだ」

 陛下がそう言われるのも無理はないと思います。
 ……だってあのスタンピードが起きたルクシア伯爵領に置いてあった結界石はアヤネ様が作った結界石が張ったものなんですから。
 わざわざ民にアピールするため目の前で作ってみせたと聞いていますから、製作者に間違いはありません。 
 結界は張ると魔物はもちろん人も出入りできなくなるため、常に張ることはなく、緊急事態に使用することが多いです。
 良家のお嬢様などは護身用に身につけていることが多いですが、似たような効果をもたらす魔道具(高価)もあるため神殿が独占しているわけでもないそう。

 大森林やダンジョンが近くにある都市や隣国との国境などには複数は用意してあるとか。
 基本的に結界石を使うと3日ほど結界が持つ為、その間に新たな結界石を用意するなり魔物の種類や弱点を洗いだし倒すなり解決を目指すそう。

 結界石の元となる精霊石はダンジョンや鉱山などから採取でき、結界石にする以外にも色々と使われているため聖女が到着すればその場で簡単に用意できるんです。
 結界石の効果は通常3日程度とされていますが、結界石の大きさや魔力の込め様によってはひと月ほど持つものもあるみたいですね……まぁ、よっぽどのことがなければそんなに魔力込めたりしませんけど。

 ちなみに結界石を使用した場合、結界石を持ち歩けば結界を維持したまま移動可能です。ただし、街を囲うほどの結界を張ると結界石はかなり大きいので維持したまま移動はかなり困難らしいです。よっぽどの力持ちが何人も集まらないと難しいですね。
 閑話休題。

 「アルティア様が制作した結界石をルクシア伯爵が持っていたのが幸いでした」
 「私ですか?」
 「ああ、以前わざわざルクシア伯爵自ら神殿へ来て頼まれ作っていたではないか?……ほら、あのお菓子だよ」
 「はいはい!あの甘酸っぱいのがクセになるお菓子ですね!あれ、美味しかったです!」
 「そ、そうか……」

 そういえば……人のよさそうな貴族のかたが美味しいお菓子を持ってお願いされたような?たしか持ち込まれた精霊石は拳ほどの大きさの石でしたか。
 それでできる限り効果を広範囲にして欲しいと頼まれたんですよねー……お土産のお菓子が美味しそうだったし、なんといっても王都では手に入らない特産品でしたし!その日の晩には無くなってしまいましたけど……うん、とっても美味しかったなー。今回の遠征はそれを探す余裕もありませんでしたからね。残念です。
 あの時は魔力に余裕があったのでお菓子の分も頑張って魔力込めたんですよねー……でもなー、あれで街全部は囲えないと思うんですよ?普通は結界石の大きさが50センチは超えるものですから拳大ならひと区画が精一杯じゃないですかね。臨時避難所として使ったのかな?
 
 ちなみに結界石、ポーションなどの料金は神殿と製作者半々……ただし、材料費は神殿負担。魔力の多い聖女、聖人にとっては良い内職となるんですよ。なので、お菓子をたくさん買っても大丈夫なんですよ!
 
 「ああ、ルクシア伯爵が用意周到で助かったな……」
 「用意周到というよりは心配性ですかな。瘴気もそこまで広がっていなかった為、浄化もすぐできたようで?」
 「ええ、幸い魔物の被害も少なく瘴気にさらされた方も命に別状はありませんでした」
 

 どうも国としても危険な場所には特に結界石を多めに用意するよう達しを出しているそうですが、領主がケチったり結界石自体を信じず用意しない場合もあるんだとか……特に反神殿派の場合。

 複数を使用することで小さな結界石でも効果範囲をカバーできるということも発表されてはいますが、つなぎ目が不安定になることもあるので推奨はされていないそう。ただし、小さな村では木の柵を設置するよりは随分といいからとよく使用されるみたいです。値段も安いですし。
 ……小さな村にまで目を配る領主が少ないこともあり、集落によっては自分で用意して神殿に願いにくることもあります。そういうときはなるべく長持ちするように願いながら魔力込めてますよ?イメージ次第で融通がきくのが便利ですよね。
 だって神殿までくる旅費や精霊石まで自費だっていうんですからせめて、それくらいはしたいなーって……

 そうそう。話は戻りますけど、聖女や聖人にも得て不得手はあるので結界石作りが苦手な方(作ることはできるのですが、結界石がもろくなったり魔力を必要以上に多く消費してしまう)も中にはいます。
 しかし、その方々の結界ですら3日程度は持って当然なのです……要は最低ラインが3日ということです。
それなのに彼女の結界は1時間も持たなかったといいます。候補者の練習したものでももう少し持ちますよ。想定されている時間より早く結界が消えてしまえば人命に関わりますから……

 結界石作りが不得意という方はほかの何かに特化しているものなので、陛下の見極めたいという言葉はアヤネ様もそのパターンかどうかもしくはそもそも聖女でなかったかどうかを……いうことですね。
 アヤネ様を密かに保護し養女にするくらいです……不正の方法を知っていてもおかしくはありません。そうでないことを願うばかりですね……

 「やはりもう1度我々が同席の上、水晶に触れさせるべきでした。申し訳ありません」

 神殿長は悔しそうに手を握りしめている。
 そういえばアヤネ様は落ち人ゆえスキルの儀も公式にはされていないそうで、侯爵家曰くかつて大聖女と呼ばれたサヤカ様と同じ光魔法だとか……えらく自慢してまわっていた記憶がありますねー。

 「光魔法は落ち人の方しかいらっしゃらないので、水晶も認められたのでは?」
 「いや、侯爵家が動いていたならどこまで入り込んでいるかわからぬ故、何を信用していいやら……」

 うーん。アヤネ様の光魔法は本当だと思いますよ?
 アヤネ様が見たこともない光を操っているのを見たことがありますし……
 時々、自分自身をキラキラ輝かせてみせていたのはどういう意味かわかりませんでしたけど……そういえば第2王子と一緒にいる時はよくやってたような気もしますね。あれ、目がチカチカして私はあまり好きじゃなかったんですけどねー……

 「うむ、神殿長が慎重になるのも無理ない」
 「あそこ、私が王妃になったのがよっぽど悔しかったんでしょうね」

 かつて娘を王妃にしたかったクズール侯爵家はもともと反王妃派でなにかと王妃の足を引っ張ろうとしていると聞いたことがあります。
 
 「あのー……そういえば、私デクラン殿下に国外追放だと言われたのですが……どうしましょう?出ていったほうがいいですか?」
 「まぁっ!そんな戯言1ミリも気にしなくていいですわ!」
 「うむ。しかし困ったのぉ」
    「えっと、なにかありましたっけ?」

   困り事ですか?あー、騒ぎの火消しですねっ!無理ですね、今ごろ噂が拡散されはじめているでしょうから。

    「いやの、第2王子がいないとなると第3王子だが……あやつまだ2歳だしの」
 「ええ、それはさすがに……」

 あっ!そうでした。すっかり忘れていましたが、聖女や聖人は代々守られるためにほとんどの方が王族と結びつくんでした。
 第3王子はアルテアさまーって慕ってくださってとっても可愛らしいんですけどねー。さすがに結婚は……

 王太子殿下と結婚なさったシェリル様も聖女ですしね……王太子殿下はすでに聖女を正妃にしてるため選択外なんです。
 聖女ふたりを妻にっていうのは色々なところからの反発がある上に過去にそれをやって暗黒時代を作りそうになった者もいるそうで聖女、聖人を妻、夫に迎えるのは1人までと決まっているらしいです。それにおふたりは珍しく恋愛結婚なんです。シェリル様には候補者時代にお世話になりましたし、仲違いの原因にはなりたくないです。

 「そうだな……わしの側妃か、辺境伯しかあるまいな」
 「私もアルティアでしたら歓迎いたしますわよ!」

 えー、国王様と王妃様ってラブラブじゃないですかー……しかも王妃様、極秘だけど今妊娠中だし……前回も高齢出産だったから私が秘密裏にサポートしたんだよね。
 それもあって第2王子との婚約が進んだんだけど……ふたりは第2王子とはちがって、いつでも気にかけてくれていた。
 第2王子が何かしらやからす度「負担をかけてすまない」と何度も声をかけてくれたし、王妃様も様々な配慮も行ってくれた。まぁ、打算もあったんだろうけど……小さなことならまたかってやり過ごせたけど今回はねぇ……無理ですよ。目撃者多すぎだし、第2王子にはうんざりです。

 うん、そういえばそろそろ婚約者を決めなくちゃって時も国王陛下か第2王子か辺境伯の選択肢だったな……他にも王族はいるらしいけど評判が悪かったり信用できないとかすでに聖女と恋仲だったり。
 辺境伯様は国王陛下の末の弟なんだけど、かなりの変わり者で有名……魔物の生態や遺跡、ダンジョンに興味があってわざわざ辺境伯になったって話で人に興味ないんじゃないかって噂もある。
 それよりか近くにいる第2王子のほうが交流を重ねて徐々に仲を深めていけるだろうってなったんだっけ?全く仲良くなれませんでしたけどね……

 「辺境伯様はなんと?」
 「うむ……あやつは遺跡の発掘許可と人員さえ出せば喜んで迎えるだろう」
 「そうね、きっと簡単に丸め込……説得できるわね」
 
 うん、それくらい研究バ……熱心なんだって。

 辺境には魔物が出る森があってその奥にはいくつか遺跡やダンジョンがあるらしい。
 ダンジョンは脅威もあるけど副産物も多く冒険者と呼ばれる人が辺境伯に多くいて、ダンジョンや森にいる魔物を狩って生活してるらしく、街中は比較的安全らしい。 
 まぁ、私もかつてはそういう生活していたのでそこに心配はありませんね。家族で国を移動する時は野宿なんかも当たり前でしたし。

 「しかし、アルティアのご両親が怒りそうだよな……」 
 「そうですね……アルティア、どうしましょう?」
 「おふたりは寄付もたくさんしてくださって、時々孤児院の子供達に身を守る方法を授けてくださるいい方なんですけどね……」
 「「「アルティア(様)が絡まなければ……」」」

 そうなんですよね。うちの両親プラス兄弟たちは冒険者としてかなり有名なんですよ……私も聖女になっていなければ両親のように過ごしていたはずです。
 うちの一家は昔から色々な国を渡り歩いていて、たまたま旧友の陛下を訪ねた時に忘れていたスキルの儀をさせてもらったら聖女候補になっちゃったんですよねー。10歳の時ですからあれからもう7年ですか……
 あのときは大騒ぎだったなぁー……そのおかげで両親がこの国に定住することになって魔物の脅威が少し減ったんですよね。聖女と強い冒険者がセットでやってきて小躍りして喜んだひとがいたとかいないとか……

 「あのふたり、下手したらこの国から出て行くなんてこと……言い出さないよな?」
 「んー……この国はご飯が美味しいから大丈夫だといいのですが……ほら、わたしが候補者に決まった時もそれでなんとかおさまったじゃありませんか?」
 「う、うむ……」
    「そうだったわね」

 (((美味しいものに目がない一族でよかった……)))


 ばーんっ!!

 「「話は聞かせてもらったぞ(わよ)!!」」
  

 



 
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