109 / 120
第8章
109.女神見習い、仲間が増える(1)
しおりを挟む瞬間移動したい衝動に駆られつつも我慢して歩いていると……血を流している子供とその側でおろおろしている母親が目に飛び込んできた。
「ジョセフ、あれ……」
「ああ、行くぞっ!」
「「「「わかった!」」」」
2人の元へ駆け寄ると
「助けてくださいっ」
「どうしたんですかっ?」
子供の怪我は結構ひどく……衰弱しているみたい。
「突然ホーンラビットがっ!狂ったように襲ってきたんです」
ホーンラビット?そんなに好戦的じゃないはずなのに……まぁ、いい。それは後で考えよう。
「エナ、ポーションは?」
「ごめん……今は初級ポーションしか手元にないわ」
こんなことなら中級ポーションたくさん持って来ればよかった……
「いくら襲ってこない魔物が多いとはいえ血の匂いで寄ってこないとも限らないぞ」
「とりあえず初級でもいいからっ!エナのポーションならもしかするかもしれないでしょ!」
「わかった!」
ストレージから初級ポーションをどんどん取り出しカーラたちに渡していく。でも、この怪我は初級じゃ治らないかもしれない……カーラたちは慣れた手つきで止血し、ポーションを飲ませたり傷にかけているが、やはりあまり効果がないみたい。
「このあたりに教会はないよなっ?」
「ええ……街に戻るしか」
親子の住んでいる村には回復魔法を使える人がいないらしいし、街に戻ると言ったものの走っても結構な時間がかかる。
薬草もないし……あっ、ポーションパウダーなら前に作ったのがあるかも……確かどっかのポケットに入れたのが……あった!
そうですあれです……特許を取得したのに全く音沙汰がないので何度か作ったけど使い所がなく放置していたあれ。
今、手元にある中級は薬包のみ。傷にかけたとしても一応飲んだ方が確実なんだけど、幼い子供には粉は厳しいだろうな……いや、最近ポーションに頼りきりで回復魔法使ってないからレベル的に治るか微妙なラインなんだよね。それだったら確実性のある薬包のがいいと思うんだけど……うーん……
「あ、そうだ!ちょっと待っててー」
とりあえず、ポーションパウダーを傷にぶっかけてそばにいたステラにあちこちのポケットから取り出した薬包をいくつか渡す。
これで時間を稼げるはず……そして近くの草原に走る。行きがけに見かけたからいるはずっ!ていうか頼むから居てっ!
「おい!エナっ!カーラ、俺も行く!」
「ええ、ルカ。エナには何か考えがあるはず……気をつけて!」
「すぐに戻ってくるからそれまでその薬包の中身、傷にかけておいて!」
「「「わかった!!」」」
息切れしながら目当てを探す……
「はぁっ、はぁっ……あ、いたっ!」
「おい、エナ……あれって」
ふと、元の世界でのコマーシャルを思い出したのだ。苦い粉薬をゼリーで包んで飲み込むというコマーシャルを。そう私の目当てはスライムである!
草原にはピョンピョン飛び跳ねるスライムがあちこちに見える。スライム属性は色で判断(赤/火・青/水・緑/風・茶/地・黄色/光・紫/毒持ち)できる。
スライムの色が混ざっている場合(赤黒い場合は何か消化中をのぞく)は、大概スライムが進化している場合が多い。2つの属性が使えるようになっているらしい。
あ、これは行きにカーラたちに聞いたから確かだよ。とりあえず紫は避けて……でもなー、襲われてもいないのにスライム倒すのはなんとなく気が引けたので物は試しに
「スライムさーん、ゼリー分けて!」
と言ってみたが……無反応だった。
そばにいたルカの呆れた顔は見なかったことにしよう。
はぁ、時間もないし倒してスライムゼリーゲットするしかないのかぁ。と残念に思っていたら奥のほうから他のスライムよりひときわ大きな黄緑色のスライムが……ピョンピョンと近寄ってきた。
「エナ、気をつけるんだ」
「わかってる」
スライムの一挙一動を見逃さないように注意深く観察していると……きゅ。手のひらほど量のスライムゼリーをこちらに差し出してくれた。
「もらっていいの?」
スライムは肯定するようにぷるんと揺れた。
「わーい。ありがとう!」
念のため、お皿に受け取ったゼリーを物が溶けたり体に害がないか女神の心眼で確認するとスライムゼリー:食用可能ってなっているので安心だ!
万が一に備え味見してみる……おお、平気だ。さわやかな味がする。本当に美味しいゼリーだ。
「ルカも食べてみる?」
「いや、いいよ……」
「そっか、じゃあ早く戻らないと」
「あ、ああ……」
走ってみんながいる場所まで戻り、さっそく匙にゼリーを乗せポーションパウダーを包み子供に飲ませる。
「はい、これで包めば飲みやすいでしょ?大丈夫だよ、無害だから!」
((((そこじゃないだろ))))
「ほら、早くっ」
「エナ、本当に無害なのよね?」
「大丈夫!私がちゃんと味見したから!」
「そう……わかった」
……若干、子供のお母さんが引いてた気もするけどそんなの気のせいだよね?それで命が助かるなら安いものでしょ?
ゼリーを飲み込んで飲んでしばらくすると血も止まり男の子の怪我もほとんど治ったみたいだ……よかったよかった。
「念のため数日は安静にさせてくださいね」
「そうですよ。いくら怪我が治っても流れた血は元に戻ったわけじゃないので……」
「は、はい!ありがとうございました」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとう」
「おう、元気でなー」
母親に背負われながらもこちらに手を振りつつ去っていく男の子をしり目にそわそわ……私の後ろにはさっきのスライムさん。なぜか私とルカの後を付いてきて背後でずっとピョンピョンしてたけど、こちらを襲うでもなく大人しくしていた。
多分、襲ってきてもルカやジョセフが対応できるようにはしてたみたいだけど……
それにしても……このスライム、言葉がわかるのかな?他の小さなスライムは反応してくれなかったけど、このスライムだけスライムゼリー渡してくれたもんね……わくわく。
はっ!この子を連れて帰ったらスライムゼリー食べ放題かな?じゅるり……
1
お気に入りに追加
308
あなたにおすすめの小説
拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~
藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――
子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。
彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。
「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」
四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。
そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。
文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!?
じれじれ両片思いです。
※他サイトでも掲載しています。
イラスト:ひろ様

側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った
五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」
8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。
神様がチートをくれたんだが、いやこれは流石にチートすぎんだろ...
自称猫好き
ファンタジー
幼い頃に両親を無くし、ショックで引きこもっていた俺、井上亮太は高校生になり覚悟をきめやり直そう!!そう思った矢先足元に魔法陣が「えっ、、、なにこれ」
意識がなくなり目覚めたら神様が土下座していた「すまんのぉー、少々不具合が起きてのぉ、其方を召喚させてしもたわい」
「大丈夫ですから頭を上げて下さい」 「じゃがのぅ、其方大事な両親も本当は私のせいで死んでしもうてのぉー、本当にすまない事をした。ゆるしてはくれぬだろうがぁ」「そんなのすぎた事です。それに今更どうにもなりませんし、頭を上げて下さい」
「なんて良い子なんじゃ。其方の両親の件も合わせて何か欲しいものとかは、あるかい?」欲しいものとかねぇ~。「いえ大丈夫ですよ。これを期に今からやり直そうと思います。頑張ります!」そして召喚されたらチートのなかのチートな能力が「いや、これはおかしいだろぉよ...」
初めて書きます!作者です。自分は、語学が苦手でところどころ変になってたりするかもしれないですけどそのときは教えてくれたら嬉しいです!アドバイスもどんどん下さい。気分しだいの更新ですが優しく見守ってください。これから頑張ります!

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました
言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。
貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。
「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」
それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。
だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。
それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。
それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。
気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。
「これは……一体どういうことだ?」
「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」
いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。
――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる